シャティただいま



「さて、気は済んだか? 」

「…… ああ」

松本への仕返しが終わり荒屋(あばらや)を出ると騎士団長とゲルハルが焚き木をしてスープを飲んでいた。


「なかなかの叫び声だった筈だが…… よくメシを食えるな」

「長い戦場で一度でも過ごすと、何ともなくなるぞ? 」


騎士団長が美しい目でこちらを見て諭すような声で語る。


なるほど、戦争といってもまだ戦闘の規模が小さく、銃火器ではなく剣と魔法、それに国際法もない世界なら上の立場の人間は捕虜を長時間拷問しながらの食事もあるのだろう…… か?


「ここは、燃やすのか? 」

俺は話を変えるように松本の亡骸がある荒屋を見る。

「いや、本来この地域は魔物の多い地域だ。 騎士団の演習が無ければ食事をしようと腰を落ち着けるのは無理だ」


なるほど魔物に松本を食わせるって訳か?


スッと騎士団長は立ち上がり水魔法で焚き火を消す。

光魔法と水魔法がここまでで使えると分かったな。


この少女の能力(アビリティ)はどれだけのものだろうか?

確かにレーザーのような光魔法は素晴らしい。

だが、やはりこの世界で軍属するには火水風土光闇の以外の力か何かがある・・・・・んだろう。


「どうしたダンデス、騎士団長を見つめて」

「いやな、美人は何をしても絵になるなと思ってな」


えっ? という顔をするゲルハル

…… うん? なんで騎士団長は赤くなっとるんだ?

「そうか色男はこの娘騎士団長がどれほど苛烈な戦い方をするか知らんのだな。そうか来てから・・・・そこまで長くなかったな」


ほう…… ゲルハルの言動と態度を見るに、騎士団長の戦いは国の多くが知る話のようだな。


「私と…… その…… 恋人として付き合うか? 」

「いえ断ります」

ガーンという顔の騎士団長に深く頭を下げる。


どんな戦い方かは知らんが、やっと松本というシガラミから抜けれたのだ。

自由にさせてもらえんと休みが無くなるわ。


「まあまあ、ダンデス、そう言わんと……な? ならばせめて松本を捕縛しここに連れてきた対価・・仕事・・が終わったらもう一度、2人だけで話す場をつくろうや…… な? 」


そこまで、俺をこの国に縛り付けたいかよゲルハル…… まぁ、松本に関しては感謝しきれん恩があるし半泣きの美人をそのままにして帰るのは心が痛む。


「はぁーー…… 私は美人との会話は嫌いではないから良いが…… 団長は、それでいいのかい? 」


俺の身長は、異世界こちらに来てからは子供にしか見えんソレ、団長は160センチ程だろう。


見上げる感じに団長の顔を伺うと

「はい! ぜひ! 」

団長はそう言うと顔を真っ赤にしながら走り去った



「ダンデスやるのぅ…… 」

「ゲルハル、彼女はその…… 幼児趣味なのだろうか? 」

「ふむ…… 己の戦い方を覚えた時から彼女は人に恐れられてきた。内面を抑えて生きて来たんじゃろう、彼女の実際の精神年齢とダンデスの見た目の年齢が同じくらいなのかもしれん…… 」


大変じゃのう…… と呟くゲルハルに嫌味でも言ってやろうと思ったが松本への拷問で案外と疲れていたようで、ただボーーッと…… 走り去る団長を眺めながら、やれやれと溜息を吐いた。



□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


「ただいま、シャティ」

「ダンデスさーーーん!! 」

冒険者ギルドの受付・・にいるシャティが笑顔で迎えてくれる。


そう、シャティは…… 俺がいない間はギルド職員として過ごせるようにゲルハルが手配をしてくれたのだ。


ゲルハルが帰るイコール俺の帰還でもあるのでシャティもこのギルド臨時職員という待遇を受け入れた。

まぁ、ギルド宿舎で生活できるからシャティの宿代や食事代が必要なかったのもある。



「あー! ギルドマスター様! 帰りが遅すぎたからルルルさんとルー・ルー・ルー様が、かーなーり怒っていましたよ! 」


おーおー、シャティちゃんとギルド職員みたいな事してんじゃねーか。

「ゲルハル、大変だなー」

「うっせ! ダンデス、オマエもなんか手伝いやがれ! 」

「冗官(じょうかん)でいいなら…… 給料は満額くれよゲルハル? 」

そんな職員いらねーよ! バーカ! 」


自由な冒険者から公務員に戻り嫌々なゲルハルと冗談を言い合う…… こういう日が続くといいんだが……


「なんかダンデスさんとギルドマスター様の雰囲気がおかしい…… 」

「…… どこが? 」

「えーっと…… ダンデスさん、ギルドマスター様を名前で呼び捨てしていません? 」

「——————— あー、 そういえば…… 」


いつの朝か忘れたが、酒を飲んだ日からゲルハルは俺の中で大切な友人になっていた……


「えっと…… 大事な友人だからな? 」

「ぶーーーっ! ダンデス! キモい」

「うっせ! ゲルハル! 」

「ま————— あ、いいか…… 友人また2日後な」

「…… ああ、 」


ゲルハルは笑いながらギルドの奥に消えていった。

これから仕事に揉まれるんだろう。

「ダンデスさん、2日後って? 」

シャティの疑問顔に答えようと耳元に寄る。

あれ? シャティ成長したか? …… こう、父や尻が……


「ふふふ…… ダンデスさん、この数ヶ月で私なかなかのプロポーションになりましたよ! 」

「いや、いいから…… あっとな、2日後だがな」


これこれシャティ、胸を無理に当ててきなさんな。


少し避け、残念な顔をするシャティに近づき




「2日後、殲滅戦の戦争をする」




ギルド内に居る他の人間に気取られないようにシャティに内緒話をして俺は微笑んだ——————


——————————————————————————……


夜の闇の中、俺は宿を出て見晴らしの良い場所を探す。


さんざと歩いたがやはり、それは異世界も同じで人が救いを求める場所…… 教会だった。


以前、シャティから寝る前に口伝(くでん)されて知った事だが、この世界には女神の一神教だけしか存在していない。


地球のように仏教やキリスト教など多種多様な宗教がないのは理由がある。

神がこの地に長く生活をしていたのだ。

女神は何千年にわたり奇跡を起こし、魔法や知識やらを幅広く人に教え伝えた。


ある日の事、女神の美しさに魅了された3人の子供…… に見える人種族が女神を殺し食べた。


———— 子供という見た目のせいで女神は安心していたのだろう。


———— 子供の持つ武器が神殺しの為に鍛錬をされた魔物の武器と知らなかったのだろう。


———— 女神が長き日々を生きて疲れていたのだろう。


———— 女神がはじめて愛した人間が老衰死して神聖が弱まっていたのだろう。



あっけなく殺され食べられた女神が居なくなり、神の怒りを受け女神を食べた3人がいきなりに開いた闇深い穴に落ち、そこから魔物が溢れ出た…… と言い伝えられている。


女神に再び助けて貰おう…… この世界の信仰はそういう打算的なものなのだ。

…… いや、地球の色々な宗教も同じか……




女神の像が据えられた教会を〈luck Key〉で筋力を増やし飛び上がり、そして壁を駆け登る。


「…… 高いな。 」

教会の鐘楼(しょうろう)の屋根上から暗闇の街を見下ろして手を広げる。


戦争には力が必要だ。

それの為に少し犠牲になってくれ————




〈luck Key〉

この城下街で吸収できる範囲いっぱいの幸運luckを2ポイントずつ奪ってくれ



◆術者が魔力切れして気絶しないギリギリまで幸運を吸収します



▼教会のluckを2保存

▼司祭ルドガーのluckを2保存

▼信徒ユリアン・スタのluckを2保存

▼住人ファラのluckを2保存

▼宿屋亭主キンダーのluckを2保存


目の前に高速でスクロールしていく〈luck Key〉の注意文(アテンション)から意識を外し、再び暗闇の街を見る。


だった2ポイント……

されど2ポイントの不幸に住民は少し酷い目に遭うだろうな…… すまん……




電気もない、魔物のせいで流通が悪く夜を明るくする燃料も限られている街の影の奥にグラディウス王城が存在感を放つ。


「大きいな…… あの城に国王がいるのか」


本当にこの国に骨を埋めるのか俺は……


今更ながら、この暗闇の所為か心のどこか不意にが弱くなったように感じていた……

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