それは勘弁してほしい

大会が終わってからの件を話すと、フェリスさんはとても同情してくれた。


「大会という大きなイベントが終わったのに、随分と忙しい日々を送っていたのね」


「まぁ……そうですね。個人的にはリゼード公爵家との一件が多少面倒ではありましたけど……リーベとの一件に

関しては忙しいと感じることはなく、楽しい日々を過ごせたと思います」


結果は残念だったけどな。

相手のアザルトさんの性格という自分が置かれている状況を考えない頭などを考えれば、あのまま諦めた方が正解だったのかもしれないけど……でも、そういう決断をしたからこそ涙が流れた。


決別して良かったと言える一件では無かったな。


「話を聞く限り、婚約者の男の子を無視続けた女の子は随分と自分勝手と言いますか……他に好きな人がいて、その気持ちを貫き通したいという思いは解りますが」


「俺もその気持ちは仕方ないよなって思いました。ただ、もう少し方法はなかったのかと」


「……あったでしょうね。でも、自分は男爵家の令嬢で相手は侯爵家の令息。何をやっても無駄だと思っていたのかもしれないですね」


何をやっても無駄……それは、どうなんだろうな?

リーベの話を聞く限り、アザルトさんはハッキリとした態度を取っていなかった。


リーベからの誘いを断って、ライド君とデートしてた件を考えれば気持ちはハッキリしてるんだけど、勇気を出して自分の気持ちを正直に伝えるべきだっただろうな。


もっと早い段階でそれを行っていたら結末は変わっていたかもしれない……少なくとも、借金の額は減っていただろうな。


「そう思って学生の間だけでもって考えてしまうのは……それも仕方ないかもしれないですけど、他にも絶対にやりようはあった筈ですよ。最終的に好きな人と結ばれたとしても、今超借金まみれですからね」


「そうですねぇ~~……いくら愛が強くても、そういった事情が絡めば関係が崩れるかもしれません」


「まだ子供ですから、その辺りは自分たちを信じ合っていればなんとかなると思っているのかもしれませんね」


現実はそんなに甘くないとは思うけどな。

ライド君は将来的にゴールドランクになれる可能性は持っていると思うけど、そのランクに相応しい活躍をするには、それ相応の武器や道具が必要になる。


果たして莫大な借金がある中で、そこら辺を上手くやりくり出来るのか……リーベの実家も直ぐに借金を返せとは言わないだろうが、当然リミットはあるだろう。


それを考えると……受けた依頼、個人的に討伐しようと思ったモンスターの狩りとかは一切失敗出来ない状況が続く筈だ。

絡む金額が高くなれば高くなる程、失敗出来ないという思いが強くなる。


そんな重い重い重圧に耐えられるのか……八割ぐらいの確率で関係は破綻しそうだな。


「そうかもしれないですね……ところで、公爵家からのお誘いは何故受けなかったのですか?」


「えっ、いやそれは……俺にはセルシアがいるんで」


「話はルーフェイスから聞いてますよ。とても強く、美しいお嬢さんだと。ですが、伴侶にする女性を一人にしなければいけないというルールはありませんでしたよね」


「それはそうですけど、俺はそんなに器用な人間じゃないんで」


というか、そもそもイーリスとは性格が合わないというか……とにかく仲良くするのは無理だ。

向こうが喧嘩売ってくるような態度を取れば、俺もそれなりの言葉で返してしまう。


つまり、結局は会えば喧嘩してしまうのだ。

そんな相手と婚約者になって将来結婚とか……絶対に無理無理。


「英雄は色を好むと言います。ラガスさんもそういうお年頃でしょう」


「ラガス坊ちゃま、私はいつでもラガス坊ちゃまと奥様となる方の子供を抱っこする準備は出来てますよ」


「メリル、気が早過ぎる。そんなのはもっと先の話だ。それとフェリスさん、俺は言った通り器用な人間じゃありません。英雄の器を持っていたとしても、何人もの女性を満足させる甲斐性はないですよ」


「あら、そんなことはないと思いますよ。ラガスさんはこれから多くの女性と出会い、好意を寄せられる……と、私の勘が告げています」


…………マジかよ、それは冗談でも勘弁してほしいな。

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