熱さと冷静さ

リーベの特訓が始まってから一週間が経った。


平日は授業が終わってから夕食までの時間を全て訓練に費やす。

一番最初に魔弾の操作。

そして実戦で使えそうな動きを教え、トレースさせる。


それが終われば後は時間が来るまで延々と俺、シュラ、メリルと模擬戦を続ける。

セルシアもリーベの模擬戦相手になってくれている。


結果は俺達が全勝。

セルシアも負けは一切無い。

だけどセルシアのリーベに対する評価は悪くなかった。


本気で磨けば光る……二割ぐらいは辛くて訓練を緩めて欲しいって言われるかと思ったが、そんな言葉は一切吐かずに毎日頑張ってる。


休日に行うモンスターの討伐に関してはそこまで心配はいらなかった。

最初の一歩を踏み出すために背中を押す必要はあったが、後は自分の力だけで遭遇したモンスターを倒していった。


これならたった一か月とはいえ、実力はかなり上がる筈だ。


「ラガスじゃないか、こんなところで何をしてるんだい?」


「ジークか……お前こそこんな場所で何をしてるんだ」


偶に一人でプラプラしたい時間がある。

リーベの授業が終わるまでまだ時間はあるので一人で誰もいない場所でのんびり考え込んでいた。


「君が一人で動いているのは珍しい。それと人が来なさそうな場所に入って行くのが見えたからね」


「そうか、お前も暇だな」


「そういう訳じゃないんだけどね……それで、最近はなにやらジースを鍛えているそうじゃないか。他の生徒達が羨ましがっていたよ」


「リーベの知人だったのか。てか、なんで他の生徒が羨ましがってるんだよ」


「当然の事だと思うけどね。君はシングルスで優勝し、ダブルスでもセルシアと一緒に優勝した。そして団体戦にも出場し、勝利を収めた。一部からは一年生あそこまでの力を持っているのは不自然だ、何か反則をしていたんじゃないかって思っている人もいるぐらいにね」


そりゃそう考える奴らもいるだろうな。

ただ、俺から言わせてもらえばお前らの努力不足ってだけだ。


強くなろうと思い、実践するのは誰と比べても早かっただろうが、本気で上を目指すと決めて努力してる奴からはそういった考えは出て来ないだろうな。


「ただ、実際に戦った僕はそんなことはないと解っている。それはロッソ学園の生徒達もね。君は反則を行った生徒を相手に完勝した」


「……そういえばそんな事もあったな」


名前は……だめだ、忘れた。

確かセルシアに執着してた奴ってのは覚えてるが……まっ、今後関わることはない。

忘れても問題はないな。


「そんな君から指導を受けられる。上を目指す生徒達にとっては是非とも受けてみたい授業だろう」


「別に授業なんてしっかりした内容じゃない。てか、俺は属性魔法のスキルを持っていないんだ。貴族ならそこら辺を磨いた方が良いだろ」


「そういった考えがあるのも当然だが、指導は君だけじゃなくて執事とメイドの二人も担当しているのだろう。大会でトップを取った二人の指導……君を含めればスリートップだね。そんな三人かの授業を受けてみたいと思う者は属性魔法云々関係無しにいる筈だよ」


「……そういうもんか。でも生憎だが、しっかりと授業料は貰ってるんだ。それに……事情が少し面白いと思ったからな」


「事情、か……その辺りまでは知らないんだけど、聞いても良いかい?」


……別に細かい理由を話さなければ良いか。

こいつなら他の生徒に言いふらすことも無いだろうしな。


「惚れた女の為に、強くなる……大まかに言えばそんなところだ」


「惚れた女の為に……少し固いところがあるあいつにそんな熱い部分があったんだね」


「その気持ちは解る。理由には納得したが、確かにギャップはあった」


固い印象を崩す様な熱。ただ、相手の気持ちを完全に無視しない冷静さもある。

人として優れていると思えたな。


「……もしかしてだけど、誰かと戦うのかい?」


「そこは想像に任せる」


正確を言わなくてもジークなら大体は解るだろう。


「そうかい……ラガス、ジースは勝てるのかな」


「俺はあいつが強くなるために力と知恵を貸す。結果がどうなるかはリーベの努力次第だ」


「君らしい答えだね」


「どうも。それじゃ、俺はそろそろ戻る。じゃぁな」


久しぶりに話したけど、本当にジークは棘が無くなったな……今度一緒にのんびり飯で食べるか。

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