異常

「……………っ、ここは……」


「起きましたか、ラガス坊ちゃま」


目を覚ますと、さっきまでイレックスコボルトと戦っていた場所とは違う場所に移動していた。


「あぁ……移動したんだな」


「はい。血の匂いなども考えれば、休息には不向きな場所ですので」


「それもそうだな……で、なんで移動する時に起こしてくれなかったんだ?」


目が覚めたら別の場所に移動してるってことは、誰かが俺を背負ったまま移動してくれたってことだよな。

別に起こしてくれたら自分で動くってのに。


「一度声は掛けましたよ」


「そうなのか?」


「はい。ですが、相当疲労が溜まっていたのか、起きませんでしたのでシュラが背負い、短剣が飾られていた部屋があったので、そこに入りました」


声は掛けてくれたのか……全然気づかなかったな。


「ラガスさん、起きたんなら飯食べるっすか?」


「そうだな……シュラ、背負ってくれてありがとな」


「いやいや、別に大したことしてないっすよ。イレックスコボルトが本気になった時、何も出来なかったんでそれぐらいはいくらでもやるっすよ」


「私も、シュラと同意見です。ですので、料理が出来上がるまで何もせずゆっくりしててください」


「分かった。そうさせてもらうよ」


二人のお言葉に甘えて、料理が出来上がるまでのんびり待つか。


「……ごめん、ね。ラガス」


「ん? 何がだ、セルシア」


「私が、あの時、しっかり……あいつの、心臓を、貫けて、たら……」


「仕方ないって。俺も、あの一撃で終わると思ってたんだ。あのイレックスコボルトってやつが異常だったんだよ」


慰める為に適当に言った訳ではない。

斬撃刃ならともかく、刺突であれば間違いなく反応する前に貫けると思ってた。


というか、あのコボルトは本当に色々とおかしかった。


「心臓じゃなくても、間違いなくセルシアの雷閃で体を貫かれてた。その後、シュラの鬼火を纏った大切断で両腕も上手く使えない状態になってた筈だ。後、メリルが傷口から毒をぶち込んだっていうのに、訳解らない方法で復活したからな」


「おそらくですが、私の毒は体内の……熱? で浄化されてしまいましたね」


「結局、セルシアが与えた傷も、俺が両腕に与えた傷も治ってたっすよね? あのコボルト、再生のアビリティでも持ってたんすかね」


再生、再生か……おそらく、再生だと傷は治せても、毒はなんとか出来ないんじゃなかったか?


毒で腕が落ちたとかなら、腐食した部分から再生するってことが出来ると思うが……まぁ、そこは今考えても仕方ないか。


「解らない。もしかしたら、自身の生命力を回復力に変換してたのかもしれない」


「自身の生命力を…………そういえば、アルガ王国の学園と国際試合? っていうのをやった時、試合でそういう事が出来る学生と戦ったっすね」


そういえば、そんな学生がいたようないなかったような……そういった戦闘に関する事なら、人間に出来てモンスターに出来ないことはない、か……いや、逆に常に野性の中で生きているからこそ、そういう事はモンスターの方が出来る個体が多そうだな。


「いきなり身体能力が上がったのも、そういう理由か…………そういえば、俺がイレックスコボルトを倒した時、あいつの体には殆ど切傷がなかったように見えたんだが」


「見間違いではありませんよ。なので、おそらく生命力を回復、身体強化に使用したとみて間違いないかと」


「そうか……咄嗟に出来るようになったのか、それとも元から出来たのかは知らないが……本当に、恐ろしいモンスターだったな」


仮に元から出来ていたなら……もしかしたら、ルーフェイスと戦う時の為に使わないで残しておいたかもしれないな。


あれだけの戦闘力があるなら…………ルーフェイスといえど、緊張感の抜けない戦いになった筈だ。

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