メイドからだけではなく
「ラガスさん、モテモテみたいっすね」
「なんだよいきなり」
朝食を食べ終え、軽く運動してリゼード公爵への返事を書き終わった後に少々ベランダでのんびりしているとシュラが声を掛けてきた。
「いや、メリルから少し話を聞いて……どれだけラガスさんがモテているのかを」
「そうかい。俺としてはセルシアがいるから意味の無い話だ。そもそもそいつらは俺の中身を全く知らない連中だ」
「ですが、男女はまず容姿で異性として認識出来るか否かで始まるんじゃないんすか? ならラガスさんは十分に異性として認識されていると思うっすけど」
「それはどうも。とりあえず顔はクリアしていても、目当ては俺ではなく俺のパートナーはセルシアと仲良くなり、あわよくばロウレット公爵家と縁をつくって深められたらって考えてるんだろ」
もしくはカロウス兄さんが遊撃隊に所属しているからそこら辺の縁を欲しているのか……とりあえず俺だけに魅力を感じている令嬢はまずいない。
いても俺がハンターの道に進むと本気で決めていると解かれば逃げていくような根性無しばかり。
この考えが絶対では無いかもしれないけど、殆どが当てはまるのは確認しなくても解る。
「でも、リザード公爵家からの手紙だけはラガスさん自身が書いて返すんすね」
「バカ、公爵家だぞ。セルシアの実家と同じ公爵家なんだ、流石にそんな粗末に扱えないだろ」
「……それはそうかもしれないっすけど、ラガスさんが王都に来て手に入れた力を考えればそこまでビビる必要は無いと思うっすけど」
ディーザスの連中の事か。
そうだなぁ。あいつらの裏での力を考えれば公爵家の一つぐらい……って俺は別に自ら喧嘩を売りたい訳じゃないんだよ。
「俺はリザード公爵家と喧嘩したくはないんだよ。公爵家だぞ公爵家。いったいどれだけ俺の知らない権力を持ってるのか……考えただけでゾッとするっての」
「た、確かに少し背筋が冷たくなりますね」
爵位が下でも、切り札を持っている家は存在する。
だが、爵位が上であれば一枚一枚が強力な手札だと思う。
実際に俺自身がバチバチに戦った訳じゃないが、シュラとメリルを自分達の家に引き込もうと裏の連中と連絡を取った家も存在する。
その裏の連中の強さも家の財力によって変わってくる。
「そういえばシュラ、お前も婚約系の話が来てるんじゃねぇのか。正直に答えろよ」
「えっと、その……そ、そうっすね、引き抜き系の手紙と一緒に幾つか学園に届けられてたっす」
だろうな。執事限定の高いで圧倒的な強さで優勝したシュラが女子から惹かれる理由は十分だ。
てか、シュラにそういう話が来てるならメリルにそういう系の話が来ていたもおかしくないな……後でそこら辺訊いてみるか。
「やっぱり他家のメイドと婚約しませんかって話がだいたいか」
「そうっすね。おそらく上手く婚約させて自分の家の戦力にしたいって感じかと」
「そりゃ現時点でこんだけ強いんだからな。将来性を考えれば欲しいと思うのは当然だ。……まてよ、もしかして騎士団とかからも話が来てたりするか?」
「はい、幾つか話が来てます。全部お断りの手紙を書いたっすけど」
「そ、そうか……まっ、だよな」
そういった即決な判断は俺的に嬉しいが向こうからすれば「執事に折角の勧誘を断られた、ふざけんな!!!」って思ってる可能性は大アリだよな。
「それと……あれっす、なんでか知らないっすけど令嬢からも幾つか婚約の話が書かれた手紙が来てたっす」
「…………ぶっ、はっはっは!!! マジか、凄いな。玉の輿じゃねぇか」
「俺、金にはあんまり興味無いっすよ」
「それは知ってる知ってるけど……はっはっは、モテない子息達からすれば血涙を流す程羨ましい手紙だろうな。それ、俺やメリル以外の奴らには伝えたのか?」
「色々とプライベートな内容だと思うんで他の奴らには伝えてないっす」
「そうか。それは正しい判断だろうな」
シュラはそういう話は全部断る。
それが他の連中に伝われば、口のチャックが緩い奴らは他人に話してしまうだろう。
そうなれば全く関係無い場所で他家の名前を気付付けることになる。
喧嘩を売られたなら上手いことやって潰すけど、やっぱり面倒事は嫌だからな。
「全部の手紙に返事は書き終わったすけど……マジで面倒でした」
「だろうな。俺はリザード公爵から以外の手紙はメリルに書いてもらってるから楽できてるけど」
「俺も手伝おうとしたんすけど、あまり字が上手く無いからって却下されたっす」
「……そ、そうなのか。あいつそういうところ厳しいな」
確かに他の手紙との差があったら多少の問題になるかもしれないが、結局はあの一つ以外全部断るんだし……まっ、とりあえずメリルにもう一度感謝しておこう」
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