感謝

「誰だって駅のホームの吐瀉物には近寄りたくないでしょう? それに砂をかけて片付ける駅員さんに同情の目と少しの感謝を向けるでしょう? 私はそれを一度でいいから経験として受け取ってみたかっただけよ」つんとしたアンモニア臭が鼻をつく。僕の爪先近くでひぐひぐ呻く男の股の下に黄色い水が広がっていた。彼女はそれを軽蔑の色を隠しもせずにちらと見てから目を逸らす。真の意味での汚物は対象外ということか。ほっそりとした指が気まぐれにトリガーを押し込む度に派手な音と火花が何度も空に炸裂する。「ありがとう」と半ば呆けたまま口にした僕を蹴りつけて言い放たれた彼女の言葉は難解だった。「ねえ、だから、どうしたら貴方がこいつにレイプされかけて、それを私が助けたってエピソードが有名になるか一緒に考えて欲しいの」わかったからスタンガンを僕に向けるな。ヒーロー、ダメ、脅迫。

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