第7話
平日は学校帰りに猫の集会に参加し、休日は遠出して動物園やドッグランの併設された公園などで補給を行い、ついでに巡回して敵を見つけて消去。
おおむねそのようなスケジュールを組んで実行すること二週間。敵との遭遇は、たったの二度。初日の散歩で早速出会えたために世間は敵で満ち満ちているのではと思っていたが、そんなにひどい有様ではないらしい。
一度目は畑の隅にいたタヌキで、逃げられそうになったので、咄嗟に蹴った。正気に戻ったタヌキに少し痛いけど多分大丈夫ですと言われ、不安なので動物病院へ連れて行った。
怪我は無いから心配はないが、こういった野生動物に安易に触れてはいけないよ、と獣医に注意された。
二度目は河原で白い鳥(サギであるのだが葵は鳥の種別に詳しくない)と遭遇したが捕獲ができずに見逃すしかなかった。
カラスに報告したところ、気を付けておくとの返答をもらって、数日後に河原で白い鳥の死骸を発見した。良く分からないが別の鳥だろうと思い込むことにした。
ソラによると、現在の葵のストックは五回分を超えているらしい。順調に救世主生活を送れている。人間としての日常生活も問題ない。趣味のようなものが充実しているせいか、生活に張りがあるような気がする。
すこし前に思い描いていた世界を守る救世主の姿とは少し違うが、確かに充実していて楽しいのだ。
夕食後に居間でテレビを見ていたら、スマートフォンがムームー鳴りはじめた。あまり上手でない短い文章がたくさん並ぶ。
「チヒロさんから?」
一緒にテレビを見ていた楓の質問に頷く。
「ペットショップにいるウサギが数匹乗っ取られてるらしい。まとめて消したいけど一人じゃ足りないから応援を頼むってかんじ」
「明日行くの?」
「う~ん……急いだほうが良いんだろうけど、明日はホラ、言っただろ、安藤たちと約束してて」
放課後に映画を見に行く約束をしていて、食事は外でとるので必要ないという話を前々からしていた。聞いてるけど、と楓は不満げに。
「ウサさんたち、困ってるんだよ。どうして助けに行ってあげないの?」
「いやいや、そりゃ俺だって助けに行きたいけど明日は忙しいし、また今度チヒロさんと都合の良さそうな日を検討して……」
「今こうしてる間にもウサさんたちは大事な一日を奪われてるんだよ? 人間よりもずっと寿命の短いウサさんにとっての一日は、お兄ちゃんの思う一日よりも、もっとずっと長いんじゃないかな」
楓の剣幕に葵は驚いた。確かに楓の主張は分かる。しかし、友人との約束を反故にしてまで優先するほど葵にとってペットショップのウサギは身近ではなかった。
「……まあ、でも、なりきりの、ごっこ遊びだから」
適当な言い訳をする苦笑いの葵に、楓は迷いながらも返した。
「ほんとは遊びじゃないんでしょ」
「え……」
遊びだよ。冗談だよ。軽く返してしまえばよかったのだが、葵は言葉に詰まってしまった。
楓のまっすぐな目が見つめている。
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