出てしまった笑みと言葉

決まった。渾身の一撃が決まった。今自身が繰り出せる最強の一撃を放つ事が出来た。


この一撃で完全に倒す事が出来なくても、ダメージは大きい筈。

そう思える程にジークは自身の放った魔闘気の斬撃に自信を持っていた。


魔闘気の刃はラガスに直撃したと同時に大きな土煙を起こした。


(完全に倒れていないと分かった時点で即斬りかかる!!!)


魔力と闘気を混ぜ、魔闘気を生み出したとはいっても魔力の残量が無くなった訳では無い。

身体強化のアビリティも使い続ける。


いつでも斬りかかれるようにダッシュの態勢を取るが、そこで動きが止まってしまう。


完全に倒れていないと分かった時点で斬りかかる。そう決めていたのに体が動かなかった。


(う、そ・・・・・・だろ)


土煙の中に見えるラガスの影は確かに膝を地面に付いていた。

だが、魔闘気の刃を喰らった事なんて意味を為さなかったかのように立ち上がった。


直ぐに気持ちを切り替えて攻撃を再開すれば良い。

頭で解っていても、自身の最強の攻撃が相手に一切のダメージを与えていなかったことに、心がショックを受けていた。


更に動けなかった理由はもう一つ。


土煙の間から見えたラガスの笑み。



side ラガス


魔闘気の刃を放ってくるのは本当にびっくりしたな。

あれって魔力操作の技術がある程度あって、闘気もある程度操れて感覚的センスがある人じゃないと出来ないって父さんが言っていたんだが、歪な形とはいえそれを為す技術とセンスがジークにはあったって訳か。


やっぱり努力は積んできてるみたいだな。性格は悪いかもしれんが。


ただ、なんだろうな。

別に俺ってドSな性格じゃないと思っていたんだが、もしかしたら・・・・・・いや、単にジークとは別の意味で性格が悪いだけか。


なんか、こう・・・・・・ゾクゾクするな。


「自身が今だせる最強の一撃、その一撃に希望を見出した表情が、相手に全く効いていないと解った時に変わるその絶望した表情・・・・・・ははっ、最高に良いスパイスだな」


俺は今、どんな笑みを浮かべている?

鏡が無いから自分では解らない。でも、恐らく悪魔。もしくはピエロの様な人を虚仮にすような、それでいて恐怖心を与える様な笑み。


普段の俺なら考えられないよな笑みを浮かべているだろうな。


ジークの奴、作戦が完全に崩れたからか動かなくなったな。


「ナーガルス、お前は俺が努力をしていない様に思ってるのかもしれんが、俺は俺なりに努力してるんだよ。基本属性の魔法アビリティを習得出来てなくても、自分の意志を貫けるようにな」


精神的なダメージと恐怖で動けないジークに向かってラガスは左手で銃の形をつくり、狙いを定める。


「魔弾」


人差し指から放たれた魔弾はジークの少し手前に当たり、そのままバウンドして顎を撃ち抜いた。


「がッ!!??」


遠距離の攻撃が来ることは解っていた。

しかしどんな攻撃が来るか頭の中をフル回転して考えていた事が仇となり、魔弾の回避に遅れた。


ラガスが放った魔弾に貫通力が無かった為、ジークの顎が抉れる事は無かった。

しかしそれでも骨にひびが入り、脳が揺れた事でジークの視界が揺れる。


「これで、俺の勝ちだな」


魔弾を放った直後にゆっくりとジークとの距離を詰め、脳が揺れた影響で地面に倒れた隙に頭の上に剣先を置く。


「そうだな、お前の言う通りだ。この勝負、ラガス・リゼードの勝ちだ!!!!!!」


教師の宣言により、観戦していた生徒達からは歓声があが・・・・・・りはしなかった。

最後、殆どの生徒が何が起こってジークが負けたのか理解していなかった。


ラガスが魔闘気の刃を受けて無傷で済んでいる事実など、受け入れがたい内容。


それにラガスが言葉に出したヒールな感情。


そして・・・・・・ラガスが告白した、基本属性の魔法アビリティを習得していないという言葉。


魔法を習得していない者に、魔法を扱える者が破れる。

生徒達の常識が崩れるには十分な結果だった。


「センスは悪くないと思うぞ」


自身に魔法を軸にして戦わず、不完全ながらも魔闘気の刃を繰り出した事。

それらは世の中の十歳が基本的に出来る考えや芸当では無い。


その言葉を後にしてラガスはロックス達が待つ入口へと戻った。




解る人には解るネタをぶっこみました。

大好きなシーンなんで。

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