お遊戯会

 君の友人が連れてきたのは、十に至るかそこらの少年だった。まだ柔らかい骨が軋まんばかりにその白い腕に指をくい込ませ、君の友人は拉致という法に楯突く行為を敢行した。少年は目隠しの布をびっしょり濡らし、喘息のような高い音で忙しなく呼吸していた。君はいっしょに持ち込まれた革鞄の中身を改める。医療器具と工具は見分けがつかないと君は首を捻る。

 「ゲームをしよう」と君の友人は言った。少年は部屋の真ん中に立っていた。君も君の友人も姿勢は指示していなかったし拘りもなかったので、座るなり寝転がるなりしても気にしていなかったのだが、少年は暗闇の中で何度もバランスを崩しながら、それでも裸足で床を踏みしめていた。少年の耳にはワインコルク栓をカッターナイフで削ったものが無理矢理押し込まれていて君たちの会話が届かないようになっていたので、少年は膝をついたら殴られると思ったのかもしれない。

 君の友人が提案したのは、中世の外国の貴族が奴隷を使って行っていたゲームだった。君の友人の指で弄ばれる金槌は時々逃げるように床に落っこちて、そのたびに直立の少年は裸足の裏で感じ取る振動に息を飲んだ。

「彼に『殺して』って言わせた方の勝ちだよ」

 君と君の友人の間には、金槌以外にも工具や文房具が一つずつ等間隔に並べられていた。並べたのは君だった。綺麗に並べてくれと言ったのは君の友人だったから、君は革鞄から丁寧にひとつひとつを取り出して滑らかな床へ置いていった。中身を全て失った鞄はくったりとして横たわっていた。

 君の友人はこれから体を一つずつ壊されていく少年の前に片膝をつき、童話の王子様を気取ってうやうやしくその小さな手を取った。いつの間にか金槌はペンチに持ち替えられていた。少年がゆっくりと左手の小指の爪を剥がされて叫ぶ声が狭い部屋の中でわんわんと響く。君は頭痛の核を呼び起こされそうでたまらず耳を塞いだ。少年の自由な方の手が君の友人のペンチを持つ手を引き剥がそうと引っ掻いているのを目撃し、これで少年の爪を全て剥がさなければならなくなったことにため息をついた。

「君の番だよ」

 君の友人は君と違ってよどみなく舌を回すことができる。口を開くことが億劫だった君は無言で頷いただけで返答とし、獲物を手にとって立ち上がった。少年は膝をついて左の拳を右手で覆い、ひっ、ひっ、と引き攣った声で泣いていた。床には数滴の血が落ちているのみだった。君は泣きじゃくる少年の口へ指を突っ込み、舌を引っ張り出し、上下の唇と舌を纏めてサンドイッチのピックのように千枚通しで貫いた。目隠しの布で吸いきれなかった涙が丸い頬をびっしょりと濡らしていて、少年は今にも気絶しそうにひどく震えだした。

「君は本当にかわいらしいな!」

 君の友人が背中から勢いよく抱きついてきて、君は目の前の少年ごと床に倒れ込む羽目になった。頬を薔薇色に上気させて破顔する君の友人はそれはそれは機嫌がよく、唇に咥えたマンゴーを君に寄越してくれた。腐る寸前まで熟れた甘い果汁が顎までこぼれ、君はそれを犬のように舐め取った。 

 君が少年の口を塞いだからといってゲームの引き伸ばしには大した時間稼ぎにはならない。他に場所がなくなったら歯を抜こうと君か君の友人が言って、千枚通しを引き抜いて少年の言論の自由は解放される。しかし君は諦めの悪いことに、そうなったら舌を切ってしまえばいい、と思っていた。君は少年の永遠の命を願った。

 「コンビニで牛乳味のアイスを買っていたから」少年をさらった理由を君が尋ねると君の友人はそう答え、君はクッキー&クリーム味のアイスクリームカップを購入したことを後悔すべきか喜ぶべきか迷った。今後誰にも見られずコンビニでアイスを買う方法をひっそりと検討した。

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