団長の能力



2度目のマッシャルーム王国への旅は総勢20名での進行となった。


グラディウス王国の騎士達に混じり俺やゲルハルと…… それにシャティが参加している。


「ひーダンデスさん、こんなマッシャルーム王国って遠いんですかぁ? 」

「…… あぁ」

小説などの場合は幼く見えるシャティのような存在は安全圏内にいたりするが、実際は人質であったりする。



「ふん、ガキ2人のお守りに少人数での進行…… 団長の頭は大丈夫か? おいガキ、テメーが誑(たぶら)かしたんだろ?…… あぁ? 」

歩き疲れたシャティの手を引き歩いていると騎士団の1人が小声でで難癖をつけてくる。


必ず俺とシャティの近く…… 正しくはシャティの近辺にウロウロと小判鮫のように引っ付いてやがる。


他の騎士は支給された十字剣を帯剣しているが、この目つきの悪い黒髪の青年はナイフを装備している。


「いえ、すみません…… そんな事は…… 」

「ハッ! どうだかな? 」

俺の謎の謝罪を受け入れる気もない青年は必ず俺との間にシャティを置いて間合いをとる。


俺が何かのヘマをした時は俺共々にシャティを殺すか、シャティを人質にして俺を殺すか……


全く気に入らんな……



今回の作戦は俺の〈luck Key〉が肝心要(かんじんかなめ)なんだが分かっとるのかこの馬鹿たれが。


馬鹿に気をつけながらの進行はやはり疲れるが、それでも日程は消化され予定の通りに夕闇の中マッシャルーム王国の近くにある森に到着をした。


□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


「反対です。団長、引き返しましょう」

「…… 何を言っているジム」


俺を監視していた青年…… ジムが装備を今一度、確認している団長に進言する。


「こんな赤髪の女の子みたいにナヨナヨしたガキの戯言でここまで進軍するのも本当はおかしな話なんですよ? 団長、今はまだマッシャルーム王国に攻める時じゃあ」

「言うな。愚か者」


騎士団長が俺に目を向け目礼する。

爵位の無い平民に対してする儀礼ではないのでジムや複数の騎士隊の面々が怒気を漏らす。


闇の森…… しかも敵前で何をしとんだコイツらは

「馬鹿どもめが」

「!……、 フッ! 」


俺の呟きをシャティを狙う為に一番近くに居(い)たジムが拾い、眉間の皺を深くし所持するナイフで俺を一閃に斬り殺そうとする。


…… が、俺も仲間割れをする不穏な空気の中でボーっとしている馬鹿ではない。


事前に自己幸運マイラッキーから20ポイントを指輪で筋力に変えていた。


ジムがナイフを持つ手を振り切る前に、地面がめり込むほどにジムの間合いに踏み込み脇腹に連続でパンチを食らわせる。



パパパパパン‼︎‼︎

「ぐっ! 」

おー…… 凄い素手の攻撃だな…… 日本で同じ事が出来たらテレビの格闘番組に引っ張り蛸(だこ)だろうな。


パンチの連打で白目を剥いて倒れるジムを確認し落ちたナイフを踏みつけながら団長を見るが、怒りやら焦りやらが無いな…… 騎士隊員への今回の攻撃は不問と…… 言うわけでいいよな?


「…… ? 」

…… 足元にゲルハルの影魔法か。

心配すんなと笑い顔でゲルハルに手を上げる。

いい友人を持ったよ俺は。


「…… 団長、そろそろ今回の作戦の骨子を皆に伝えるべきです。 無駄な争いは不幸を呼びます」

ロッキー副団長の言葉に団長が深く頷く。


…… まぁ、不幸は操作できるんだけどね。


団長は騎士団を整列させ、その前面に仁王立ちする。

もちろんジムも痛む体を無理に起こされて話を聞いているが、目は俺を睨んでいるな。


「今回の作戦は、私、騎士団長であるシルビアーナの特立特行でのマッシャルーム王国制圧である」

まだ若い娘の見た目である団長の言葉に団員は騒つく。


ドン!

ロッキー氏が足で地面を一度だけ踏み鳴らし、その騒めきを鎮める


「今回、我が国のギルドマスターを含め団員であるお前達は証人として同行させた! 一名、行軍の理由を履き違え此度(こたび)の作戦の重要人物であるダンデス殿へ不逞を働いた馬鹿者がいるがな」

「団長! 何を言ってるんです! こんな赤髪のガキに何が出来る⁉︎ 」

「…… 彼とギルドマスターであるゲルハルは既に結果を出している」

「何ですか? ジジイとガキに何が出来るんですか? 」


団長がゲルハルに目を向け、ゲルハルは下らないとばかりに手をパッパと振り返す。


…… おいおい、俺に了承を得ないのかよ?

「ダンデスさん? 」

「…… ああ、シャティ、俺を嫌ってもいいが王都に帰るまでは…… 我慢してくれ」


何の事? という顔をシャティがしてくるが……


さてはて、暗殺をシャティが良しとするのか分からん。




団長に目を戻すと、決意したように団員に向き合う

「ゲルハルとダンデスは…… 2人でマッシャルーム国の王の暗殺に成功した」


———————— 嘲笑


そう団員からは嘲笑が漏れた。


「団長…… あんた吹かされてますよ」

「ジム! 」

あまりの荒唐無稽な話に団長を嘲笑う

それをロッキー氏が止めるが……


これは、いかんな……


「…… どれ、これ以上は意味の無い話し合いになりそうだし…… 団長、始めるかい? 」

「コラ! ガキ! まだ団長サマを誑(たぶら)かすか!?…… プッ、クックック始めるって何を? 団長の乳でも吸うのか? 」


ジム…… こいつ…… どうしようもないな。


「そういう嫌味は後々の後悔となるぞ…… いいな」

今だに俺を嘲笑うジムをひと睨みして、団長に近寄る。


「いいですか? 」

「ああ、ダンデス…… 頼む。 それと私の魔法を見て嫌わないで欲しい」


ほう…… 騎士団の団長としての特殊な魔法を拝覧出来るのか…… これは楽しみだ。





〈luck Key〉

騎士団団長シルビアーナへ幸運luck15000一万五千ポイント付与……


▲人としての幸運の値を大きく超えます。

▲騎士団団長シルビアーナへ幸運を付与


間髪を開けずエルフの指輪へ願う。


シルビアーナの幸運を魔力10000と魔力量5000へ変換……



グオオオオオオオーーーン!!!!!


「…… ! おおおお……!!!」

「ダンデスさん! 」

まるで太陽のように魔力の渦を上げて光る団長から引き離すようにシャティが俺を引っ張る。




ザザーーッ!

2人で転げ距離を開けて団長を見ると不動明王のように魔力を纏(まと)う団長がポカンとした表情で立っている。

「ダンデス…… これは…… なんだ神の力か? 」


魔力により圧縮された空気や気圧により団長の声がボイスチェンジャーで変化させた奇妙な高音の声色になる。


「団長…… ! 早く発散させるんだ! それはどう見ても溜め込むのは危険だ! 」

俺の叫び声に団長はハッとした顔をして、その腕を夜陰に浮かぶマッシャルーム王城へ向ける。


「ダンデス! もっと離れい! 」

ゲルハルの言葉に騎士団の部屋で団長が放った魔法の余波で引っ掻き回された事を思い出す。


「シャティ! 」

俺は必死にシャティを抱き上げ急ぎ〈luck Key〉と指輪で筋力を100アップさせ走る。


——————————— 団長が魔法を放ったと分かったのは背中を押す爆風を感じた時だった————————————————————————————————————……




騎士団団長の特殊魔法は光線爆裂砲。

魔法を放った直線上の空気を光で覆い爆散させる魔法なのだ。



団長に誘爆しないよう少し離れた場所からレーザーを射出する100メートルを超える魔法陣が空間に縦に現れる。


その魔法陣の向きはマッシャルーム王城


シュン………… !


魔法陣と同じサイズの…… 太さ100メートルの光線がカメラのフラッシュのようにピカッと光り1秒も満たない時間、マッシャルーム王城街を囲む壁を浮かび上がらせる。


光のスピードが早く、この光に照らされた全てのモノはもう逃げる事は出来ない。



ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ‼︎‼︎

光の軌跡に沿って次は一直線に爆発が空間を覆っていく……


空気という空気が団長の特殊光魔法に干渉して誘爆を繰り返しマッシャルーム王城へ迫りまずは光が当たった城壁とその上の空間が爆散する。


—————————— 第2射


爆散して露わになった街並みへ光が当たる。


次も同じように光が通った場所が爆散される


今回は夜の酒場が直線上にあり、路上に机や椅子を出して酒を楽しんでいた、1度目の爆散で転げた者達にも光が当たる。



空気が通る場所が爆発する

人なら鼻の穴やら口の中やら、また皮膚やらが毛穴の間も弾ける。


パーーーン!

まるで血の花火が方々へ飛び散る。

もちろん、光が当たらなかった場所も誘爆の余波があり一帯は火事と炭のみが残る。



—————————— 第3射



誘爆を重ね、街を一直線に破壊した光は王城の手前まで到達する。


光の軌道外にいた者は騒ぎながら逃げたり、父、母、子、友人を失い判断を誤った者は光の軌道上に立つ。



判断の早いマッシャルーム王国の兵士や魔法使いは次の光を止めようと盾を構えたり、魔法でバリアーを張ろうとする。



シューー…… ン………… !


光がまたその場に当り、空気を爆散していく。

盾を構えた兵士は盾の裏側の空気で誘爆した炎で身を焼かれ、鎧の隙間や兜の間に当たる光の爆発は全ての勇気を踏み躙り破壊し殺していく。


優秀な魔法使いがバリアーで助かるが…… 周りの死屍累々に泣き崩れ胃のものを吐き出す。




—————————— 第4射



助かったと思った魔法使い達だけではなく次はマッシャルーム王城へも光が到達する。


王城自体には…… 強化の魔法がされていた


王城には。


中に居る人間は王城の周りに爆発する熱風やら衝撃で焼かれる。



—————————— 第5射

—————————— 第6射

—————————— 第7射



次々と続く団長の魔法は、マッシャルーム王城を全壊させ何も無くなった空間を付与の時間切れまで作業的に破壊し続けた——————————





この日、マッシャルーム王国は破壊の限りを尽くされ、その政治的・軍事的な機能を失い僅か20名という少数の精鋭によってグラディウス王国の属国として吸収されたのだった。

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