バックレたところで

ジークの訓練に付き合う中、当然魔靴の依頼が届く。


基本的にどこの誰で、どういった魔靴が造って欲しいという内容が書かれた手紙を貰い、それに返事を書く。

そして相手が俺のところに素材を運んでくれたら、ようやく作業に取り掛かる。


依頼人は騎士や冒険者が大半。

それなりの材料が揃わなきゃ、そもそも魔靴を造る意味がない。

という訳で、ある程度依頼料金が高くなる。


それ関連で学園にクレームの手紙が届いたことがあったが、俺は全無視した。

ただ、後で学園側がそのクレームした連中にお話ししたり、裏で色々とやったとかやってないとか……なんて話をチラッと聞いた。


まっ、クレーマーを大人しくさせてくれるのは、素直に有難いと思ってる。


そんな訳で、授業が終わって自主練は行い、夕食を食べ終えてから寝るまでは、殆ど魔靴を造ることに費やしている。

それが一段落したら、風呂に入って就寝。


我ながらハードな一日を送ってると思うよ。


学校がない休日も魔靴を造りに時間を費やすことが多い。

金を持ってる騎士の人は当然として、ハンターたちもかなり依頼してくる。


ハンターたちの方が高価な素材を送ってくることもあるので、相変わらず制作時には緊張感が消えない。

それはそれで良いことだとは思うけど、真面目に精神力がゴリゴリに削られる。


「……金がどんどん溜まってくな」


「えぇ、そうですね。既に自由に扱える総資産は、そこら辺の貴族よりも多いでしょう」


だろうな。

約二年前の一件で両国王様から迷惑料を大量に貰ったし。


一応休日とかには王都のお高いレストランとかで夕食を食べてるから、それなりにお金は使ってるんだけどな……店で売られている珍しい素材や鉱石とかも購入してるけど、もう少し経済を回した方が良いか?」


「何か難しいことでも考えてるのですか?」


「いや、大金を持つだけ持つのは良くないんだろうな~って思ってさ。多少は経済を回した方が良いだろ」


「……週に一度は外食してますし、魔靴に使用するお高い素材も購入しているのですから、十分と思いますが」


「でも、金は貯まる一方だろ」


人によっては、俺へ支払う魔靴の依頼料金を、依頼人がバックレることもあるのでは? と思うだろう。


ぶっちゃけ、一度支払いをバックレようとしたアホがいた。

実家の爵位とかを考えれば、依頼人の方が一応立場が上なのは間違いない。


でも、色んな人とお知り合いだから、商人ギルドの方で作ったギルドカードの方に金が振り込まれてないと解り、直ぐにお知り合いたちに連絡。


そしてら速攻でお縄に捕まった。


貴族なんだからあの手この手を使って、そういうあくどい事が出来てきたんだろうけど、やっぱり純粋な悪事は良くないってことだ。


「貯まる一方ではありますね。しかし、何に使用するのですか?」


「……そこが問題だよな」


ハンターになるんだから、そういう道具を買えば良いんだが、ぶっちゃけ今は買う必要ないんだよな。


メイン武器は俺とセルシアも良い物を持ってる。

そして二年前のオーガの群れを討伐した一件で、俺がハンターの道を進むという情報を得ていた貴族たちから、お礼の品が大量に届いた。


その中には、ハンターとして活動するうえで必要になる物も多かった。


「いっそ、オークションに参加してみるのはいかかでしょうか」


「オークションか」


「一般的な店では手に入らない素材も、そこでなら手に入るかと」


まだハンターではないのだし……ありっちゃありだな。


という訳で、一か月後に開催されるオークションにセルシアたちと一緒に行くことが決定。


服装は制服で良いのでは? と思っていたが、メリルに正装を着せられた。

オークションの開催主に参加したいと伝えたら、開催日……学園の方まで馬車をよこしてくれた。


気分は意気揚々な状態で、オークション会場へと入った。

参加している人たちが貴族や有名な豪商ばかりなので、やはり緊張感が割り込んできたが、それでも今はワクワク感の方が勝っていた。

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