鍛錬の跡が見える

ハンターギルドに訓練場を使いたいと伝えると、あっさりと貸してくれた。

というか、ちょっとビビってた?


まぁ、公爵家の令嬢が二人もいる訳だし、ビビるのも無理ないか。


ちょっと異色のメンバーだから、周囲から注目が集まるのは仕方ない。

そんな状況を無視し、軽くアップしてたからそれぞれ模擬戦を始めた。


イーリスとの模擬戦……なんでまた縛りを付けて始めるのかと思ったが、それはなし。

俺が接近戦で戦うのはありだと告げられた。

イーリスが何を考えているのか分からないが、とりあえず模擬戦スタート。


すると、イーリスはいきなりダッシュでこちらに向かってきた。

杖先から氷の刃を生み出し、身体強化のアビリティを使って……更に魔力を纏い、身体能力を上げながら俺に刃を向ける。


どういう思惑なのかいまいち分からないけど、とりあえずロングソードで受けることにした。


「はっ、せや!!!」


杖先から氷の刃を生み出したことで、杖は剣に……というより、槍か?

刃の部分がそれなりにあるけど、武器全体の長さ的には槍みたいだな。


とりあえず剣と槍の中間武器? を使って俺に接近戦を仕掛けてきたイーリスに対し、丁寧にロングソードで受けていく。


一応ロングソードには魔力を纏っているので、こちらの武器が折れる心配はない。


「ッ! あんたはなんで、身体強化を使わなくても、付いて来れるのよ!!!」


「それは……根本的な強さの問題じゃないか?」


「ッ!!! 本当に、ムカつくわねッ!!!!!」


「おいおい、それはちょっと、理不尽だろ」


俺は事実を言っただけなのに……やっぱり理不尽な女だ。

そこに関しては、俺の方が大量にモンスターを倒し、根本的な実力を越えてるから仕方ない。


あと、身体能力のステータス的に俺の方が肉体的な強さに特化してるから、強化系アビリティを使わずとも、イーリスの動きについていけるのは当然とはいえば当然。


にしても、やっぱりそれなりの動きをするようになったと感心する。

まだまだ一流の動きには及ばないが、それでも駆け出しの域は超えた……か?


それにわざわざ魔力を消費して、氷の刃を使うという点も良い。

消費するのはイーリスの魔力だから、あいつの魔力量を考えれば折れたところで、痛手にはならない。

氷刃の強度も、イーリスの努力次第で何とでもなる。


問題は奇襲を受けた場合だけど……まっ、そこら辺の対処は考えてるだろ。

短気で嫉妬深そうな性格してるけど、バカじゃない……多分。


「あんた、今絶対! 私のこと、バカにしたでしょ!!!」


「いやいや、別にそんなこと考えてないぞ。寧ろあの大会が終わった後から、よくここまで接近戦の技術を磨いたなと感心してる」


「ッ!!!! その上から目線、本当にムカつくわね!!!」


「褒めてるんだけどな~」


本当に真面目に褒めてる。

一流の動きには到底及ばないけど、ある程度様になってる。


おそらく、イーリスは接近戦の適性が高くない。

それにもかかわらず、半年程度でそれなりのレベルまで接近戦の技術を引き上げた。

そのことに関して、本当に凄い……血の滲む努力をしたのがうかがえる。


なんて俺の感想を詳しく説明しても、イーリスは俺が心の底から褒めてるとは思わないんだろうな。


まっ、それは仕方ない。

イーリス的には接近戦の技術を実戦に近い形で試したいだろうから……もう数分だけ付き合ってあげるか。


イーリスとの模擬戦が始まってから五分経つまで相手をし、それを過ぎたらアイスソードを破壊して、首に剣先を突き付けてチェックメイト。


「うっ……参った」


「その氷刃を使った戦い方だけに関しては、やっぱり上達してると思うぞ」


イーリスのメインは、遠距離から氷魔法を使った攻撃。

大会での時も動きながらも魔法発動は行えていた。


頑張れば、クレア姉さんみたいな戦い方をするのは不可能ではない。


っと、もう一度褒めたが不機嫌そうな表情が引っ込むことはなかった……まだまだ子供だし、仕方ないか。

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