500mlの愛

 ミルクが無かったからよ。

 ぼろい一口コンロの下で下着のまま仁王立ちして、百均のボウルからコーンフレークを手掴みに食べていた彼女が寝ぼけ眼の私に言い放った。上にシャツを着る頭があるなら下も履け。一応ここは私の家だというのに、否だからこそかもしれない。ぶっ飛ばしてやろうかこの女と思うのは残念ながら〝時々〟には留まらない。

 昨夜そこで吸っていた煙草の灰殻が緑色の梅酒カップの中に沈んでいる。黒い煤と古くなった火薬の匂いはバケツに突っ込まれた花火の搾りかすのようだ。けれど水に浸かった煙草の葉は頭の痛くなるような匂いを肌に髪にじわじわと染み込ませてきて、私はコンビニのレジでそれが有毒であることを思い出す。

 ミルクがなかったから、フローリングに立ったまま、服もまともに着ないまま、毒の匂いの蔓延する空気の中で、抱えた器のコーンフレークを手で食べる。ミルクがあったら、腰を下ろして、きちんと服を着て、スプーンを使ってひたひたになったコーンフレークを一口ずつ口へ運ぶのか。シリアルではなくコーンフレークと呼ぶくせに、牛乳ではなくミルクと言うのか。

 あなたが嘗て受けていた錆びた愛のレプリカが一四八円で買えるなら、徒歩一分のコンビニの蛍光灯を朝陽の代わりに浴びに行ってもいい、とは思う。



さんは街から子供がいなくなった日、コーンフレークをたべながら部屋でかつてきちんと愛のことを知っていたという話をしてください。

#さみしいなにかをかく #shindanmaker

https://shindanmaker.com/595943

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