ついつい拳が

「おい、てめぇ。何様のつもりだ」


「別に何様のつもりでもねぇよ。同じ種だから軽く忠告しただけだ」


ん~~……まっ、年齢の問題だろうな。

もっとシュラの年齢が上で、実力ゆえの体から零れるオーラ? 以外にも貫禄があれば素直に忠告を聞いたのかもしれないけど……って、今それを考えるのは無駄か。


「ファイルトロールはトロールと同じBランクだが、性格は超好戦的。腕力も通常のトロールより上。今のお前じゃ、適う見込みゼロだろ」


「ッ!!!!!」


今の、って言葉はシュラなりの優しさだろうな。

絡んで来た鬼人族のハンターの全てを知らないからこそ、どれだけ努力したところでファイルトロールに勝てない、とは断言しなかった。


シュラにしては、本当に優しい気遣いだと思う。


「がばっ!!!???」


まっ、それが原因で引き金が引かれてしまい、先に……物理的には、先に向こうが手を出してきた。


そしてシュラはあっさり拳を躱し、カウンターのパンチをバッチリ決めてしまう。


「あっ、悪い。つい」


どうやら、シュラとしては話し合いだけで終わらせるつもりだったんだろうな。

俺としては成長を感じられて以上に嬉しい。


「ついではありませんよ、シュラ」


「でも、先に手を出してきたのは向こうだろ。それに、あいつが……もしくはあいつらがファイルトロールに挑めば、どう考えても死ぬのは解りきったことだろ」


「それはそうですが、もう少し良い言葉はなかったのですか?」


殴り飛ばされた鬼人族を受け止めた者たちの目に怒りが宿った。


メリルはただシュラの考えを肯定しただけだが、間接的にお前たちは弱いと言ったのと同じ……ではある。


「おい、お前ら。昨日この二人に転がされたのを覚えてないのか?」


「「「「ッ!」」」」


「一日やそこらで実力が大きく変わることはないんだ。解ったら、これ以上俺たちに絡まないでくれ」


有効的ならまだしも、ここまで面倒な理由で絡んでくる奴らとは、関係を持とうとは思えない。

向こうかあらの一方的なラブコールも勘弁してくれ状態だ。


「復讐か敵討ちかは知らないけど、二人の言う通り無駄ではあるから、大人しくしといた方が身のためだぞ」


どうせ怒りを買うのは解ってる。

関係を持ちたくない相手だからどうでも良いんだけど……それでも、一応は忠告しておきたくなる。


他の連中……取り巻き? は知らないけど、シュラの言葉通りあの鬼人族のハンターは見込みがあると思う。

でも、奇跡が連発したとしてもファイルトロールに勝てるとは、一ミリも思えない。


「ッ……お前に、俺たちの何が解かる!!!!!」


「俺らはこの街に来たばかりなんだ。お前たちについて詳しく知る訳ないだろ。ただ命を無駄にするなって忠告しただけだ」


それだけ言い残し、ハンターギルドから出て、適当な料理店を探し始める。


「なんて言うか、あれだよな……本当に復讐や敵討ちが目的なら、自分たちの立場に酔ってるな~って思ったな」


「残酷ですが、その通りですね」


「……頑張って、も、無理、だね」


やっぱりセルシアも同意見だよな。


別に復讐や敵討ちなんて、それに時間を費やすだけ無駄だなんて言わない。

当事者たちにしか解らない気持ちってのは絶対にある。


でも、あいつらには実行出来るだけの実力、可能性を全く感じられなかった。


「大人しく忠告を聞いてくれるっすかねぇ」


「……仮に周りのベテランたちが俺たちの考えを肯定してくれたとしても、探すのを諦めないだろうな」


大人達が言って諦めるなら、俺たちから忠告で思い留まる筈だ。


……まっ、彼らとは友人でなければ知人でもないんだ。

俺たちは俺たちのペースでファイルトロールを探そう。


そして翌日、休むことなく探索を続けていると、ようやくお目当ての……ではないが、トロールを発見。


「ラガス、私が、やれるところまで、やる」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る