懐かしい者
筆記試験の会場に着いてからも俺に対する鋭い視線は止まない。
いい加減辞めて欲しいもんだ。
今後の事を考えると胃がキリキリするんだが。
「ねぇ、ラガス。ラガスは態度だけど口だけの人は、嫌い?」
「なんだ突然に。まぁ・・・・・・態度は友好的なものは嫌いじゃないけど、そうでない態度は嫌だな。口だけの人も嫌いだ」
「そう。私も、嫌い。同じだね」
ある程度周囲に聞こえる声での会話。
受験生たちは試験に集中するために殆ど喋っていなかったので、俺達に会話は良く響いた。
すると俺に対する嫌悪感や嫉妬などを含む視線が次第に薄れていった。
もしかして俺達に会話を聞いてセルシアに悪い印象を与えないようにしようと思って止めたのか?
というか、セルシアもこうなるって予想出来たから俺にあんな質問を訊いて来たのか。
まっ、全ての視線が消えたって訳じゃ無いけど、有難いことに変わりはない。
「ありがとな」
「どういたしまして。これで、集中できる?」
「ああ。お陰様でな」
ただ受験生たちからなんで俺が公爵家の娘であるセルシアと仲良さそうに喋ってるんだと疑問に思う気持ちが強くなるだろうな。
めんどくさいなぁーーと思っていると、視界に映る一人の受験生が俺に小さく手を振っていた。
ちょっと遠くて誰か分からなかったが、良く見りゃ王都のパーティーで喋ったロックス・セーゲルか。
あいつも同じ学園を受けるとはな。
俺と同じで将来はハンターとして活動するって言っていたからハンターの卵を育成する学園に入学すると思っていたが、まさかこっちに来てたのか。
俺は挨拶の意味を込めて軽く手を振り返した。
「友達?」
「そこまで親しくは無いと思う。王都に来た時のパーティーで喋った俺と同じ男爵家の子息だ」
懐かしいな。
もう、五年ぐらい前のことか?
俺も大きくなったと思っていたけど、向こうもしっかり成長してるみたいだ。
「全員いるな。これから筆記試験を行う。一番先頭の者は後ろの者に問題用紙と解答用紙を回してくれ」
試験開始の五分前程となり、複数の教師と思わしき人物たちが入って来た。
「試験時間は五十分だ。私が終了の合図をしたら即座にペンを置くように。あと、解っているとは思うがカンニングをすれば即刻退場にする。言っておくが、私が試験中に使うアビリティは国王陛下から使用許可を貰っているものだ。お前達の良い訳は一切通用しない事を覚えておけ」
カンニング対策に使えるアビリティか。
一定の範囲を三次元に見渡せるアビリティとかかもしれないな。
そんで耳に付けているおそろいのイヤリングはおそらく通信系の魔道具。
それで誰がカンニングをしたと分かった瞬間にひっ捕らえるように指示を出すってところか。
「・・・・・・よし! それでは筆記試験を開始する。最後まで諦めずに考え抜け。始め!!!」
試験監督である教師の一言で一斉に問題用紙に目を通し始める。
俺は一問ずつ解かずにまずは問題用紙すべてに目を通してから回答を始めた。
そしてケアレスミスを起こさないように問題を解いていると、開始十五分ほどでカンニングをした生徒が現れた。
その受験生は直ぐに捕まえられ、どこかに連行されてしまう。
まだ実技試験があるんだからそっちでカバーしようとか考えないのか?
試験開始から試験終了まで俺の記憶が正しければおおよそ三百人ほどいる受験生の中で十数人がカンニングがバレて教室から追い出された。
中には親に言いつけるぞと阿呆な事を教師達に吠えている馬鹿がいたが、単純に恥をさらしていることに変わりはない。
俺は二十分程で全問解き終え、一眠りしようと思った。
しかし問題をおそらくパーフェクトで解いてしまったので慌てて字を消す専用の魔道具で消し、一般的に間違えそうな問題をわざと間違えるか空欄にしてから机につっぷして寝た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます