全力の本気

数は六人か。

当たり前だが、俺より素の身体能力は上か。

それに狼竜眼で視た結果、俺が競えそうなアビリティはそう多くは無いな。


「客かと思って結界を解除しておいたのが仇となったな」


「んな事はどうでもいいだろうが。このガキ無茶苦茶強い。それだけで俺はぞくぞくするぜ!!!」


「戦闘馬鹿は黙ってて。頭が痛くなる」


真面目そうな兄ちゃんにとやんちゃそうな兄さんにクールな姉ちゃん。

俺より歳は上なのは当たり前だが、二十歳を超えているか超えていないかって年齢か?


「ふむ・・・・・・坊主。中々器用な事をするな。いや、そこまでの域に達していれば一つの技とも言えるか」


三十半ばぐらいのおっさんはどうやら俺の周囲に浮かぶ魔弾や麻痺弾等に気が付いたようだ。


「若いのに大した腕ね。転がっている人達だってそこら辺のハンターや騎士なら暗殺出来る腕を持っているのに」


そして受付嬢? の姉さんより更に色気がある二十代後半のお姉さんの言葉で今の俺の状態がどれほどまでに強いのか解った。


「・・・・・・少年、名は何という」


「人の名前を訊く時はまず自分の名を名乗るって教わらなかったか」


「生憎そういった常識は教わっていない。だが、今回は俺が先に名乗るとしよう。暗殺ギルド、ディーザスのマスターであるゼロだ」


うん、知ってる。

バルンク様から貰った手紙に書かれてあったし。

見た目は二十代後半の男


この人だけ完全に別格って感じだ。

ルーフェイスの警戒心も高まっている。


「俺はラガス。こいつはルーフェイス」


「ラガスか。おそらく貴族の子息なのだろうが、今置いておこう。そしてそちらが世にも珍しい狼竜か・・・・・・なるほど、確かにあまり生きた心地がしないな。そして、お前達の目的はこのギルドを乗っ取ると言っていたな」


「そうだ。まぁ、正確には俺の依頼を無料で受けて貰うってのが狙いだけどな」


「はっはっは!!! 暗殺者をただで働かそうってのか、中々ぶっ飛んだ野郎だぜ!!!」


「普通に考えて非常識。でも、やろうとしている事は納得。私達も意のままに動かせば色々と出来る」


やんちゃそうな人はずっと元気なままだな。

クールな人は何かちょっと勘違いしてそうだ。俺は別にそこまで大層な事をしようとはしていない。


「坊主、別に俺達の力を使わなくてもお前さんなら自身の力で大抵の事は何とか出来るんじゃないのか?」


「かもね。でも俺は目立ちたくないんだ。それに周囲の人に迷惑をかけくないからね」


「なるほどねぇ~~~。でも、学園に入ったからってそこまで面倒事に遭遇するものかしら?」


そこはやはり気になるか。

なんでこんなガキがわざわざ王都で一番名高い暗殺ギルドを乗っ取ろうとしたのか。

というか、なんで俺が学園に入学するって分かったんだよ。


「高確率で面倒事に遭遇する。少し経てばあんたらの耳に別の形で俺の名前が入るんじゃないか?」


「そうか。さて・・・・・・全員、手を出すな。ラガス、と呼ばせて貰う。一度君の本気を見せて貰いたい」


「良いぞ。俺だけなんて言わず、ルーフェイスの本気も見せてやるよ」


グロウバレット。魔弾のアビリティで習得出来る一つの技。

使用制限は日に三弾。

撃った対象を強制的に成長させる。ただ、対象が高齢者の場合は肉体を全盛期に戻す効力がある。


だが、これを使用してか効果が解けた後は丸一日ほど魔弾のアビリティが使用不可になる。

でも効力が続いている間は服が破れたりしないおまけ付きなので、俺としてはそこまで問題は無い。

魔弾を使わなくても通常の魔力弾はある程度操れるからな。


俺の肉体は二十代半ばに変化し、ルーフェイスも体の大きさこそ変わらないが発せられる威圧感は先程までとは日にならない程大きくなる。

味方の俺でさえブルッてしまうほどヤバい。

転がってる奴らなんか自分達は今日絶対に死ぬんだって顔してるな。


「さて、ゼロさん。あんたが俺とタイマンで戦う。それで良いんだな?」


ドラゴニック・ビルドアップ、発動。


「ッ!!!! それが、君の本気という訳か」


「ああ。これが俺の全力で本気の状態だ」


竜魔法の中で初歩的な身体能力強化の魔法。

獣魔法や鬼魔法とは段階が違う。種類が違うとも言えるけどな。


「さて、どうする。今からおっぱじめるか」


狼牙瞬雷を抜き、アブストエンドを左手に持つ。

二刀流は体術や魔弾と比べると技量は劣るが、この状況なら寧ろ二刀流の方が都合が良い。


「・・・・・・いや、やめておこう」


はぁっ!? ちょい待て、まだ戦ってすらいないだろ!!

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