収まらない怒り

「お疲れ様、セルシア。どうだ、楽しめたか?」


「……攻撃は、怖かった。でも、それだけ」


なるほど。

確かに俺もセルシアも防御面は薄いから、スノーベアークラスの攻撃は怖いっちゃ怖いよな。


でも、明らかに不満そうだな。


「やっぱり、これを使うべきじゃ、なかった」


「あぁ~~、そうかもしれないな。けど、スノーベアークラスだと万が一があるからな」


今回のスノーベアー戦で、セルシアは紫電崩牙を使用して戦った。

俺はそれが悪い選択だとは思えない。


セルシアも強くなってるが、Cランクモンスターとのタイマンっていうのを考えると、紫電崩牙を使わないと安全面がかなり気になる。


安全面ばかり気にしてたら本当に強くなれないって考えはあるけど、死んだら元も子もないしな。


「そう、ね……でも、次からは使わない」


「そっか。気を付けてな」


紫電崩牙を使った方が安全面が高くなる。

それは保証できるが、だからといってセルシアの成長しようと思う気持ちを邪魔することは出来ない。


「セルシア、怪我はない!?」


セルシアなら普段使っている武器を使っても、上手く戦えるだろう。

そう思っていると、後ろで観戦していたイーリスがダッシュでやってきた。


……解ってはいたけど、心配してるなセルシアだけか。


いや、イーリスに心配されても寒気がするだけだから良いんだけどさ。


「勿論、ない。攻撃が、単純だったから、ね」


「そ、そう……それは良かったわ……ッ!」


セルシアの安否確認が終わると、急に俺の方に顔を向け、睨みつけてきた。


おいおい、眉間に皺寄ってるぞ。


「あんたね、スノーベアーに一人で挑む、挑ませるなんてどういう神経してんのよ!!!」


「落ち着けよ。俺だって危なくなればメリルたちに助けを求めるっての」


なんだかんだで今まで助けを求めたことがない気がするけど、本当に危なくなったらメリルやルーフェイスに助けを求める。


「それに、別にシュラとセルシアに一人で挑めって命令したわけじゃないぞ」


「だからってね、なんでCランクのモンスターに一人で挑むのよ!! どう考えても危険でしょ」


落ち着け、落ち着け……この怒りは俺を心配してるんじゃなく、セルシアの身を心配してるんだ。

勘違いして余計に怒らせるのだけはアウトだ。


「そう言われてもな……前にみんなでBランクのモンスターとか倒したって説明しただろ。学園の演習でオーガの大群に襲われた時もなんとかなったし、別にCランクモンスターが相手なら、そんなにビビることはないんだよ」


「そういう話じゃないでしょ!!!!」


……どうしましょ。

以前にそういった経験を乗り越えてるから安心してくれと伝えても、全く怒りが収まってくれないんだけど。


なんでこんなに怒るんだ?

もしかして、過去にスノーベアーに親しい人でも殺されたのか?

それならここまで怒るのも理解出来なくはないが……困ったな。


「イーリス、少し落ち着きなさい」


「何故ですか!!!」


おっと、普段ならラージュさんに声を掛けられた時点でちょっとは大人しくなるのに、今回は全然落ち着かない。


やはりスノーベアーにトラウマでもあるのか?

それとも……単純にセルシアを大事に思い過ぎているから??


「セルシアさんはスノーベアーとの戦いで、一つも傷を負いませんでした」


「それは結果論じゃないですか!!」


おっとっと、それはちょっと痛いところだな。


「チラッとセルシア様の戦いを見てましたけど、がっつり強化アビリティを使って、油断した様子は一切なかったすよ」


イーリスに聞こえない声量でシュラが軽く戦況を教えてくれた。


セルシアががっつり強化アビリティを使ってるなら、よっぽどスノーベアーが奇策を行って来なければ捕まりはしないだろうな。


しかし、俺の口からそんなことを説明してもイーリスは納得しなさそうだし……とりあえず説教はラージュさんに任せて、スノーベアーの死体を回収しよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る