第8章 やりましょう

第26話 ずっと叫びたかった想い

 布団の中に入っても、全然眠気なんて襲ってこなくて、むしろ、脳内から頭がおかしくなる成分が分泌されているかのような、そんな感覚を味わった。


 気が付けば、朝日がカーテンの隙間から差し込んできた。

 今は何時だろうとスマホで確認しようとしたところで、自分で壊してしまったことを思い出す。そういえば、そのことに関しても、由吉さんたちに伝えていなかった。


 いや、今はもう、そんなことはどうでもいいのか……。


 きっとわたしは、今から自分がやろうとしていることで、とんでもない迷惑をかけてしまうのだから。


 許してほしい、なんて思わない。

 むしろ、恨んでほしいとさえ思っている。

 こんな奴、居候させるべきじゃなかったと、わたしを罵ってほしい。


 わたしは、そっと扉を開けて、誰もいないことを確認する。

 こんな早朝だ。誰かが起きているとは思っていなかったけれど、それでも用心するに越したことはない。

 階段をゆっくりと降りて、リビングへと続く扉を開ける。そこにも、誰の姿もなかった。


 そしてわたしは、キッチンへと足を運ぶ。

 久瑠実さんの掃除が綺麗に行き届いていて、シンクもピカピカだった。

 なのに、わたしが侵入したことによって、薄汚れた場所に変化してしまったように感じたのは、もはや皮肉を通り越して、自意識過剰ともいえる。


 どうしてこんなことを、思いついたのかはわからない。

 だけど、わたしはもうやると決めたのだ。


 そして、シンクの下の棚を開けると、目的のものは、すぐに見つかった。


 

 わたしは数種類あった包丁の中から、一番鋭利なものを手に取った。



 ためしに、人差し指で刃先をなぞってみると、チクッとした感覚とともに、赤い液体が流れだしてきた。


 うん、これなら大丈夫。

 わたしは今まで包丁なんて、家庭科実習でしか握ったことはなかったけれど、柄を握りしめると、何故だかしっくりときてとんでもない力を手に入れてしまったような錯覚に陥ってしまう。


 これで、準備は整った。

 あとは、わたしがこの家から出ていくだけだ。


 そして、わたしが包丁を持ったまま、キッチンを立ち去ろうとしたときだった。


「なにしてるの? 愛美ちゃん」


 ……やっぱり、一筋縄では、いかないよ、この人は。


「蓮さん。おはようございます」


 わたしは、いつもと同じように挨拶をした。自分でも驚くくらい、ニュートラルな声質だった。


「『おはようございます』じゃないでしょ?」

 蓮さんが、そんな返答をしてくる。スウェット姿は、初めて見たけど、服装だけじゃなくて、こんなに怖い顔をした蓮さんを見るのは初めてだった。


 それでも、わたしは、怯むことなく、蓮さんと対峙する。

 蓮さんは、そんなわたしの態度を見て、眉間に皺を寄せる。


「まずは、その持ってるものを元のところへ戻そうか」

「……嫌だって言ったら、どうしますか」

「わかった。まずは話を聞く」

「わたしから話すことなんて、何もありません」

「悪いけど、僕は君に聞きたいことだらけなんだよ。でも、しいて一つだけ聞かせてほしいことがあるとすれば……」

 一息区切ったあと、蓮さんは告げる。

「愛実ちゃん。君は、その包丁でなにをするつもりだい」

 わたしは、思わず笑いそうになるのを堪えて、蓮さんを睨みつけながら、答えた。



「ちょっと今から、人を殺しに行ってきます」



 包丁の柄を、強く握りしめながら、宣言する。

 そうだ、わたしは今から、人を殺そうとしている。

 そのために、わたしは学校に行く。もしかしたら、霧島たちは学校には来ていないかもしれない。それならば、街中を捜し回っても、あいつらを見つける。


 おまわりさんに先を越されて、逮捕される前にわたしがあいつらに罰を与えてやるんだ。

 法律なんて生ぬるい、形だけの刑罰なんて許せない。

 今のわたしなら、人間の一人や二人、簡単に殺せる気がする。


 あいつらの身体を、これでもかというくらい、刺して、切り刻んで、原型がなくなるくらい、バラバラにしてやるつもりだった。

 それで智子が報われるなんて、そんなことは思わない。復讐なんて言葉も、絶対に言わないつもりだけど、今のわたしにできることは、せいぜいこれくらいだと思った。

 ちょっと早い登校なのは、待ち伏せするくらいがいいと思ったからだ。

 きっとあいつらは、わたしの姿を見て、嘲笑い、優越感に浸るだろう。

 昨日のことがあったから、伊丹はわたしに関わりたくないと思っているかもしれないが、そうはいかない。

 主犯が霧島だったとしても、あいつも智子を馬鹿にして、笑ったんだ。


 だからあいつらは、わたしの手で殺すのだ。

 わたしに関わったことを後悔させながら、殺してやる。


「どいてください、蓮さん」

 蓮さんは、わたしの宣言を聞いて、なお、ここから引き下がろうとはしなかった。

「駄目だ。今の君を、この家から出すわけにはいかない」

 蓮さんが一歩、わたしに怯むことなく近づこうとする。


 そうですか。

 それなら仕方がない。


 蓮さんには悪いけれど、包丁でどこまで人を傷つけられるのか、試してもいいかもしれない。

 そう決意し、わたしが蓮さんに、包丁を向けようとしたそのときだった。



「蓮、もういい。ここからは、僕の役割だ」



 蓮さんの肩を掴む人影が現れた。


「由吉さん……」

 そこには、パジャマ姿の由吉さんがいて、久瑠実さんがいた。久瑠実さんの後ろには、少し怯えた様子の憂ちゃんもいる。

 近江家の人たちが、わたしを見ていた。

 さすがにここで、「おはようございます」なんて、惚けた挨拶をできるはずもなかった。

 それに、蓮さん同様、由吉さんも、今まで見たことがないような形相をしている。


「愛美ちゃん……、馬鹿なことを、考えないで」

 久瑠実さんが、わたしに言った。その瞬間、昨日、久瑠実さんに抱かれたときの温かみが、わたしの中で駆け巡る。


 だけど、わたしはそれを無視する。

 拒絶する。


 こんなもの、本当に、わたしには必要ない。

 受け取る権利もない。


 だから、代わりに包丁を構えて、近江家の人たちに告げる。

「どいてください。わたしは、行かないといけません」

 冷たく、無感情に発した言葉を聞いて、憂ちゃんが「ひっ」と久瑠実さんのパジャマを強く握ったように見えた。

 そうだよ、憂ちゃん。わたしはこういう、ちょっとおかしな人間だから、怯えて、嫌いになってほしい。

 そうすれば、わたしも心残りがなくなるから。


 わたしは、誰からも嫌われる、最低な人間になれる。

 人殺しだって、怖くなくなる。


「駄目だ。どくわけにはいかない」

 しかし、由吉さんは、わたしを通そうとはしなかった。

「愛美ちゃん……、昨日、君たちに何があったのか僕にはわからないし、無理に聞こうとは思わない。だけど、君がこれ以上傷ついてどうする? そんなこと、僕が許さない」

「……言っている意味がわかりません」


 わたしが傷つく? 

 この人は一体何を言っているのか、わたしはわからなかった。


「愛美ちゃん、僕は、烏滸がましいかもしれないけれど、君が手紙をくれたとき、この子を助けなくちゃいけない……って思ったんだ。君の家庭の事情は、少しだけど、聞いていたから」


 ビクッ、とわたしの身体が震えてしまう。


「なんで……」


 なんで……なんでいま、その話をする。


 頭の中で、小さなノイズが響いて、言葉に変換されていく。


 母親の声が、わたしの意識を支配する。


 ――あんたなんて……。



 ――あんたなんて、生まれてこなければ良かったのに。



「うるさい!」


 小さい頃に、わたしに対して言われた言葉が、頭の中で何度も再生される。


 それに抗うように、頭を抱える。


 その場に倒れそうになるのを何とか堪えて、由吉さんを睨む。

 そして、自分の中にある怒りを、彼らにぶつけるように、叫んだ。


「もうわたしのことなんて、ほっといてよ!」


 一度吐きだしてしまった感情は、もうわたしの意思とは関係なく、次々に外へと露出する。


 わたしの汚い部分が、醜い部分が、全てあらわになる。

 だけどもう、どうでもいいんだ。

 もうわたしは、この人たちにどう思われようが、知ったことではない。


「わたしはこういう人間なんだってどうして分からないのっ! 優しくされる資格なんてない人間なんだよ! 生まれてこないほうがいい人間だったんだっ!」


 もう滅茶苦茶で、支離滅裂だってことすら、このときのわたしは判断できていなかった。

 今までの人生で、わたしが思っていたことを口に出すしか、自分の意識を保っている方法が見つからなかった。


「わたしがっ、わたしが生まれたせいで、お父さんもお母さんもおかしくなっちゃったんだ! わたしがっ、わたしが生まれたせいでっ!」


 どうして、こんなことを今、この人たちに伝えるのだろう?

 わからない。わからないけれど、止められなかった。


「わたしは……わたしは……お父さんの子供じゃなかった……。わたしは、本当の『家族』じゃなかったんだよっ!」


 当時、小さかったころのわたしには、よくわかっていないことがたくさんあったと思う。


 理解できていないことが、多すぎた気もする。

 だけど、ひとつだけ、確かなことがあった。



 わたしは、お父さんの本当の子供では、なかった。

 お母さんが、違う男とつくった子供だった。



 それが、どういう意味なのかわかったときには、すでに事態は終わっていた。

 お母さんも、お父さんも、そしてわたしの人生も、終わってしまった。


 それまでは、ごく普通の、一般的な家族だったと思う。

 休みの日には家族みんなでピクニックに行って、買い物をして、授業参観には二人とも出席してくれて、わたしの誕生日には、ケーキを囲んで祝ってくれる、そんな家族だった。

 だけど小学校四年生になったくらいの年に、お父さんが、わたしに「お掃除だから」と言って、綿棒を口の中に入れてきたときがあった。

「掃除」だなんて、どうしてお父さんはそんな変な嘘を吐くのだろうと疑問に思ったけれど、口には出さず、数時間後にはそんなことはきれいさっぱり忘れてしまっていた。

 それがDNA鑑定に必要な手続きだと知ったのは、少し後になってからのことだ。

 結果は、先ほど伝えた通りだ。


 わたしとお父さんは、99・9%の確率で、親子関係ではないと判断された。


 その結果を、お父さんは目に涙をためてお母さんに伝えていた。

 それから、『家族』は崩壊した。

 今さら、血の繋がっていない子供を、お父さんは愛せなかったのだろう。

 お母さんも、わたしを悪魔の子供であるかのような目つきで、睨むことが多くなった。

 大人の事情だから、どうして二人が別れないのかなんて、わたしは知りたくもないけれど、お父さんとお母さんがわたしを嫌いになったのは、痛いくらいにわかってしまった。


 だからわたしは、『家族』が嫌いになった。

 自分のことが、大っ嫌いになった。



 わたしなんて生まれてこなければ、お父さんもお母さんも、幸せになれたのに。

 もうこれ以上、壊れていくお父さんもお母さんも、見たくない。



 だからわたしは、逃げるように近江家にやって来た。

 近江家の人たちは、ほとんど赤の他人であるはずのわたしを受け入れようとしてくれた。

 わたしが失ってしまった『家族』の姿がそこにはあって、わたしまでもその『家族』の仲間入りをしたような、そんな勘違いをしてしまいそうだった。


 わたしでも、幸せになれるんじゃないかって、何度も思ってしまった。


 だけど、やっぱりわたしに、そんな幸せは訪れない。


 お父さんとお母さんの関係を、人生を無茶苦茶にしたわたしが、これから楽しく人生を過ごすなんて、許されるはずがなったのだ。

 それを証明するように、智子はわたしのせいで、あんな目に遭ってしまった。

 わたしなんかと、関わってしまったせいで……。

 きっと、近江家の人たちともこれ以上関わってしまったら、今度はこの家族を、わたしが崩壊させてしまうかもしれない。

 そうなる前に、自分自身で、決着をつけなければならない。


「だから、終わらせるんだ! わたしがっ、わたしがあいつらを殺して! わたしも一緒に死ねばいいんだ! そうしたら、全部が終わるんだ!」


 わたしに居場所なんてないことが、十分にわかった。

 もう、生きている意味も、わからなくなってきた。

 だからせめて最後に、やっておかなければならないことをして、死んでしまおう。

 もっと早く、そうすればよかったんだ。


「お願いします……そこをどいて下さい。じゃないと、わたしは、あなたたちも傷つけてしまうことになります」

 両手で柄を握って、臨戦態勢をとって、動こうとした。

 だけど、わたしの動きより早く、由吉さんが動いた。


「愛美ちゃん……」

 わたしの名前を呼びながら、一歩ずつ、確実に、近づいてくる。

「こっ、来ないで!」

 わたしは、叫んで、由吉さんを威嚇する。

 それでも、由吉さんは、こちらにくるのをやめない。

 ブルブルと、しっかり握っているはずの包丁が、小刻みに震えだす。

 そして、わたしがちょっと前に手を伸ばせば、わき腹を刺せるくらいの距離まで由吉は近くにきた。


「愛美ちゃん、もう止めるんだ」

「こっ、来ないでって言ってるでしょ!」


 呼吸をするのが苦しいくらい、喉が熱くなった。

 覚悟、しなければならないときだった。


 わたしは、震える手を無理やり動かそうとした。



「……………………えっ」



 だが、できなかった。

 包丁を、一ミリたりとも、前に動かせなかった。



 何故なら、由吉さんが、包丁の刃の部分を、がっしりと握ってしまったからだ。



 ポタポタと、真っ赤な液体が、滴りおちる。



「……ひっ」

 過呼吸を起こしているんじゃないかと思うくらいに、肺が苦しくなる。

 汗が噴き出す。

 身体が今まで以上に、震えはじめる。


「どうしたんだい、愛美ちゃん?」

 由吉さんが、何かをわたしに問いかけてきたような気がするが、全く耳に入らなかった。


「パパッ!」

 憂ちゃんが、くしゃくしゃになった顔で、自分の父親を呼ぶ。そんな憂ちゃんを久瑠実さんが抱きかかえながら、わたしを見る。

 久瑠実さんの瞳からは、わたしに対する憎悪なんて感じられなかった。むしろ、愛情に近い、そんな感情を帯びているように、わたしには見えた。

 こんな状況になってさえ、久瑠実さんは、わたしのことを、そんな目で見てくれた。


「これでわかったかい、愛美ちゃん。君には、人を傷つけることなんて、できないんだよ」


 由吉さんが、包丁の刃を握ったまま、わたしに言った。

 わたしはただ、ブルブルと震えて、焦点の合わない視線を、由吉さんに向けるだけだった。

 由吉さんは、話を続ける。


「君はいつも、僕たちと壁をつくって、近づかないようにしていたね。その理由が、やっとわかったよ」

 そして、わたしにこう告げた。

「愛美ちゃん。もう自分を苦しめる真似はやめるんだ。これじゃあ本当に、君は幸せになれなくなってしまう」

 いいかい、愛美ちゃん……と、由吉さんは、いつものような……ずっとわたしに見せてくれた快活な笑顔で、言った。


「君が不幸になる理由なんて、なにひとつないんだよ」


 そして、由吉さんはわたしにはっきりと、こう告げた。

「君のせいで、他人が不幸になるなんてことはない。僕はね、愛美ちゃんがこの家に来てくれて、本当に嬉しかったし、毎日楽しかった。久瑠実さんも、蓮も、憂も、きっと僕と一緒の気持ちだと思う」

 わたしは、由吉さんの後ろにいる三人を見つめる。

 みんな、わたしを心配そうに、見つめていた。

 誰一人、わたしに嫌悪感なんて抱いていなくて、本気でわたしを止めようとしてくれている。

 わたしを、受け入れようとしてくれる。


「なん……で。なんであなたたちは、こんなに優しいんですか?」

 わたしの口からしぼり出た声は、そんな問いかけだった。

 わたしなんて、優しくされる価値もない、最低な人間のはずなのに。

 ここにいたら……この家族に混ざってしまったら、自分も、普通の人間なんじゃないかって、勘違いしそうになるくらいだ。

 それが、わたしにとっては、苦しくて、辛かった。

「それは、僕たちが君のことを家族だと思っているからさ」



 家族。

 わたしの嫌いな、家族。



「だから、苦しいときは、僕たちに頼ってほしいんだ」

 そのはずなのに、由吉さんの言葉を聞いた瞬間、わたしの瞳から、涙が溢れてきてしまって、ついには握っていた包丁を、放してしまう。


 コトンッと、包丁が落ちる。

 刃の部分が真っ赤に染まっていて、まだポタポタと、由吉さんの手からは血が流れ出ていた。


 わたしは、崩れ落ちるように膝をついて、呟いた。



「たすけて……ください……」



 そんな言葉、今まで、思いついたことともなかったし、たとえ思っても、口に出すことはない言葉だと信じていた。


 わたしは、ずっと独りで誰からも愛されず生きていくんだと思っていた。

 だけど、わたしを認めてくれる人たちが、目の前にいる。

 そして、もう一人、わたしのことを、認めてくれた子がいたのだ。


「わたしの……わたしの『友達』がっ、わたしのせいで傷ついて! もう、どうしたらいいのかわからなくてっ! あの子は! 智子はわたしの『友達』だったせいでっ!」


 喉が張り裂けそうなくらいの泣き声をあげながら、叫ぶ。


「もう……もう嫌だっ! わたしのせいで誰かが傷つくのはっ! わたしなんていなかったら良かったのに! わたしなんてっ!」


 かっこ悪くて、みっともない姿だと、ほんの少し前までの自分が見たら、罵声を浴びせるかもしれない。


 それでも、今だけは、誰かに助けてほしくて。

 この人たちに、自分を助けてほしくて。


「わたしは、どうすればいいんですか……。わたしは智子のために、なにができるんですか……?」


 そんなこと、由吉さんたちに言っても、どうしようもないことのはずだった。

 だけど、由吉さんは、血に染まっていない左手で、わたしの頭を撫でてくれた。

 由吉さんの手は、大きくて、温かい。

 初めてわたしの手を握ってくれたあのときと、同じ感覚がわたしを襲った。


「愛美ちゃん。今までよく、ひとりで頑張ってきたね。でも、もう安心して後のことは僕たちに任せてほしい。だから……」



 ――もう自分を傷つけるのは、やめなさい。



「うっ……うっ、うわああああああああああああああっ!」


 わたしは、これまでの人生で、ずっと溜めてきた感情を全てぶつけたかのように、大声を上げて泣いた。


 泣いて泣いて泣いて泣いて、泣き叫んだ。


 いつの間にか、近江家の人たちは、わたしの手を、ぎゅっと握ってくれていて、久瑠実さんも、蓮さんも、憂ちゃんも、わたしを守るように、傍にいてくれる。 


 わたしは、それが嬉しくて、また泣いてしまう。


 もう、わたしの中にあった、業火の如く燃え上がる感情は消えてしまっていたけれど、それでも、泣き続けるわたしの傍には『家族』の人たちがいてくれた。



 わたしは、家族なんて嫌いだ。



 だけど今だけは、そんな嫌いな家族という存在に、救われたような気がした。

  

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