逃したら駄目な時期

「なぁ、ラガスさん。ちょっと良いか」


「ん? どうした、レグディス」


今日は夕食を食べ終えた後、この前みたいに男女別で別れて呑んでる。


ちなみに、シュラは全然平気みたいだが、ヴェルデは潰れる一歩手前になっていた。


「……今度、Bランクのモンスターと遭遇したら、俺らだけで戦らしてくれねぇか」


なんだが、覚悟が決まってる? って感じの顔だな。

まぁ、そこそこカクテルを呑んでるせいで、頬が赤くなって……うん、ちょっと締まらないけど、レグディスがマジだってのは伝わってくる。


「そっか。お前らが真面目に本気で頑張ってるのは知ってる。Cランクが相手じゃあ、四人で戦れば絶対に負けないってのは解ってる……死に急いでるなんて思わない」


「…………っ、けどって言いたげだな」


「隠さず言えば、躊躇ってる部分はある」


ハンターである以上、冒険の中で死ぬのは、そいつらの自己責任だ。

俺らがどうこう言う必要はないし、そこら辺の名前も知らないハンターが死んだって聞いても、なんとも思わない。


けど……こいつらは、もう違うからな。


「悪いな。これに関しては、レグディスたちの頑張りが足りねぇとか、お前らの問題じゃねぇ。ただ、俺が臆病なだけだ」


「いや、それは……あれだ。別に、悪いなんて思っちゃいねぇよ。つか、最初の俺らの態度を考えりゃ、ラガスさんにそう思ってもらえてるってのは、なんつうか……こ、光栄? って感じだ」


光栄、か。

そんな事言ったって奢りはしないけど、悪くない気分ではあるかな。


「けどよ、やっぱそこが次……俺らが乗り越えなきゃならねぇ壁だと思うんだよ」


乗り越えなきゃいけない壁か。

レグディスたちのレベルを考えれば、そう思うのも当然っちゃ当然だな。


Cランクが一体だったら、全く問題無い。

二体……三体でも、そこまで大した問題にならない。


この未開拓地で現れるモンスターの基準でそれだ。

他の地域に生息するBランク……それこそ、ダンジョンに出現するBランクモンスターならいける。ゴーサインを出せる。


けど、レグディスは未開拓地に生息してるBランクモンスターを自力で倒したいって言ってるんだよな。


「それは、他のメンバーも同じ意見か?」


「ぼ、僕はレグディスの意見に、賛成してます、よ」


「おっ、よく言ったじゃねぇかヴェルデ!! マスター、俺とこいつに美味いカクテル追加で!!!」


シュラの奴……がっつり酔ってはないみたいだけど、ちょっとテンションが上がっちゃってるな。

アルハラになるか? とりあえず潰れそうになったらストップさせねぇと。


「んで、フィーマとファールナも、同じ意見なんだな」


「おぅよ……あんたらからしたら、俺らはまだまだだろうけど、それでも、この時期を逃しちゃ……駄目な気がするんだよ」


逃しちゃ駄目な時期?


……………………わ、解らん。

多分、人生経験が圧倒的に足りないからだろうけど、下手にうんって頷けない。


「…………その時期ってやつを逃すと、どうなるんだ」


「……クランの先輩から聞いた話だが、いざ前に進もうと、一つ上のステージに行こうとすると足がすくんじまうらしい」


つまり、本能的に強くなることよりも、身を守ることを優先してしまうって事か。


「勿論、俺が感じてる時期ってやつが正しいのかは解らねぇ。でも……俺は、俺らがここから先、更に上に上がれるチャンスは、今だと思うんだ」


レグディスだけじゃなくて、ヴェルデたちも同じって思って良いんだろうな。


逃したら次がない時期、か…………正直、まだ納得は出来てないけど、多分俺がこいつらの事を心配に思ってる気持ちよりも、そっちの方が大事なのは間違いなさそうだ。


「……分かったよ。なるべく邪魔にならないように、俺らは離れてる漁夫の利……他のモンスターの邪魔が入らないように見張ってる。だから、ちゃんと生きて帰って来いよ」


「っ! おぅ!! 勿論だぜ!!!! なっ、ヴェルデ!!」


「お、お~~~~~ぅ」


……うん、頼りなさそうに見えるのは今だけだ。

本番はヴェルデもしっかり戦ってくれるだろう。

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