信じていたからこそ

「ラガス……あれはちょっと不味いんじゃないか」


「あぁ、まさかまさか……いや、もしかしたら必然的に起こったのかもな」


イーリスはラガスの事が嫌いだ。大っ嫌い、消したいほど憎い存在だ。

ただ、そんな人物を友人だと……ライバルだと思っていた者が肯定した。


そんな事実を知り……感情が爆発しない訳がない。

そしてその感情は感情だけにとどまらず、魔力にまで及んだ。


「観客席に結界が張られているから問題はないと思うが……お前のパートナーはちょっとヤバいんじゃないか?」


「……どうだろうな? おそらく暴走を正確に操れるとは思うけど、だからって冷静でいられる訳じゃないだろうからな」


魔力の暴走。それは意図して起こせる現象ではなく、感情の激しい起伏が原因で起こる。

暴走した魔力で発動された魔法の威力は跳ね上がり、通常時の威力とは比べ物にならない。


だが、暴走した魔力は文字通り暴走する。

持ち主の意志に反して自爆することもあれば、そのまま魔法を放ったとしても狙い通りには飛ばずに的外れな方向に飛んでいく場合が多い。


しかし……そこは生粋のエリートであり、圧倒的才を持つ令嬢。


その暴走を一点の方向に向けることに成功した。


「穿て、アイスランスッ!!!!!!!」


イーリスが放った技は氷の槍……と呼ぶには少々大きく、形がいかつい。


(槍というよりは……破城槌だな)


アイスランスならぬアイスバトリング。

その威力はイーリスの切り札であるアサルトタイガーファングに負けず劣らず。


一瞬で高威力の攻撃魔法を放ったことで形勢は一気に逆転したかと思われた。


(あの破城槌……まともに食らったら本気でヤバそうさな。体に穴は空くか? でも、セルシアはしっかりと冷静さを保てているみたいだな)


確かにイーリスが暴走の力を借りて放った氷の破城槌は高威力だ。

完全に学生が放つような技では無い。

そして暴走の力を完全にコントロールしたのも見事としか言いようがない。


ただ……そこが限界でだった。


「……お前のパートナー、マジで埒外だな」


「別にそんな言葉を使う様なものじゃないだろ」


「けどよ、普通は目の前で対戦相手が魔力を暴走させたら少しは焦るもんだろ」


「だろうな、それは否定しない。でも……イーリスの実力を信じていたからこそ、自分に向けて攻撃を放って来るってのを信じてたんだろ。槍が破城槌になったのは予想外だったかもしれないけどな」


どんな時でも冷静に攻撃を対処する。

それはラガスや自身に稽古を付けてくれていた人物も教えてくれた。


だが、ラガスの言う通り……そんな教え以上に友人の実力を信じていた。


「いつもと違って、変だけど……やっぱり凄い、ね」


イーリスの攻撃を読んでいたイーリスは寸でのところで上に跳び、アイスバトリングを回避した。

結果、暴走の影響が加わって威力が跳ね上がった攻撃を無傷で回避することに成功。


「うん、やっぱりイーリスは凄い、よ。なのに、なんで……ラガスの実力が解らないの?」


本当は解っているのだが、それを認めたくない。

それがイーリスの本心だった。


認めてしまえば、多くのものが砕けてしまうかもしれない。


「なん、で……避けられたの」


純粋に疑問だった。

アイスランス自体は無詠唱で発動出来る。

ただ、それは魔力の暴走の影響を受けて破城槌へと進化した。


反応出来る筈が無い……それがイーリスの感想だった。

速さだって通常時と比べれば上がっている。


アサルトタイガーファングより高い威力と速さを兼ね備えているのではと思えた。

なのに……目の前のライバルは無傷だった。


「イーリスなら……制御出来るって、信じてたから」


その言葉を聞いて膝彼崩れ落ちそうになる。

セルシアの思いをさんざん否定したのにも拘わらず、友人は自分の実力を信じていたと言ってくれた。


その言葉が精神的にイーリスの体を貫いた。


しかし、魔力が切れかかったその隙をセルシアは逃さない。

そう……まだ試合は終わっていないから、相手の感情を考慮せずに動いた。

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