戦後
戦後処理は粛々と進んだ。
無血開城などと夢を見ていたのが馬鹿らしい程に団長の魔法は建物を命を国家の誇りを奪い消した。
国としての体(てい)をなしていないが、マッシャルーム王国の一部の貴族や王族は国王がまだ生きていると信じて反発をする……
国王が、諸外国へと救援に出たと信じたいのだろう。
…… が、 俺が〈キーサーチ〉でマッシャルーム王の死体が埋まる場所を正確に指し示し捕虜とした兵士に掘り返させると少し腐敗や虫食いはあるが
戸板に数十本のナイフで粗雑に貼り付けた国王の死体を見せると、マッシャルームの王子は気を狂わせた……
…… いや、気が狂ったフリをしたのだ。
それは団長やゲルハルも分かったようだ…… 彼は…… 逃げたり責任を逃れるのではなく何をしたいのか?
「あんた、そんな事して何になる? 」
俺は王子の幽閉されている部屋に入り話を聞いてみた。
もちろん、この会話は書簡に残る。
この幽閉部屋への入室はオフィシャルという事だ。
おそらくは[幽閉した王子の世話役が聞いた〜 ]という書き出しになるのだろう。
始めは狂ったようなフリをしてウロウロと頭を掻きながら歩く王子だが…… 次第にその動きを緩める。
やっと此方(こちら)を見た顔は腫れ上がり片目は潰れていた。
「そんなフリをして危険性が無いと思わせて…… 殴られバカにされ死ぬまでを伸ばす意味を知りたい」
「…… 、ふぅ。 」
王子は息を吐き、ギシリと固い音の鳴るベッドに腰掛ける。
「私は…… 平和を望んで生きた…… 父が戦争を起す時も、どれほどグラディウス王国との和睦と貿易の道を説明したか分からん。」
王子は暗がりの中、片の目をしっかりと開き俺を見つめる。
「…… なぜ、生を望む? それを聞いている」
「生を望むのではない。全員の死を知りたいのだ。父は死んだが…… 叔父上、母、姉、弟と私以外の全員が
王子はクスクスクスと笑い出した。
これは演技ではなく真の笑いだろう。
「奴らがどんな言葉を吐いて死んだか知りたいんだよ。奴らのせいで更に人々や私自身が死ぬ…… それに和睦の道を説いた私は被害者だ、と…… 勝手ながら思っている。被害者が加害者より早く死ぬなんて釈然としないじゃないか」
「そうか…… 」
彼の生への渇望は親類への恨みか……
俺は合点のいく顔を彼に見せたのだろう。
彼は暗がりの中でドンドンドン‼︎‼︎と三回、座りながら足を踏み鳴らし怒りを床にぶつけ溜息をつき口を開く。
「な? 気が狂った人間を始めに殺す事はあるまい? はじめがオカシイとその後の政策に民間から反発があるぞ? 」
…… 怒りの形相の王子はまたクスクスクスと笑い出し、演技を始めた。
悲しいかな彼はグラディウス王国と共に生きたかったのだろう。
だが、王族は全て死を賜るとの御達しがある……
遣り切れない気持ちで俺は部屋を出た。
…… なぜならマッシャルーム王国の王族は同じ日に同時に火炙りになるのだから。
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———————— 一ヶ月後のとても晴れた日……
マッシャルーム王国の中央、団長が破壊した王城があった場所に机が2つ用意された。
一つには騎士団長
一つにはマッシャルーム王国の序列一位になった王子
それぞれが本人が書いたと証明される魔法を付与されたペンを持ち机の前に立つ。
王子は憤怒の顔をして民衆に混じる俺を見つけて睨む。
いや、睨むなよ。今回の御達しはグラディウス王国の国王からのものだぜ?
「これより、マッシャルーム王国を放棄し全てをグラディス王国のものとする調印式を始める! 」
ロッキー副騎士団長の大声が響く。
団長はサラサラとペンを走らせ、王子はヤケになったように雑に署名を書く。
この調印文は工夫があり[戦争はマッシャルーム王国が仕掛けてきて、それをグラディウス王国が迎撃…… 敗戦の責任を王族が賜る代わりに人民はグラディウス王国が平定する]という捻りに捻った文章になっている。
これで他国にはグラディウス王国が侵略戦争をしたのではないと示せて、また今後の憂いとなるであろうマッシャルーム王国の王族を全て始末できる。
もちろん、宰相のような高位貴族から地方の下位貴族まで全てが奴隷となる。
気の早いグラディウス王国の貴族は美しい生娘を我先にと買い漁ったという噂もある。
…… 反吐が出る。
調印式が終わるとドラムロールが音楽隊から鳴らされマッシャルーム王国の王族は火炙りの為に立てられた木に縛られていく。
凹の字に火炙りの木に立て並ばされた王族の面々が顔を合わせる。
王妃が叫ぶ
「ごめんなさい! 逆らわないから! 奴隷でも良いので私を助けてたもれ! 」
王子の弟が涙を流す
「私はまだ子供! 殺すなかれ! 」
叔父が叫ぶ
「こんな事をしてただで済むと思うなよ! 」
王子はそれぞれの肉親の顔を睨みつけていく。
「それ見た事か! あれ程に和睦を私が説いたではないか! 」
王子の叫び声に反応するように、王族は言い訳を始め民衆はその
「見てられん、やれ」
団長の言葉に魔法使いが火を放つ。
火炙り…… と言っても地球の魔女裁判で行われていたようなものではない。
魔法使いの数人が1組になり火魔法で器用に円筒を作り、それを対象に被(かぶ)せるのだ。
縛られて身動きがとれない・周り360度足から頭までオーブンのように炎で炙られる。
「ギャ————— ! 熱い! 消して! 消して‼︎ お願い消して‼︎ 」
ドロリと美しい王妃の顔が溶け始め、合わせるように弟、叔父と叫び声と嗚咽を出す。
ドロリドロリと体中の油が熱で溶け肉を焼いていくのださぞや痛かろう。
今回の火炙りはあくまでも
火炙りされる全員の体の末端が炭化し始め、まず弟が死に、次に王妃が死に、何を言っているか分からない怒声をあげ叔父が死に……
最後に王子が残った。
炭に変わりゆく体、ドロドロと溶ける肉、その中で王子は他の全員が死ぬまでジロリ、ジロリと瞳を移動させ全てが終わるとガクリと頭を垂れて命果てた。
…… たいしたもんだよ。
望み通りに加害者である親族が死ぬまで耐えやがった。
俺は燃えカスになりパラパラと炭となり剥がれ落ちる王子に対して心の中で熱く拍手をした。
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