候補から除外
ラージュの説得の甲斐あり、イーリスの怒りは収まった。
収まったが……完全に俯き状態になってしまったのだ。
(本当に面倒なお方ですね……正直、この方はラガス坊ちゃまの側室には相応しくありませんね)
抱っこできる赤ちゃんが増えるならば、イーリスがラガスの側室になるのもありだと考えていたメリル。
しかし、今回の旅でイーリスの面倒な点が更に増えたと感じてならない。
旅が始まってからは少し丸くなったかもしれないと思えたが、結局それは幻想。
ラガスに対して本当に気に入らないところがあれば、容赦なく怒り、責める。
(常識が違うのだから諦めと言われたからといって、そう簡単に諦められない、認められないという感情は解らなくもありませんが……やはり面倒と思ってしまいますね)
自分の言葉では、いくら説明しても納得しそうにない。
そう思ったからこそ、ラガスは自分の言葉でイーリスを説得しようと思えなかった。
この場にラージュがいたからなんとか収まったが、もしいなければ……メリルは、強制的にイーリスを眠らせようと考えた……かもしれない。
たまにラガスをからかうメリルだが、メリルの中で一番大事な存在はラガス。
そんなラガスに対してここまで反抗的な態度の人物を、自由にさせようとは思えない。
(リザード公爵様は、ご息女の頑固さをしっかり理解してるのでしょうか?)
なんてことを考えながら、雪原で遭遇したモンスターを軽々と捻じ伏せる。
今のところ、恐ろしいアビリティを持った個体や、あまりにも多すぎるモンスターが襲ってくる、なんて厄介で面倒な事態には遭遇していない。
そのため、メリルも考え事をしながら戦える余裕がある。
(娘とラガス坊ちゃまが仲良くなり、あわよくば婚約まで話を進めたいと考えているのでしょうけど……全員に喧嘩するほど仲が良い、という関係にはなりませんのに)
そういう関係があるのは否定しない。
日頃から喧嘩が絶えないが、それは互いを信頼して合っている証拠でもある。
そんな関係があるにはあるのだろうと思うメリルだが、それが自分の主人であるラガスとイーリスに当てはまるとは到底思えない。
(その価値観、常識の違いによって、二人の仲は最悪……というより、イーリス様が完全に嫌った形でしょうか。ラガス坊ちゃまは……やれやれ、面倒な子だな。程度にしか思ってそうですね)
先程の一件が、今回の依頼を達成する中で……強敵との戦いで、不利になる要因には思えない。
ただ、今の不安定な精神状態であるイーリスは常識なところ、邪魔。
次からの探索では、宿で一人待機してほしい……そちらにルーノとリタという戦力を割いても良いので、不安になる要素は宿で待機してくれ。
それがメリルの本音だが、ラガスの従者であるメリルがそんな大胆な発言を出来る訳もない。
「ラガス坊ちゃま、明日からもイーリス様の同行を許して良いのですか」
「あいつを宿に残らせた方が良いって話か?」
「そうです」
なので、主人であるラガスに自分の考えを伝える。
正直なところ……本当は良くない。良くないが、メリルにとってイーリスが勝手に死ぬことなど、個人的にはどうでも良い。
しかし、そのイーリスの存在によってラガスやセルシアに危機が及ぶことだけは許せない。
「それは俺も考えたけどさ……納得してくれると思うか?」
「セルシア様を理由に使えば、問題無いかと」
「……はは、なるほどな。確かにセルシアを理由に説得すれば……ついでに、ラージュさんにその説得を頼めばいけるかもな」
本当にナイスアイデアだと、メリルは頼りになる存在だと思ったラガス。
しかし……ここを甘いというべきかはまだ判断できないが、ラガスは一度だけイーリスにチャンスを与えようと決めた。
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