悲劇のヒロイン病
「……ラガスは、あの女が反省してない、と思ってるの?」
「反省してないというか……悲劇のヒロイン気取ってるんじゃないかと思ってさ」
普通の思考を持ってる人であれば、そもそもリーベを裏切ることがおかしい。
リーベの生活がマジクソゴミであれば、百歩譲って他の男に……幼馴染という此処との支えであり、癒しの方に行ってしまうのは仕方ないと思う。
でも、リーベはどう考えても紳士だ。
ライド君にチャンスを与えるあたり、超紳士だ。
そんなリーベを裏切ったんだから、それ相応の何かを背負うのは当たり前。
それが今回は金って話。
「悲劇のヒロインを気取る、ですか……ない話ではありませんね」
『ねぇ、ラガス。悲劇のヒロイン気取りってなぁ~に?』
『悲劇のヒロイン気取りってのはな、出来事を自分の都合の良い妄想に書き換えて、自分は酷い仕打ちを受けている物語に出てくるようなヒロインなんだって自分を思い込んでる奴だよ』
『ふ~~~~~~ん……つまり、悪い人ってこと?』
悪い人……まっ、確かに悪い人だな。
『その通り、悪い人だ。そして……多分、話が通じない人な気がする』
一種の精神病かもしれないよな。
病名、悲劇のヒロイン病……ありそうだな。
「ライド君はまぁ……基本的に悪くないじゃん。恋した相手が偶々婚約者持ちの貴族令嬢だっただけだし」
「……そうですね。婚約者がいるかいなかなどは、本人から聞かなければ基本的に耳に入ってきません。過去の事情を聴く限り、ライドさんがアザルト様に恋したことは犯罪ではありません」
そうなんだよ、決して恋することは犯罪じゃない。
アザルトさんがライド君に気持ちが向いてしまうのも……一応犯罪ではない。
アザルトの誘いを断ってライド君とデートに行くのは私的に犯罪だと思うけど。
「そこら辺は決して悪くないけど、アザルトさんが今回の流れ的に自分が我儘を突き通した結果……実家が、自分が借金を背負う形になってしまった。本当にそう思ってるのか……アザルトさんのことは心配してないけど、今後密接に関わるかもしれない友人たちが心配なんだ」
個人的にリーベを選ばなかったアザルトさんがこの先、どこで死のうと……借金を返すために大人の店で働く事になったとしても、どうでも良い。
ライド君には悪いが、ぶっちゃけ幸せになってほしくない。
ただ、ザックスとレイラ、ミリアは友人だから……もしアザルトさんが悲劇のヒロイン気取ってる屑なら、直ぐにそんな爆弾とは離れてほしい。
「……難しいところ、だね。三人は、今回の細かい事情、知ってるの?」
「そりゃあの場にいたんだから当然知って……るのか?」
細かい事情……リーベがどいう人物なのか、そこまでは知らないのか?
もしかしてザックスたちにはリーベの意向でアザルトさんは婚約させられた、みたいな情報を伝えられてるとしたら……アザルトさんに同情する可能性は十分にあるか。
「ちっ!! 本当に面倒なことしたな、あの令嬢」
「……あの件に関わったことを後悔してるのですか、ラガス坊ちゃま」
「後悔してる訳ないだろ。リーベに手を貸したことは全く後悔してねぇっての」
ただ、ライド君が三人の知人……友人になってたってのは誤算だったな。
「もし、面と向かって事実を話して揉めるかもしれないのが嫌であれば、手紙で内容を伝えるのが一番かと。全く知らない人からの手紙であれば信じないと思いますが、三人はラガス坊ちゃまの友人です。ラガス坊ちゃまの言葉であれば、意識を傾けるかもしれません」
かもしれない……可能性があるってだけで、百パーセントじゃないよな。
もしかしたら無駄かもしれないけど、書くだけ書くか。
「それよりラガス坊ちゃま、もう屋敷に到着します。そんな暗い顔をしてますと旦那様や奥様が心配しますよ」
「そうだな。とりあえず一旦忘れよう」
まっ、大会終わってから色々あったし、暗い顔してようがしてまいが心配されてるかもしれないけど。
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