帰ってきたぞー!
マッシャルーム王国から、赤子竜の素材を長期契約で
———— まだマッシャルーム王が死んだ事を知らない門兵は慌ただしく戦争の準備をしていた。
平原がある側の城門の外、練度を上げる為に騎士の隊列と魔法の順序の練習をしているのだが……
「アレでいいのか? 」
「この国に長く生きた人間としては恥ずかしい言葉じゃの。 」
魔法の能力や力量、使えるものに個人差があり過ぎて編隊がチグハグになっている。
その中で
「使い捨てと思いやる気が無くなった魔法使いが進行の邪魔になり隊列が無駄に伸びとる。あの魔法使いの軍団を撃叩かれたら大穴が隊列に開いて負けるぞ? …… あぁ、その為の竜の血かよ…… 」
人の使い捨てを良しとする作戦を聞いてゲルハルは動いたという事だな。
これならばゲルハルが身を尽くして動いた理由が分かるってなもんだ。
俺はキョロキョロと兵士の鍛錬を見ながら街の門へ歩くとゲルハルの足が止まる。
「ほれ…… 」
なんだとゲルハルの目線の先を見ると銀色の鎧を装備した老騎士が此方(こちら)に向かい脚を止めずに向かってくる。
「ゲルハル…… 遅かったな」
「ああ、すまんな。理由は…… 人払いした場所にて…… な? 」
コクリと老騎士は頷く。
見た目はゲルハルと同じ頃合いの歳だが、この老騎士は逞(たくま)しく子供の身長の俺がしっかりと見上げる程の男だった。
老騎士は俺の存在に気付き、俺を指差してゲルハルを見る。
「コレは…… ? 」
「はい! ゲルハル様のお手伝いをしていましたー! 邪魔になるので私は退散しますね! 」
ふっふっふ…… 先に言ってやったわい。
どう考えても面倒になりそうなので日本アニメの子供探偵のように声を作りスタスタと門に向かうとムンズと首根っこを掴まれる。
「やめて下さいよぉーゲルハルぅー 」
「おいおい、もう呼び捨てかい? 」
「僕は母親の乳でも飲みに帰りますよぅー」
「………… まぁ、そう言わずに。騎士の詰所には美味い菓子もあるでな。楽しい絵本もあるぞい? 」
おいおい、老騎士が引いとるぞ。
「絵本んんー? 」
「そうじゃ、羊皮紙にな対マッシャルーム作戦概略と書かれた絵本じゃぁー 」
「えーーっ、わからんなぁー? 」
「…… 当事者じゃろが、やった事を伝えるべき人間には伝えとかんと混乱して結果的に敗戦となるやもしれんぞ? 」
「…… おう。 」
俺は肩を落としゲルハルと並び再び老騎士に対峙する。
「さて、ロッキーよ行こうか? 」
老騎士のロッキー氏は何が何だかという顔で俺とゲルハルを連れ街へと入った。
□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
「…… 冗談であろう? 」
「いや、事実じゃわ 」
グラディウス国の軍事は騎士が一番上でそれから下へと指示が入る。
つまり将軍と呼ばれるものは無く、騎士団長がそれに当たる。
俺は用意された椅子に座り菓子を食べている。
ロッキー氏は冗談が通じぬようで、先程の話を間に受け用意をしてくれた。
はたと気づいて幾らかの菓子を布で包んでポケットに入れる。シャティの土産を忘れとったわ。
さて、それはどうでもよいな。
今、この上位騎士の集まるような豪華な軍略の部屋には騎士団長、副騎士団長、ゲルハルそれに俺がいる。
ゲルハルと副騎士団長のロッキーとの砕けた話し振りは、おそらく以前に言っていた老騎士の友人が彼なんだろう。
「証拠は? 」
「証拠? 物品などが必要だったか? そんなもん幾らでも偽装出来るじゃろ。なんなら盗んだ物を献上したら信じたか? 」
騎士団長は美しい顔を歪めてゲルハルを睨む。
「おいおい団長…… 美しい顔が台無しだぞ」
「ふん、この部屋では女として扱うではない
女…… しかも騎士らしい重装備はしていなく天鵞絨(ビロード)素材のようなツヤツヤと光るドレスの上下を着て10人は着席出来るような円卓の部屋の奥側に座っている。
髪は銀色でショートヘア…… おそらくは25〜6の歳だろうかゲルハルを睨む所作も美しいので貴族階級の教育を受けているのだろう。
成り上がりで、これほどの所作を身につけるのは年齢的に無理だ。
ならば生まれが良いという事になる。
平民が貴族に口を先に開く事は不敬になる。
もし騎士団長が階位の高い貴族なら、不敬と俺の命は同等価値ではない。もちろん俺の命が価値として下だ。
権力の最上位マッシャルーム
俺は話す口を閉ざし、気配を消しながらサクサクと菓子を食べ進む…… 美味い…… これなんかラスクの上に甘く煮た果実と木ノ実がしっとりと乗り歯ごたえも味も実に良い。
よしよし、やはりクッキーはシャティの土産、ラスクは俺のものだな。
日本を離れ、これほどに美味い甘味は久々なので皆の目が俺に集まっているのに気付くのに少しの時間を必要とした。
「————— ダンデス…… おま
ゲルハルの呆れ声に恥を感じ帰りたくなる。
俺は目を騎士団長に向けるとコクリと頷(うなず)かれたので椅子を降り床に片膝を立てて頭を下げる。
「初めてお目にかかります。冒険者として活動をしておりますダンデスと申します。先程のゲルハルが申し上げたマッシャルーム王の拉致、その後の暗殺ですが…… 確かな事に御座います。 」
これは失敗したかな? と俺は赤子竜の素材を入れたカバンをズイと前に出す。
ゲルハルはそれを見てピンと気付いたのか自身のマジックバックから赤竜の血が入った小瓶を幾つか出すとニンマリと俺に笑顔を向ける。
—————— いや、オマエが説明せーや
俺は鼻からため息を漏らし、一呼吸してから
「これは赤竜の血とその子供の素材に御座います。 私ども2人で討伐を致しました。 この能力あればマッシャルーム王の事、可能と考えられませんか? 」
…… うぬ? 何故に騎士2人は怒り顔なのだろうか?
「っ、! 赤竜の血だと? 」
「ゲルハル、赤竜というと軍を出しても討伐が出来るか分からない強さ…… 子供を含めた2人でとは…… 戯言も大概にしなさい! 」
…… なるほど、それはそうだ。
子連れで竜を討伐したと言われれば、この世界で竜を知る者なら馬鹿にされたと感じるだろう。
はぁ…… ゲルハルがずっとニヤニヤしている理由がわかった。
俺の事を共有したいんだな?
松本との事を考えれば軍部を味方につけるは最善…… か?
「一つ、お聞きしたい事が御座います。 」
「…… 何だ? ここで虚偽を謝った場合はそのまま牢屋へ入ってもらう事になる。…… よいな? 」
おーこわいこわい。
この雰囲気は何を言っても、何らかの罰を俺に与えるつもりだろう。
副騎士団長のロッキーが自然に俺の横に移動している…… な。 組み敷かれて…… という所だな。
こわいこわい……
「騎士団長様は魔法を使えますか? 」
「無論。 それは馬鹿にした発言か? 」
「いえ、違います。 魔法が使える人間の方が実感しやすいと思いまして…… ね? 」
そうそう、その答えで正解
ゲルハルの笑顔からそう聞こえてきそうだ。
俺は〈luck Key〉モードになり騎士団長に
「…… これは!!? 」
「騎士団長様、
騎士団長は武に生きているのだろう。
自分の体に宿った信じられないような力を感じてか不思議そうに自分の手を見つめ美しく笑った。
「これは…… 君がしたのか? 」
「団長! その魔力は…… 」
「待て、今は確認が先だ。ダンデス君だったかな? 君がこの力を私に与えたのか? 」
おーおー、感動しちょるな。
美人の興奮する顔とは見栄えが良いもんだな。
「はっ! 私の付与に御座います」
俺の返事を聞くと信じられないという顔をして窓に近づく。
「ダンデス、何かに掴まれ」
「え? 」
ダンデスの注意を不思議に思いながら壁の柱に手を当て捕まる。
騎士団長は窓を開き、手を窓の外に出すと斜め上、上空の雲に向かい太い光線の魔法を放つ。
「ぐっ! 」
「げへぇ! 」
強大な光魔法の反動が部屋を蹂躙する。
机や椅子は飛び上がり、せっかくの菓子は壁にぶつかりバラバラと空を舞う。
「これは…… まるで台風だ…… っ、! 」
前後左右に風と衝撃波に揺さぶられ柱に掴まる指先が悲鳴をあげる。
「も…… もう止めるんじゃ…… 団長…… こんな狭い場所で使うでない…… ! 」
ゲルハルはどうにか影魔法を使い衝撃波に耐えようとするのだが、騎士団長の放つ光の光線魔法がとてつもない光量で影を維持できずにゴロゴロと転がる。
ゲルハルの悲鳴にハッと騎士団長はこちらを見て、部屋の惨状に驚いたのか光魔法を撃つのを止めた。
バサバサ…… !
ゴト…… ゴトン!
机や羊皮紙がやっと重力の通りに床に落ちる。
騎士団長は、荒い息で興奮の表情で笑い俺に近づく…… え? 殺される?
「ダンデス君、騎士団にようこそ」
「いえ、辞退します」
俺の即座の拒否の意に、騎士団長は目をパチパチとする。
…… ゲルハル、笑うなや
こうして、色々な面倒がまた始まるのか……
ダラダラしたいっての……
「え?え?え? 」
と意味が理解出来ない騎士団長を見て俺は大きなため息をついた。
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