頭の片隅にある筈

一度倒れたリーベが羅門を使用し、再び構えを取った。


それだけで……空気が変わった。

重く、圧し掛かる様なプレッシャーがライド以外の人間にも降りかかる。


「は、ははっ!! 良いぞ、そうだ……勝負はまだこれからだ」


「ここからが本当の勝負、といったところですね」


「……勝負で終われば良いんだけどな」


限界突破と羅門。


お互いに限界を超えた力を振り絞って戦う。

そして、この戦いに……二人共強い思いを秘めている。


「どういう意味ですか?」


「ライド君は限界突破を使った。そしてリーベさんは羅門を使用した。もう……二人共完全に実力は学生礼ベルを超えている」


今までも学生という範囲に収まらない力で戦っていた。


しかし己の限界を超えるスキルを使用した二人が戦えばどうなるか……もしかしたら、最悪の結末が持っているかもしれないな。


「それは……どちらかが死に至るかもしれない、ということですか?」


「可能性としてはあると思ってる。審判を務めている先生もそれなりに強いと思うが、決定打が決まる前に止められるか……俺はそこが不安だ」


「……シュラの言いたい事は解かる。でも、お互いにそれはダメだって解ってる筈だ。限界を超えて戦っている状態でも……それだけは頭の片隅に残ってる筈だ」


リーベはこの勝負に勝てば、惚れている人に付き纏う虫を排除できる。

ただ、殺してしまっては二度と惚れている人の笑顔を見れないかもしれない。


逆に……ライドはこの戦いで運悪くリーベを殺してしまっても、初恋の人の笑顔が消えることはない。

しかし、決闘とはいえ侯爵家の人間を殺してしまったら今後、背後を気にせず生きることは出来なくなる。


お互いに今後の人生を考えれば、殺すという選択は出来ない。

出来ないが……闘争心は更に膨れ上がっていた。


「ここからは、俺の時間だ」


ここでリーベは魔剣を捨てた。

まさかの行動にザックスたちは驚き、何を考えているか全く理解出来ない。


しかし、一か月間特訓に付き合ってきたラガスたちには解かる。

リーベは本気で戦おうとしている。その為には、剣が邪魔なのだ。


(才能のマックスが十と例えるなら、剣の才能は精々四か五。武器にならない訳ではないが、それでも一流にはギリ届かない。でも、体術の才能は最低六……最高八ってところ。剣と体術を混ぜた戦闘スタイルも悪くないが、体術だけの方が動きやすい筈だ)


間合いはどう考えても長剣をメインに扱うライドの方が長い。


だが……リーベに刃に対する恐怖が全くなくなっていた。

ネジが外れたとかそういう事ではなく、自分の体にあの刃が食い込むと思っていない。


「反撃開始、だな」


躊躇なく全速力で突っ込む。

当然、先程よりもスピードが上がっている。


ホーリージャッジメントによって食らったダメージは羅門を使用したことで、半分ぐらいは回復していた。

その効果も羅門の強味だが、更に怖いのは痛覚が鈍くなることだ。


(諸刃の剣と捉えることもできるが……ちょっとやそっとの攻撃じゃ止まらなくなる。体格差的に、リーベの攻撃はライド君に響く。決定打では無くても、当たれば徐々に戦況は傾いていく)


刃を潜り、ジャブを放つ。

ステップバックで躱し、片足のダッシュで距離を詰めて右のハイキック。


全ての斬撃を余裕で躱せてはいない。

ギリギリで、紙一重で躱す時もある。


リーベの攻撃が全て決まってい訳でもない。

しかし徐々にライドの表情が歪み始めた。


最強の奥の手を使った。

このスキルを使えば、絶対に勝てると思っている切り札。

限界突破を使っても攻撃は当たらなくなり始め……イラつきが溜まり始めた。


(……ここ、だ)


小さな苛立ちが募り、僅かに生まれた隙を突いて……リーベの中段蹴りがクリティカルヒット。

ホーリージャッジメントのお返しとばかり、今度はライドが大きく吹き飛ばされた。


「……ぶっ飛ばした後に直ぐ跳び出さない。冷静だな」


「限界突破を使用しているライドさんの状態を考えれば、当然の判断ですね」


良い一撃をぶち込めた。

だが、限界突破を使ったライドは攻撃力だけではなく、防御力も上がっている。


この一撃だけで倒れることはなく、即座に起き上がって反撃を仕掛ける。


(……シュラの考えには一理あるな。自分で大丈夫と宣言しといてあれだが、どちらも止められる準備をしておくか)

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