あの怪我はどうなった?

合宿が終わった二日後、国際大会に出場する生徒たちは王国が用意した馬車に乗り、屈強で賢才な護衛たちに守られながら開催地へと向かっている。


「……暇」


「はは、仕方ないよ。開催する場所はそれなりに遠いからな」


位置的には大体ガルガント王国とアルガ王国の真ん中。

だが、領土的にはガルガント王国側。


アルガ王国としては自国に開催地を作りたかっただろうけど……前科というか、一件やらかしてるからな。


「そういえば、あの第三王子が参加するらしいな」


「そう、なんだ」


……うん、バチバチに興味なさそうだな。

この塩反応……ジークの時より酷い。


セルシアの元婚約者であるジークも一年生の頃と比べれば、非常に成長している。

あれから時が経ったからか、ジークに仕えるメイドと執事も、今では俺に敵意を向けることはない。


セルシアもジークが強くなったと認めてるからか、偶に模擬戦を申し出てくると、ちょっと嬉しそうな表情で相手をする。

まっ、残念ながら一度も勝ててないけどな。


「第三王子と言うと……昔、ラガスが完膚なきまでに叩き潰した男、か」


「そうだな……うん、かなり良い感じに叩き潰した」


今でもどうやって潰したか覚えてる。

そういえば、あの怪我というか不格好な治療を、どうにかして覆せたのか?


第三王子だから種がなくなっても問題無いとは思うけど……治すには、一度砕いて再治療……もしくはエリクサークラスの回復薬を使わなければ、絶対に治らない。


「我が主人ながら、恐ろしい方法で叩き潰していましたね」


「おいおい、お前が言うか? メリルが俺の立場だったら、絶対に毒を使っていただろ」


「えぇ、勿論」


こいつ……なんで堂々と答えられるんだよ。


「ラガスならではの潰し方、だな」


「確かに、俺以外に出来る人は……あまりいないかもな。後、あの第三王子は俺たちが帰る時まで面白かった」


普通、自分の我儘が通らないからって、城内で魔法をぶっ放すか? って話だ。


「それも聞いたな……恋は盲目と言うが、本当に恐ろしいな」


「お、おう。そうだな」


その言葉は、リーベが言うと本当に重みを感じるな。


「ところで、その第三王子が国際大会に出場するのであれば、二人に絡みに来るのではないか?」


「どう、なんだろうな?」


あの件があってから、一応警戒は続けてきた。

でも、あのバカ王子が王族という権力を使って、セルシアを攫おうとする気配はなかった。


一安心と思ったが、国際大会に出場してくるとなると、確かに何か考えてると思っても良さそうだな。


「多分、碌に、何も出来ない、と思う」


「……それは何でだ?」


あの我儘っぷり、セルシアをマジで欲しているところを考えると、またやらかしてもおかしくない気がするけど。


「もう一度、何かすれば、アルガ王国の恥、害になる。あれが、最後の、チャンス」


俺としては、もう十分に恥であると思うが……人間であれば、一度ぐらいはやらかすか。


「それもそうか……だが、ラガス。一応警戒はしておいた方が良いと思うぞ」


「だな」


とは言っても、今回の旅の護衛はマジで規模と戦力が半端じゃない。


モンスターは戦力差など考えずに襲ってくることが数回あったが、どの襲撃も騎士や魔法使いたちによって瞬殺。


盗賊に関しては……道中、一度も襲ってくることがなかった。

馬車の外装を見る限り、明らかに爵位が上の者たちが乗っていそうだから?


それも理由の一つかもしれないが、一番は途方もない戦力差があるから、だろうな。


数、質、どれを取ってもそこら辺の盗賊団が勝てる相手ではない。

盗賊との戦闘に慣れている騎士も多く、並みの奇襲が通用するわけがない。


昼休憩の時とかに、体を軽く動かすことは出来たけど、やっぱり俺やセルシアとしては運動不足を感じずにはいられない。


そんなこともあってか、目的の街に着いてから二日後の……翌日に大会を控えた日は、少し動き過ぎた。

少し反省はしてるが、個人的には仕方なかったんだ……そう、本当に仕方なかった。

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