解決策
俺とゲルハルは今、隣国の王都マッシャルームに潜入している。
話は至極簡単で、王族…… 出来れば国王の誘拐が目的だ。
戦争が嫌ならば秘密裏にトップが居なくなってくれたらそれで状況が大きくマッシャルームにとっては不利に動く事もある。
歴史には武田信玄の話もあるので、有効であると俺は思う。
王が居なくなるのは殺すより意味もある
まず国王の不明を隠しての政務が始まり、次には大々的に探す事に時間がかかり…… 次国王の即位に時間がかかり、平定までに時間とお金がかかる。
機を逸するというのは戦争を起こすにはとても悪い事で、そのゴタゴタの最中に
これは上手くすれば無血開城にも繋がるかもしれない。
もし
「ハル、準備は大丈夫か? 」
「レッド誰に物を言っとるんじゃ? 」
潜入、暗殺なのでお互いの名前はせめて分からんようにしようとジジイはゲル
マッシャルーム王都の娼館で泊まり、昼間は酒場やらで情報を集めるを繰り返し
ここまでに2週間もの時間を費やしていた。
娼館に泊まるのは宿屋名簿の記入義務が無い事と、こういう場所には抱いた女に自慢したい事をベラベラと喋る男がいるから情報を集めるのに良いからだ。
毎日、女を抱きに娼館に泊まるので色バカと思われ疑惑を持たれにくいというのも良し。
—————— それとゲルハルには言ってはいないがマッシャルーム王国ではガンガン幸運を俺の魔力量が許す限りに、有機物・無機物に関わらずあらゆる所から奪っている。
自己幸運の貯蓄はあまり出来ていないが、他人に付与出来る幸運ポイントは1万5千に届くまで行っている。
…… 敵国の事情などは知った事では無いでな。
それで、今は夜なのだが今日は娼館には泊まらず王城が見える細路地(ほそろじ)にゲルハルといる。
「ハルに付与できる魔力は赤竜と戦った時の大体(だいたい)20倍まで…… しばらくは俺は付与を使えなくなるが…… 出来るか? 」
「に…… ! にじゅう…… ワシをバカにさせる気かい? 」
さらなる力を試せるとニヤけるゲルハルに苦笑する。大分と過少申告だが俺が助かる為の余力は残しておきたいでな。
今夜…… 戦争の決起を兼ねた夜会(パーティー)が王城の迎賓館で行われるという。
これは娼館に通う騎士や兵士、市中の商人の噂話と、ゲルハルの影魔法を使いまるで忍者のように諜報活動をしたりして得た情報の擦り合わせで既決(きけつ)事項だと判断しこうして闇に隠れて王城の火の灯りが暗くなるのを待っている。
なんせ、今回の作戦は暗ければ暗い程に良い。
ゲルハルと息を潜め何度も作戦を練る。
良く行けば…… ではなくダメな時の段取りは多い程いい。
何時間、経過しただろうか。
迎賓館内からグラディウス国への侵攻を鼓舞する鬨の声が聞こえなくなり、迎賓館の庭の茂みで貴族の男女が犬のように孳尾(つるび)だした深夜に俺とゲルハルは闇よりヌルリと這い出た。
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マッシャルーム王国の迎賓館は上位貴族のみが入館を許される場所なので、それ程に大きさはない。
小学校にある体育館より小さいと思えば良いだろう。
〈luck Key〉で事を起こすと不確かな現象しか起こせない。神の加護に近い幸運になるかもしれないが、それが隠密を達成出来る幸運になるとは限らない。
5000ポイントのみの付与は時間切れの場合を考えた保険である。
ゲルハルは自分の体に起こった異変に歓喜する。
この力があればと慢心しそうな気持ちを、笑い出してしまいそうな興奮を自分の手を噛み落ち着かせる。
ただ、
ゲルハルの影魔法の闇の中で向き合いフッと2人で笑い頷く。
まずゲルハルは地面に影を這わせていく。
文字通りに虫の入る隙間のないような分厚い影…… 魔力量がおかしな術者に這わされた影は分厚く、影なのに実態のあるようになっていた。
それを庭から迎賓館の中へ…… 迎賓館の中の家具や柱の影を合わせ、迎賓館内の床に隙間なくしっかりと敷かれたカーペットの下に這わせていく。
酔いどれの貴族は蹌踉(よろ)めき笑い
興(きょう)が醒めると2杯ずつワインを飲まされた護衛団の騎士は2度、3度の足踏みをして異変に気づく事無く首を傾げた。
全ての迎賓館内と周囲の庭の地面に影を這わせ終わるとそれは上空に伸びる。
つまりこの状況は
あり得ない事をしてしまえる魔力量にゲルハルは歯をむき出し声を出さずに笑う。
分厚い影の大きな球体は夜の闇の中で星の光に反射もせず、また迎賓館自体もそれ程に大きくないので騒ぎもなく建物の全てを包み終わる
付与した魔力量は凄く、迎賓館を包む影の球体の内部は風魔法により一気に真空になっていく。
吹き出した空気の威力が有りすぎて上空の雲にも影響を及ぼす程の真空工程は内部の叫び声も吹き上げるが、それも直ぐに終わる。
迎賓館の建物の形が真空成形したようにピッチリと影魔法の表面になると空気穴を影で閉じ数分待つとゲルハルは影魔法を解除する。
吹き込む風に混じり2人が迎賓館に入ると真空、無酸素状態に耐えれず死んだ者や気絶する者の中にマッシャルーム王が倒れていた。
ゲルハルはマッシャルーム王の顔や体の特徴、着ている物を確認し本人であると判断すると影で包み
影から影へ、闇を作りその中を走り魔力量の付与が切れる頃にはマッシャルーム王国から少し離れた森の中に辿り着いたのである。
この真空による気絶魔法は、松本の領土にいた時にゴブリンの地中の巣を滅ぼした時の応用であった。
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「さて」
「さて」
ゲルハルと向かい合う。
王を誘拐するが殺さないとは言っていない。
生かして捕虜にすると政治的な問題が起き
生かしてグラディウス国に連れて行くと戦争の大義名分が出来る。
このままどこかに監禁するには人手が足りないし秘密のレベルが高過ぎて信頼する者を集める手段がない。
つまり殺すに限る。
しかも見つからないようにひっそりと。
ザックザクと俺とゲルハルで穴を掘る。
この場に埋めようと考え用意していたシャベルで黙々と穴を掘る。
もちろん、俺とゲルハルには100ずつ筋肉へとポイント付与をしているので掘るスピードは早い。
「あーしんど」
「オマエの体はまだ若いじゃろが」
「はいはい」
魔物に掘り返されないような深さ…… とりあえず15メートル程の深さまで穴を掘り影魔法で穴の外に出てマッシャルーム王を見る。
「……
「いや、足がつくのは良いとは言えん。 装備品のいずれかに謂(いわ)れがあるなら売る事も人前で使う事も出来ん、そのまま一緒に
俺はゲルハルの意見に賛成と目礼し寝ているマッシャルーム王の両肩を掴み、ゲルハルは脚を掴むと
「あぁ…… こ…… ここは…… 」
ドンッという落下音の後に震える声が聞こえる。
マッシャルーム王が覚醒したのだろう。
まだ、個人的な恨みすらない殺す相手の顔を
ゲルハルも同じく思ったのか無言で穴に土を被せていく。
「ゴハッ…… ひぃぃぃぃ…… 土をかけないでくれぇ…… 生き埋めはいやだ…… ウゴォ…… 足が折れて立てないウゴォ…… 息が…… あぁぁ…… 」
穴に掘り込んだ時に脚が折れたのだろう寝たままの抵抗は呆気(あっけ)なくマッシャルーム王の声はすぐに消えた。
「あー…… しんど」
「然りじゃ」
最後に土をかけ終わり1人分の余分な膨らみはあるがそこを固くなるまで踏み均す
〈キーサーチ〉
マッシャルーム王は死んだか?
▽地下15メートルの部分で土が詰まり窒息死。
よし、魔法やらなんやらで生存はしていないと安心すると俺とゲルハルはマッシャルーム王国へと戻る為に歩き出す。
いきなり消えるより、もう一晩は娼館に泊まり日が開けてから我が家に帰ろうというワケだ。
「これでしばらくは戦争が無いといいがな」
「…… ありがとうよダンデス」
「おうよ」
あれだな、この歳まで知らなかったが、拳(グー)でタッチするのはいいもんだな……
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