手心は加えない

「・・・・・・結局大して相手にならなかったな」


「そう、だね。でも、ラガスとしては当然の結果って感じなんでしょ」


「一応な。相手が大剣を使ったのには少し驚いたけど」


決勝戦、シュラの相手は今大会最年長の十七歳の執事。

人族ではあるが結構筋骨隆々で大剣を軽々と振り回す力を持っていた。


そして試合中に扱っていた大剣は勿論魔道具であり、例えシュラでも面倒な武器であるのは間違いない。


ただ、それでも素の身体能力や核の差が少々あったのか、大剣による身体強化の効果にプラスして魔闘気と身体強化のアビリティを同時使用した執事と、ラガスが魔闘気と身体強化のアビリティを使った時の力はややシュラが上回っていた。


その結果シュラの本気パンチが大剣をカウンターでバキッと折ってしまう。

あり得ない、というか完全に予想していなかったんだろうな、そんな結果は。


十七歳の執事は何が起こったのか分からないといった表情になり、その隙を突いてシュラが四発ほど拳を入れ、最後は中段蹴りで場外に吹っ飛ばした。


俺としてはシュラの本気パンチを相手の体にぶち込まなくて良かったと思った。


もしあいつの本気パンチが体に触れていたらその部分がはじけ飛ぶ、もしくは風穴を空ける。

最悪の場合は殺してたかもしれないからな。


「……でも、結果的には半殺しみたいなものか」


「シュラさんの高速パンチ四発に蹴りを腹にぶち込まれたからねぇ~。意識はあっただろうけど、まったく体が動かないって感じだったね」


「一応それなりの相手だったからな。シュラもそこまで手心を加えようとは思わなかったんだろ」


「なるほどね。それで、この後どうなると思う?」


「ん~~~……まっ、当然消そうと考えてる奴はいるだろうな」


メリルの時と同様にそういった馬鹿共が現れる可能性は十分にあるだろう。

ただ、今回もしっかりと対策を打っている。だから心配はいらない。


「でも、それ以外の事を考えてる人もいるんじゃないかな?」


「それ以外の事って言うと?」


「引き抜きだよ。今よりも良い待遇で迎えるからこっちに来ないかっていう」


「あぁ~~、なるほどね。ありそうだな」


二人の実力を考えれば勧誘する価値ありだ。

どの程度の家がそれを考えてるのか知らないけど、今よりも高い給料を支払ってくる家はたくさんあるだろう。


でも、二人は大して金に興味無いしな。


「でも、その辺りもあんまり心配する必要はないかな」


「凄い自信だね。確かに二人がラガスに何があっても付いて行こうと思ってるのは見て分るけど」


「そんなのは……無くはないかもしれないけど、単純に二人は金とかで釣られるタイプじゃないからな」


「……それは凄く解る。強いて言えば強い模擬戦相手が欲しいとかかな? でもそれならシュラがいるもんね」


「そういうことだ。だから二人が金で釣られることは無いだろう」


なんて思ってはいるんだが、ぶっちゃけ少々心配だ。

なので表彰式が終わったら速攻で二人の元へと向かった。


すると案の定、二人は囲まれていた。

貴族本人か、それとも子息や令嬢なのか。どちらにしろ自分の、自分の家の執事やメイドにならないかという誘いを大量に受けている。


ところが、どうやら二人共全て断っている。

一人の貴族が何故自分達の誘いを断るのかと聞いた。


二人の性格を考えれば、そこで俺を侮辱しなかったのは正解だ。

もしそうしていたら……絶対に後々面倒な出来事が起こる。


「シュラ、メリル。帰るぞ」


二人の主人である俺が現れた事で一気に視線が集まる。

二人は大勢の貴族や子息に令嬢に対して一礼するとこちらへやってくる。


シュラとメリルの主人である俺が現れても二人の事を諦めきれないのか、こちらに向かってくる者がいた。


「悪いが、どんな条件を出されようが二人を渡すつもりは無い」


少々怒気と殺気を混ぜながらそう伝える。

それなりに効果があったようで、こちらに来ようとしていた者も含めて全員脚が止まった。


ほんと、貴族って欲が深いよな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る