お久しぶりの副騎士団長

メイドと執事部門の大会が無事に終わり、ロックスやセルシア達も一緒に祝勝会を行い、後は明日の為にのんびり休もうと思っていた。


すると宿の職員に俺に客人が来ていると伝えられる。

職員の少し震えた様子を見る限り強面なのか、それとも爵位が高い者なのか……どちらも心当たりがあるな。


そして俺はその客人を自分の部屋に通すように伝える。

俺を訪ねて来た人物……それはレグラート・ミザル・サイガ。以前会ったことがあるこの国の騎士団の副騎士団長。


「やぁ、久しぶりだね」


「どうも、お久しぶりですね」


中へと入れ、座る椅子を用意して向き合う。

いったいこんな時間に何の用だ?


既に祝勝会は終わってるか良いんだけどさ。


「おめでとう、今回の執事とメイドの大会では君の従者が両方とも優勝したみたいだね」


「有難うございます。ただ、二人の力量を考えればそこまで凄い事でも無いですよ」


「はっはっは、そこまで言い切ってしまうとは……よっぽど信頼してるんだね」


「かなり付き合いが長い二人ですからね」


最初は他の奴らのレベルがどれ程なのか知らなかったけど、正直分ってしまえば二人が負ける訳が無いと信用出来る。


二人ほどほぼ毎日戦って戦ってる従者もいないだろうし。


「……正直に言うとね、騎士団では二人を勧誘しようかという話が出たよ。特にシュラ君は是非うちに来て欲しいと思っている者が多い」


「そうですか……それはあれですか、優勝したからですか? それともファイヤーランスの支配権を奪ったからですか?」


「両方だね。シュラ君の年齢は確か十三だったかな? 決勝戦で戦った執事の子の年齢は十七だ。いくらシュラ君が鬼人族であったとしても、四年という歳月の差は大きい。しかしそれを覆す程の実力。その実力を騎士団が欲するのは何かおかしいと思うかい?」


「いいえ、全く思いませんよ」


シュラの現時点での実力を考えても騎士団や権力者からすれば是非欲しい戦力だろう。

遊撃隊に所属しているカロウス兄さんから騎士団には人族以外にも実力のある他種族の者が所属している事は聞いている。


だからシュラが騎士団に入れない道理は無いだろう。


「でも、シュラを放す気は全く無いですよ」


「それは解ってるよ。君は自分の従者を手放す様な性格をしていない」


「そういう事です。あと、何故メリルもなんですか? 確かに優勝しましたし、騎士団には女性がいることも知っていますが」


「ふっふっふ、単純な事だよ。メリル君は今大会で対戦相手をどのような手段で倒したかな?」


「……素手で、ですね」


確か魔弾を使った場面もあったが、そんなに目立つようなシーンは無かった。

なので観客達からすればメリルは殆ど五体だけで優勝したように思えるだろう。


「そうだ。確かに過去に五体のみで大会に挑んだメイドはいるよ。でも、それで優勝した者は誰一人としていない」


「まぁ……難しいでしょうね。高位の貴族の家のメイドは教育も上等なものでしょうし、対武器を考えればリーチに差がある」


「そういう事だよ。ただ、彼女はそれを難なくすり抜けて相手を仕留めた」


一応観客には接戦に見えるようにして最後はカウンターで終わらせるって戦法を取っていたからな。

でも戦い終わった後の姿を見れば、メリルが無傷である事が解かるんだが……そこまで比率は偏らなかったよな。


「でもね、ラガス君。僕達騎士団の上の人間達は殆ど気付いているんだよ……二人が本気を出していないことを」


「……なんでそう思うんですか?」


「どの戦いでも表情に余裕があったからね。あれはただ単に戦いの最中ずっと冷静でいられるからとかそういう話ではない。圧倒的に自分の実力に自信があるからこそ生まれる余裕だ」


なるほど、的を得ている回答だ。

確かに二人は接戦に見える様な戦いをしていたかもしれないが、表情は大して普段と変わっていない。

そこをみればレグラードさんの様な回答が出てもおかしく無い。


「まぁ、二人共毎日俺と模擬戦をしたりモンスターと戦ったりしてますからね。文字通り、経験数が違うんですよ」


「の、ようだね。ただ、私は勧誘が成功することよりも二人の優勝後が心配だったんだが……そこは大丈夫だったのかい?」


「あぁ~……大丈夫でしたよ。俺も俺で色々と考えてるんで」


バカは一定数いたようだが、全員あの世行だ。

バカの家をどうこうしようとは思わなかったが、一応雇った家の名前は全て聞きだして貰っていたので俺のブラックリストに登録している。


もし大会でそいつの家の子供と当たったら……楽に倒さずボコボコにするのもありかな。

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