バレる?バレない?



「はて、知らんな…… 何の事やら…… 」

「…… ほう…… 」

「いえ、お爺様このダンデス様で間違いないです 」


気のキツそうな娘が蕩(とろ)けたような目で俺を見ながらギルドマスターのジジイゲルハルに話す。


ナイトメアベアーとの戦いをどうやらジジイゲルハルの孫に見られていたようで、このような場になってしまった。


「ダンデスさん…… お腹…… 」

「あぁシャティは食べておいていいよ」

「ダンデスさん優しい…… モグモグ」

おいおい食べ始めるの早いな。

シャティは幼い時からの枯腸(こちょう)を癒すように食欲を満たしている。


幼子が良く食べるのは宜しい事だ。

まぁ、成長が遅いだけでシャティは幼子の歳ではないんだが。


…… ここは冒険者ギルドの裏にある定食屋[冒険者の腹の虫]だ。

冒険者カードを提示すると数パーセントの割引があるので冒険者御用達になっている…… が……



「すみませんギルドマスター…… そんな顔をされてはウチの店にお客さんが来なくなるんですが…… ヒィィッ! 」



ジジイゲルハルが憤怒の顔で入り口のドアを背に座る俺を睨み、オーラのように影を体から噴出させるものだから……

「おやっさーんメシーヒィィィ! すみません! 」

「あー…… ジジイがそんなだからまた客が帰ったろうが…… 営業妨害だぞ? 」


ガランとした店には俺とシャティ、ジジイゲルハルとその孫娘だけがいる状態だ。

店主と給仕は先程のジジイゲルハルの威嚇で店の奥に引っ込んだ。

「そっちの娘は飯を食っとるじゃろうが? 」

「…… シャティは慣れただけだと思うぞ? 」


ん? ん? とシャティはキョロキョロと俺とジジイゲルハルを見る。

「ほらほら、ソースがホッペについとるぞ」

「………… ふふふ」

俺はシャティの頬のソースをナプキンで拭き、ジジイゲルハルはシャティの頭を撫でる。


「———————— で? なんだ? 人違いだったんだから、ゆっくりと食事をさせてくれんか? 」

「なんだ? 小僧、普通の冒険者ならギルドマスターと食事が出来るなら嬉しがるか恐縮して従うもんだが? 」


「ハッ! 誘導尋問ヘタかよ! 」

「別に普通という言葉を強調したわけじゃないわ! 自意識過剰なんじゃないのか? 赤髪ぃ? 」

「やっぱりヘタじゃねえか! 別に普通という部分に言ったんじゃないわい! 」


ヒートアップしたギルドマスターと孫娘の前にスッとシャティがパンの皿を差し出す。

「美味しいですよ? 」

「…… ありがとうシャティちゃん」

「しかし、なんでそこまでギルドマスターのお孫さんを助けた人が気になるんですかぁ? 」



そう、俺は出来るだけ成り上がり金が欲しい。

こういう[権力者の十死一生の日を助ける]というのは飛びつくべき話だろう。


だが相手は魔物がいる世界で荒事を扱う生業の頭だ。


日本で言うなら暴力団の幹部に目を付けられると考えれば良い。こっちは場末のチンピラでなんとか生活を真っ当にして成りたいのだ。


「まぁ、多分だが十分な報酬と…… しょーもない確約と言いに来たんだろうね」

俺はジジイゲルハルの孫娘をチラリと見てから肉団子をフォークで刺してシャティの皿にいくつか入れるとジジイの片眉がピクリと動く。


しまったか…… あからさま過ぎたか?


飯を食べさせてシャティのお喋りを止めようとしたのだが、ジジイはシャティを和かな目で見つめる。


「シャティちゃん、そりゃあモンスターを倒してくれた冒険者ヤツにはちゃんと報酬を渡さにゃならん」

へーっ という顔でシャティはジジイと俺を交互に見る。

いや、何も言うなよ頼むぞ。シャティ。


「それにウチの孫娘はどうやら、その魔物から命を助けられた事が忘れられず完全にお熱・・になっちまった。 それの話もしたい」

なるほどな孫娘な話コレが本命かよ。

おいおいジジイよ、偉く目付きが悪くなってんぞ?


「へー! ちなみにナイトメアベアーの討伐金額っていくらなんですか? 」

かかった・・・・という顔をするジジイ


そう、メシやここにジジイが乗り込んで来てナイトメアベアーを倒したというニュアンスを話てから…… なのでナイトメアベアーという言葉をジジイは出していない。


「だいたいが金一枚に行くかいかないか…… ぐらいだな、複数体倒したなら金額は少しずつあがるんだよシャティちゃん」

「じゃあ8頭のナイトメアベアーなら、凄い金額に⁉︎ 」

俺はパンっと顔を手で叩き覆う。


あー…… まぁ仕方ないなシャティだもんな。

ジジイはニヤニヤと嫌らしい笑顔で再びこちらに座りを直し顔を向ける。


「そうなんだよ。 孫娘を助けてくれた謎の冒険者はナイトメア・・・・・ベアー・・・8頭・・倒してくれた赤髪の色男と栗色髪の少女だったらしいんだよ! 」

「そう、そのカッコいい赤髪はアナタです」


ビシッと何処(ドコ)ぞの探偵のように少女に指を刺された。


「あ…… あ…… ダンデスさん…… 私…… 」

「はぁーー…… 」

俺は大きくため息を吐いて今にも泣きそうなシャティの頭を優しくポンポンと撫でてやる。


まあ仕方ないな。

ルー・ルー・ルー氏の仕事を多くすればいずれ貴族の護衛やら安定した仕事に就けるだろう。




…… まぁ…… この目論見は大きく外れるのだがね

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