良い匂い?
「……ダンジョンを探索した時とは、また雰囲気や匂いが違うな」
「シュラ、あのダンジョンとそこら辺を比べたら駄目だろ」
別に比べられたところで、遺跡やダンジョンが文句を言ってくる訳じゃないのは解ってる。
ただ、墓場はアンデットモンスターが主に出てくるダンジョン。
当然ながら、雰囲気は全体的にどんよりしてるし、死臭とかが常時漂ってる。
ただただ最悪な空気なのに対して、この地下遺跡は………………遺跡、特有の匂い? って言うのを感じるな。
「ラガス坊ちゃまの言う通りよ、シュラ。あそこは最悪の一言に尽きる場所よ」
「あぁ~~~……下に降りれば強いモンスターと戦えたが、確かに雰囲気とか匂いはクソったれな場所だったな」
「…………なんだ、か。悪くない、かも」
「セルシアもか? 俺もだよ。今更って感じかもしれないけど……俺、この匂いが割と好きかもしれない」
なんて言えば良いんだろうな。
森には森特有の匂いがあって、入ったことがないけど、新居には新居特有の匂いがあるらしい。
そんで、遺跡には遺跡特有の匂いがある。
良い匂いか悪い? 匂いとかそういうのは知らないけど……うん、やっぱり良い。
「メリルはどうだ?」
「私は特にその辺りを楽しむ余裕はないのですが…………悪くはないのではないですか?」
「おいおいメリル、せっかくの巨大地下遺跡だぞ。雰囲気だけでも楽しまないのは損だろ」
……シュラの奴、一応学んではいるみたいだな。
ここで雰囲気だけでも、って言葉を挟まなかったら絶対に説教が始まってた。
「……貴重な体験というのは否定しませんが」
「ワゥ」
「ん? 敵か、ルーフェイス?」
「ワゥ!」
まだ地下遺跡に入ってから数分程度しか経ってないんだけどな。
さてさて、記念すべき最初の相手は…………うげ、百足系のモンスターかよ。
「あの色……ポイズンセンチネルですね」
「毒の攻撃に気を付けろってことだな」
「そうですね。それと、可能であればなるべく中身を傷付けずに討伐したいですね」
メリルがこう言うってことは、結構使える毒を持ってるってことか。
「ッ!!!!!!」
「オッケーオッケー、とりあえず一体は俺が相手をする」
「じゃあ……もう一体、は、私が、戦る」
「頼んだ」
ランクは……Cか。
壁や転移を這いずり回る動きは鬱陶しいが、俺たちだけで十分だろう。
「ッ!!!」
「っと、とはいえ……中身を傷付けずに倒すのは、ちょっと難しいかもな」
口から毒液を発射してきた。
思ったより攻撃のスピードがある。
「まっ、それなら魔弾を撃ちまくるだけの話だ」
「っ!!??」
少し離れた場所でセルシアが戦ってる。
必要以上に毒液を撒き散らされるのは面倒だ。
なるべく顔面近くに撃てば、発射し辛くなるだろ。
「数は……五つもあれば、十分だな」
「っ!! ッ、っ!?」
正直なところ、毒液の発射だけじゃなくて、移動スピードも速い。
そこら辺に生息してるポイズンセンチネルよりも速いだろうな。
ただCランクのムカデなら、魔弾は三つで十分だ。
多分、長く生きてきた個体。
「それでも、撃ち抜けば良いよな」
「っ!!!! …………ッ!!!!!!」
「それは知ってる」
操っていた五つの魔弾に気を取られてるところに、頭部へ貫通力を高めた魔弾を撃ち込んだ。
普通のモンスターなら、頭部を撃ち抜けば死んでくれるけど、昆虫……昆虫系? のモンスターは、そう簡単に死んでくれない。
「おらっ!!!」
「っ!?」
だから、魔弾を囮にして貫いた頭部? を蹴り飛ばす。
脳か小脳だか知らないけど、全身を含めて徐々にダメージを与えれば、最後の足掻きも早く終わるだろ。
「っ、っ………………ッ!!!!!」
「そんな事だろうと思った」
最後の最後に、動かなくなったと見せかけて、毒液を思いっきり噴射してきた。
魔弾を伸ばせるだけ伸ばして五つを花状にくっ付け、回転させて弾くことで防御に成功。
「ラガス、そっち、終わった?」
「おぅ、終わったぞ。そっちも……終わったみたいだな」
「うん。斬って、後は逃げた」
ある程度堪能した後に斬って、大幅に残ってる部分の動きが止まるまで待ったんだな。
断面は焼け焦げてるのを見ると、電熱を利用して斬ったってところか?
メリルの注文通りの結果だな。
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