本当に失望する

「ラガス様、セルシア様。お時間でございます」


「分かりました」


決闘? 開始五分前にメイドさんがやって来た。

部屋は十分広いので軽く体を動かすぐらいは問題無い。


「いよいよですね、ラガス坊ちゃま」


「あぁ、いよいよだ……ようやくぶっ潰せる」


おっと、少し殺気が漏れてメイドさんを怖がらせてしまったな。

さすがにまだ殺気は抑えないと。


「それで、結局武器は使うのですか?」


「いや、使わない。素手でバキバキの粉々にしてやる」


「ふふふ、いつも通りのラガス坊ちゃまですね。緊張しておらず良い状態かと」


「ただの決闘だからな。それに第三王子が装備するマジックアイテムを加味しても、セルシアより強いってことはないだろ」


勿論、シュラやメリルより強いとも思えない。

実際に戦ったことがある訳じゃないから、油断は禁物なんだろうけど、あまり警戒し過ぎて手が出ないんじゃ話にならない。


バカ王子がどんな装備を身に着けていようが、殴って蹴りつけて呪弾を浴びせて色々と後悔させてやる。


「……もし、使う武器以外に、マジックアイテムを使ってたら、本当に失望、する」


……おう、セルシアさんの目が超冷たい。

メリルの冷酷無比に近い目だ。


そんな目を向けられたらバカ王子はどんな反応をするのだろうか……落ち込むどころか、寧ろ新たな門を開いてしまうか?


「まっ、どう来てもきっちり潰すから安心してくれ」


「うん、そこは心配していない」


はっはっは、潰されることを心配していない……想い人がそんな事を考えてると知ったらバカ王子はどんな顔をするんだろうな。


ちょっといじわるだと思うが、是非見てみたい。


「ラガスさん、もし周りにいるかもしれない騎士たちが止めようとしてきたら、俺たちが間に入って止めた方が良いっすか」


「……そこまでしなくても良いかな」


だって前を歩いてるメイドさん思いっきりブルって震えてるし、今ここで話したことでその手段が使えなくなったかもしれない。


どうせなら気が済むまでボコボコにしたいけど、限度があるからな……最初に止めに入るのは審判だ。

騎士たちはそこで俺が止まらなかったら、俺を止めに来るはず。


なら、審判を止めるのが先……違うな、審判の声を止めるのが先か。


審判が決闘終了の声を出さなければ、俺が戦いの手を止める理由はない。


そうだなぁ……うん、十秒ぐらいにしとくか。

それだけあれば、良い感じにボコれる。


「到着しました」


訓練場に入ると、そこにはバカ王子と思われる人物と四人の騎士。


そしてかなり離れた場所にアルガ国王と先日に騎士二人。

それと……魔法使い? ちょっと違う気がするな……もしかして結界師か。


あと、最後に審判を務めるである騎士が一人って感じか。


「ラガス様、こちらに」


「あぁ」


ようやく……ようやくボコれるんだな。

おっと、殺気が漏れない……まだ漏らしてはダメだ。


にしても、本当に今回の一件を起こしたとは思えないほど優男って顔してるな。

ジークも俺がセルシアとパートナーだって判明してから決闘を挑んできたけど、あいつは元婚約者だったから挑んでくる気持ちが解らなくもない。


ただ、同じ優男でも今回みたいな暴挙に出るとは……もしかしてその顔の裏はとんでもない屑だったりするのか?


にしても……腰の魔剣はおそらく上等か、超上等な品。

そして皮鎧には多分……ワイバーンの鱗でも使ってそうだな。


ガントレットも靴もそこら辺の品じゃない。

きっちり効果が付与されているマジックアイテムか…………あ~~~~あ、セルシアの目がさっきと同じ冷酷無比、超冷たい目になってる。


でも、相変わらず自信満々な表情をしてるし、自分にそんな冷たい感情が乗せられた目を向けられてるって解ってないんだろうな。


もしかして今の状況を自分の都合良く脳内変換しちゃってる感じか?

あり得そうだな……今の自分はパートナーという制度のせいで無能な男に捉われた思い人助ける勇者、なんて思ってそうだな……うん、きしょい。


「君がラガス・リゼードか。実際に見る限り「セルシアは試合前にペラペラとくだらない話をする奴はキモイし嫌いって言ってたな~~~~」ッ!!!!! ふんっ! 直ぐに終わらせてやる」


ぶっ! はっはっは!!!! セルシアの名前を出したら本当にあっさり引いちゃったよ。

こいつ、本当に色々と駄目人間なのかもな。

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