悪い方向に流れれば

SIDE ラガス


「セルシア、もしかしてだけど……アザルトさんに鉄槌を下そうとか考えてる?」


「うん」


リーベとライド君の決闘が終わり、その日は直ぐに解散。

そしていつも通り夕食を食べた後、自分の部屋にセルシアを呼んで気になってたことを尋ねた。


てか、超即答じゃん。

若干怒りのオーラが溢れてるし。


「……ラガスは、良くないと、思う?」


「いや、別に思わないぞ。ライド君はライド君なりに頑張ってたからあれだけど、アザルトさんに関しては……嫌なことから目を背けてただけだからな」


本当に好きな人と結ばれない未来が待っている。

それは確かに人によっては絶望する未来かもしれない。


どう足掻いても変えられず、泣きたくなるだろう。


でも……貴族に生まれたってだけで、それなりに良い暮らしが出来てた。

学園にも通うことができて、将来の選択肢が増えた。


それだけでもリーベに……リーベの実家に感謝するべきだとは思う。


「そう、そこが許せない。良い形に婚約破棄を進めようと、頑張ってたなら、まだ納得できなくも、ない」


「良い形で、か……まぁ、その方向に勧める努力はするべきだったな」


ただ、良い形での婚約破棄というのはどういった形なんだ?

そういう話に疎いから全く解らん。


アザルトさんがリーベに真正面から「私には好きな人がいる、だからあなたを好きになることも愛することも絶対に無い」なんて内容を告げるべきだったのか?


思いはストレートに伝わりそうだが……相手がリーベじゃなかったら絶対にブチ切れて、襲われそうだよな。


「でしょ」


「でも……いったい何をするんだ?」


今回の話は時間を経たずに広まる。

そうなれば、必然的に他の令嬢達から虐められる……かどうかは分からないけど、居づらい雰囲気がつくられるのは確実だ。


「……ロッソ学園から追放する」


「ッ!!! 随分と、過激だな」


「そう? これでも、優しい鉄槌、だと思う。残れば、いずれ居づらくなるのは、絶対」


あっ、俺と同じ考えに至っていたのか。

確かにさっさと学園から追い出されるか、残って居づらい雰囲気の中で三年間過ごすか……前者の方がまだ良いかもな。


「ただ、そう簡単に追放なんて出来るのか?」


「不可能な話では、ない。今回の件を父様に話せば、きっと直ぐに動く」


……確かに動きそうだな。

ロウレット公爵のことはまだあまり知らないけど、多分セルシアの願いを聞きそうだ。


「それと、リーベの実家にこうした方が良いのではと、父様の方から連絡してもらう」


「いったいどんな内容なんだ?」


「……今までアザルト家に援助した金の請求を、娘とその恋人に請求する、って方法」


…………えぐっ!!!

えっ、だってその援助ってかなり前から行われてきたから……いくらになるんだ? 想像が付かない。


とりあえず白金が数枚で収まらないことだけは解る。

黒曜金貨何枚……下手したら何十枚って話だよな。


それを二人の子供が払うって……絶対に無理くないか?


「それは……あれだよな。直ぐにって訳じゃないだろ」


「勿論。子供がそんな大金、持ってる筈がない。だから何年、何十年……もしかしたら、死ぬまでリーベの実家に、金を払い続ける、かもしれない」


いや、確実にそうなるだろうな。

もしかしたら、子供の代までその借金が続く可能性だってあるだろ。


……でも、よくよく考えればそれが一番大きな罰かもな。

そこまで莫大な借金があれば、二人の雰囲気は勿論ギスギスする筈……多分。


それにパーティーメンバーになるかもしれない、ザックスたちにも借金のしで印象が徐々に悪くなるかも。

そういった徐々に起こる摩擦を考えれば……うん、流れが悪い方向に進めばいずれ最悪な形で破滅しそうだ。


セルシアがそこまで考えているとは思えないけど……家の借金を二人に背負わす。

これは二人にとって……アザルトさんにとって一番の鉄槌かもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る