戦争終わり



「ダンデスさん、もうグラディウスに帰るんですか? 」


シャティがマッシャルーム王国特産の茸を串に刺してチーズを乗せ焙った物を食べながら聞く。


…… 美味そうだなおい。


「…… ああ、というか少し国を離れようと思う。 」

今、俺とシャティはマッシャルームの被害を免れた商業区にいる。

人々は意外と笑顔で生活をしている。

駆けつけたグラディウス王国の兵士が通る度に嫌な顔をするが、それを踏ん張り人々は生きている。


王族の悲惨な死に様と貴族のみが戦後に割りを食う方針をとったから…… 極論だがな。


マッシャルームの人々は恐怖と安堵を与えられ思考を停止してしまったのだ。


「ダンデスさん…… かなり取っ散(ち)らかした感じになってるんですが…… 」

「痛いとこをつくな。まぁ…… そうだよなぁ…… 」

ルー・ルー・ルー氏の授業と契約

冒険者ギルドとゲルハル

騎士団長との関係

マッシャルーム王国を潰した責任


全てが立身出世の為だが、その立身出世の理由が松本への復讐と防衛だった……


「それよりシャティは俺と一緒にいていいのか? 」

「え? 何でですか? 」

どうやら考えの齟齬(くいちがい)があったようだ。

この世界に生まれ、生活して親にも裏切られた娘にとっては暗殺やら戦争やらは吃驚仰天(きっきょうぎょうてん)ではあるが侮蔑するに足りんようだ。


いや、シャティは俺を好いている。

それで倫理に対して目が曇っているだけなのかもしれない。


この茸を頬張る娘が無性に愛おしくなるな。

「よしよし」

「ふへ? えへへへ」

シャティは頭を撫でられ照れながら笑った。


さて、何をどう片付けるか…… だが……

ルー・ルー・ルー氏の契約は破棄でいいだろう。

彼女を利用する理由は松本と対峙する時のために王族に近づき後ろ盾が欲しかったからだ。


副産物としてエルフの指輪を手に入れたのも大きいが、それ以上を望む事は今の俺にはない。


騎士団と団長の関係だが…… これはもう放置か出来るだけ遠去かり生きたい。

俺はこの世界の軍事行動を甘く見ていた。

勝てば官軍、負ければ賊軍とはよく言ったものだが、少しばかり…… いや大層に危ない集団であると思う。


魔法が栄える世界なので世界的な協定がないのか戦犯という言葉が通用しない。


個別の能力(アビリティ)の差異がありすぎて、どれがダメでどれを使用していいか定められないのだ。


地球で例えるとハーグ条約のようなものが全くない。


その中で軍の燃料として幸運の付与をしながら生きるのは流石に辛い。王子の目を見てしまったから…… これは弱気になってしまったからだろう…… 精神がもたんと思う。



これらを合わせ考えると旅に出るというのが一番の逃げ道だ。


着の身着のままこの世界に来た身としてはグラディウス王国は好きだが自由を縛る必要は無い。



ただ、友人であるゲルハルにどう伝えたものだろうか……


俺は、男の友情を守るとか情誼(じょうぎ)に厚いのは嫌いだが…… ゲルハルには……


「ダンデスさん? 」

「あ…… あぁ、すまんすまんシャティ…… 長考に好手なしと言うが、どうもな」

「もう、お爺ちゃんみたいな話し方して」

うふふとシャティは俺の腕に抱きつく。


うむ、かなり良い感じになったな。

乳や肉付きやら表情が実に良くなった…… 預かっていてくれた冒険者ギルドには感謝せんとな。


「さぁ、もそっと屋台のご飯を食べて来なさい」

「はーーい! 」

シャティは一目散に肉を焼いている串焼き屋に走っていく…… 本当に元気な子になった。

彼女に助けられてばかりだな。



□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■



「どうしますか? 」

「はぁーダンデスちゃん…… 」

「団長? 」

肉屋をハシゴするシャティに付いて右往左往するダンデスを物陰で隠れて見ながら団長は頬を赤らめる。


団長がマッシャルーム王国を蹂躙した後、魔力切れを起こし倒れそうになる団長にダンデスは駆け寄り抱きしめニコリと笑い、つい今、民族浄化(エスニッククレンジング)を行なった彼女を恐れずに

「お疲れ様でした」

と優しく労ったのである。


団長は今まで味わった事のない優しさと、胸に燃えるような好情(こうじょう)を覚えた。


愛や恋をした事がない団長が、それにハマるのに時間を必要としなかった。


副騎士団長のロッキーはダンデスを再度勧誘しようと機会を伺っていたのだが、まさか此度のマッシャルーム王国との戦争において最重要人物となるだろう彼(ダンデス)から王国を出て旅に出るという言葉を聞くとは思わなかった。


「団長、ダンデス殿が王国を出ようとしていますが…… 聞き耳を立てていましたか? 」

「うわっ? あ? ええ!? ダンデスちゃんがそんな事を? 」


やはり聞いていなかったか…… とロッキーは肩を落とす。


この団長と結婚する男はそうはいない。

ましてや団長がこれ程に熱をあげる相手は次にいるのだろうか? との疑問もある。


ダンデスの行なった付与の価値は騎士団と同等か…… いやそれ以上か?


対等な関係で団長が好意を寄せる事はもう無いだろう。


「団長、何とかしませんとダンデス殿が…… 」

「そそそそれはいけない! なんとかせんと! 」

ロッキーは団長がダンデスと身を固めてくれたらと、真っ赤になり慌てる団長を笑いながら眺めていた……







グサリ……


2人は、忘れていた。

ここはつい先日まで敵国であった事を


グサリ……


2人は浮ついていた

色恋を始めて知った興奮に

娘のように育てた団長が恋をした事を



グサグサグサ……


2人は戦争が大勝利し浮かれ失念していた。

マッシャルーム王国は宣戦布告をしたのだから兵士だけではなく暗殺者を集めていた可能性を。


ドサリ……

ドサリ……


隠れてダンデスを見ていた団長と副団長の2人は隠れ忍んでいたマッシャルーム王国の暗殺者3人に背中から複数回、毒で濡れたナイフで刺され薄暗い路地に倒れた。



マッシャルーム王国の人間は血だらけの2人を見て動きを一度、止めるが知らぬフリをして無視をする。


「我らの国を滅ぼしたやつを助けるものか。」

そう呟く商人は、あえて2人を隠すように露店を広げる。



「ダンデス…… ちゃん…… 」

ガタガタと震える体、魔法を練れない事に自分の死を悟った団長シルビアーナはダンデスに抱きしめられた事を思い出しながら目を閉じた。


路地に団長と副団長の血が広がる。


幸せを掴みたいと始めて願ったシルビアーナは涙をスッと流して二度と動かなくなった。


副団長は、毒が心臓に回っているのだろう。

痙攣をし吐血し、死に果てた。



恨み恨まれ……



戦争とは、そういうものなのだ—————

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