明確なズレ

「……あれだ、とりあえずラージュさんの言葉通りだと思うぞ。俺たちとお前じゃ、多分常識がズレてる部分がある」


これを受け入れないと、目の前で起こった現状に納得出来ないというか……その怒りをどうしたらいいのか分からなくなるだろう。


「おっと、言っておくけど俺がこういう……モンスターとの実戦が日常的? そんな世界にセルシアを無理矢理入れた訳じゃないからな」


これはキッチリ言っておかないと、絶対に誤解される。


そりゃぁ、確かに背中を押したところはあるかもしれない。

ただ、セルシアはぶっちゃけ、俺と出会う前から戦うことが結構好きだったと思う。


普段から俺やメリル、シュラ、ルーフェイスと模擬戦してるけど、そういう時のセルシアは若干口角が上がってる。


無意識なのかもしれないけど……いや、無意識だからこそ、そういう思いが本物ってことだろうな。


「そうでしょうね。ラガス君が無理矢理自分の世界に大切な人を連れ込むとは思えません」


「ど、どうも」


ん~~~、随分とラージュさんからの信頼が強い気がするけど、気のせいか?

絶対に気のせいではないと思うんだが……やっぱり、イーリスをコテンパンに倒して壁になったからか。


俺としてはそれだけで? って感じではあるけど……ラージュさんみたいな味方がいるのは、正直嬉しいところもある。


「イーリス。私は、さっきのスノーベアーみたいな、モンスターと戦うことが、怖いとは思ってない、よ」


「それは……本当なの?」


「うん、本当。だって、今まで……ずっと頑張ってきた、から」


俺もそうだけど、セルシアもずっと幼い頃から頑張ってきた。

それはセルシアの中で、確かな自信になってるってことだな。


「本人もこう言ってるでしょ。イーリス、現実を受け入れなさい」


「……分かり、ました」


こうして頼りになるラージュさんのお陰で、イーリスの怒りは収まり、再びヘイルタイガーやアイスドラゴンの探索を再開。


その間、イーリスのテンションは超下がっていた。

その場から一歩も動かないほど気力が低下したりしてはいないけど……傍から見ても、本当に気落ちしてるのが解る。


あれだよな……や、闇落ち溶かしてないよな。

常に顔を下に向けてるから、どんな表情してるのかあんまり見えないんだよな。


闇落ちとかされたら……リザード公爵様に何を言われるか。


「ラガスさん、あまり表情が優れないみたいっすけど、大丈夫っすか?」


「おう、大丈夫だ。ちょっと考え事してたというか……とりあえず大丈夫だ」


これに関しちゃ、相談したところでどうこう出来る問題じゃない。


いや、別に俺は一つも悪いことしてないんだけどな。

だからといって、常識がズレてる部分がある訳だから、あんまりイーリスが悪いとも言えないけど……頼むから、変な気だけは起こさないでほしい。


なんてことを考えてると、今度はスノーウルフと遭遇。

数は六体と少々多い。


確か……雪隠れ? ってアビリティを持ってるんだよな。


「あんまり目で追うなよ!!」


「うっす」


雪隠れを発動させると、雪が降っていない状態でも、周囲に雪があれば姿が一気に捉えづらくなる。


なのであまり目で追わず、足音や匂い、気配感知などのアビリティを使って、居場所を捉えるのが得策らしい。

まぁ、Dランクだからあまり攻撃力は高くないし、素早さも……雪の上での走りは向こうの方が慣れてるけど、脅威に感じるほどではない。


今回の戦闘にはメリルやキリアさんたちも参加し、スノーベアー戦と比べて、短時間で終了。


ちなみに、意気消沈? しているイーリスは今回も戦闘に参加しなかった。

それに関してはサボるなよ、とか思ってない。

寧ろ戦闘に参加しない方が、イーリスが怪我をする可能性が下がるので、個人的には有難い判断。


何を考えてるのか分からない不気味さはあるけどな……自殺とかだけは止めてくれよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る