善人か悪人か……

『ラガス、人の匂いがする』


『……人の匂いってのは、善人じゃない匂いか』


ルーフェイスから急に言葉を掛けられた瞬間、言葉を発してはならないと直感が告げた。


善人か否か。

いくら嗅覚が優れていても、中々解る内容ではないと解っていながらも、どうなのかと訊ねた。


『多分だけど、悪人な気がする。匂いは人だけど、血の匂いがべったり付いてる。あぁいうのって、盗賊って言うんだよね』


『血がべったりと、か……そりゃ多分盗賊だろうな。他に人だけど、違う匂いがする奴らはいないのか?』


『いないね。全員から血の匂いする』


『そうか……だったら、間違いなさそうだな』


護衛の兵士や騎士、冒険者であれば血の匂いがべったり付いていてもおかしくない。

ただ、見える範囲にはそれらしい者たちが一人もいない。


そうなると、残る選択肢は盗賊一択しかない。

小声で話せば大丈夫かもしれないが、一応音魔法を使って俺自身、声を出さずに少し離れた場所に盗賊がいるかもしれないという情報を伝えた。


すると、念の為の確認だろうな。

前にいるシュラから回り道をして迂回するかというジェスチャーが送られた。


選択肢としては、逃げずに戦うというのもある。

けど……多分、向こうはもう完全にこちらをロックオンしてる。


バットエコロケーションで確認したが、確かに六人。

俺たちに意識を向けている連中がいた。


逃げ切れる可能性は高いと思う。

相手に背を向けるとしても、数が六人なら対処出来るだろう……よっぽど強い奴がいたら話は別だけどな。

ただ、そんな奴が仮にいたとしたら、余計に背は向けられない。


「潰す」


そう一言だけ、小さく呟いた。

全員の表情が引き締まる。


今更だけど、それなりに戦える奴がいてもこっちには規格外のモンスター、ルーフェイスがいるんだからそんなに心配する必要はないか。


六人の盗賊が待ち構えている地点まで歩くと、ピッタリのタイミングでぞろぞろと現れた。


「ちょっと止まってもらおうか、嬢ちゃん坊ちゃんたち」


「通行止めってやつだぜ、ガキ共」


……あれだな、全員見事に悪人面って感じだな。

盗賊らしい顔だこと。


というか、俺たちの前に姿を現せず奇襲を仕掛ければ良かったのに。

現れたら……狼竜眼で丸裸だぞ。


「あんたら、盗賊で間違いないよな」


「はっはっは!!!! それ以外に何に見えるってんだよ! もしかして貴族のくせにバカなのか!?」


「はぁーーーー……何も知らないくせによく吠えるな。学校の授業じゃ、どういった見た目の奴らが盗賊だって教えないんだよ」


襲ってくる奴ら、全員が盗賊か暗殺者。

顔や外見なんて関係無い。


バカみたいに話してくれたお陰で、色々と分かったよ。

全員……ビビるような相手じゃない。


「盗賊活動してるなら、死んでも文句ないよな。義賊って雰囲気でもないし」


俺がそう言い終えると、メリルたちが動き出した。

セルシアも負けじと動く。


ちょっと出遅れたな。

残りは……あいつか。


「よろしく、おっさん」


「ッ!!! 調子に乗ってんじゃねぇぞ、ガキが!!!!」


貴族の令息や令嬢、そして若い従者だけだから絶対に勝てると思って、調子に乗ってんのはそっちだろ。

ルーフェイスがブラックウルフなら、六人の内三人ぐらいで対応すれば倒せるぐらいの力は持ってそうだけど、中身はドラゴンの中でも珍しい狼竜。


爪が掠っただけでも致命傷だ。


「どうしたよ、遅いんじゃなのか」


「ガキが、大人を、あんまり嘗めんじゃねぇぞ!!!!」


盗賊が相手なら、大人もクソもないだろ……敬意を持つような相手じゃないんだし。


それにしても……我ながら良い相手を選んだな。

剣技のアビリティ、そして身体強化と腕力強化のアビリティを習得してる。


他にも殺気や短剣技のアビリティまで会得してる……盗賊相手に戦闘を楽しむのは不謹慎なんだろうけど、モンスターと戦う時と比べて、少し違う緊張感がある……まっ、あんまり長く戦ってたらメリルに怒られるから、もう殺すけど。

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