仲良し



岩肌が手の腕の薄皮を軽く切る

ああ、多分これは下の町まで降りた後で痛むだろうなと脳の中で苦々しく呟く。



「ほっほっほ! まだまだやはりガキじゃの」

「うっさいジジイゲルハル! 」


何の因果か今、俺はギルドマスターのジジイゲルハルと行動を共にしている。


この場所は止まって眺めるならば良い景色なのだが、そこを行くのは至難の道…… いや崖を行っている。


「まるでカンフー映画の仙人がいるような山々だな…… 」

俺はピョンピョンと跳ねるように上に登って行くジジイに感嘆(かんたん)のため息を吐いた。


ジジイだけで行けばいいじゃねぇか…… チクショウ。




ここは王都より馬車で二カ月の場所にある岩山と崖と霧しかないような所で、地球の場所で言い表すなら日本より遠く中国・江西省にある三清山という山脈に似(に)たり。


何やらジジイは俺と孫娘のを疑い、男として確かかを調べる為の強制クエストをギルドマスター名義でオーダーしてきた。




これは冒険者として生きて行くならば拒否する事が出来ない依頼。 依頼を断るなら冒険者としての職をギルドマスターが「いいよ」 と解除するまで停止が出来る


つまりは断った場合は仕事が無くなり、またギルドマスターからの依頼→ 断る→ 停職→ギルドマスター依頼→ …… と引き受けるまでは仕事が出来ない。


冒険者を辞めるか、仕事を受けるか……

ダンデスはまだ辞め時ではないと判断し快く・・この依頼を受諾した。


危険性があると判断して愚図るシャティを置いてきて良かった。あの子ではこの悪路を乗り切れなかったろう。



「ジジイよ、いつまで行くんだ? 」

「もうちょいじゃ」

「…… 」

俺を人気の無いところで殺そうとしてんじゃねぇだろうな? ——— という言葉を既(すんで)で止める。


孫耽溺者は何をしでかすか分からん。



命の危機を思うと人は途端に馬鹿力が出るようで、それからは無言でジジイの後を追いかけ崖を登攀(クライミング)し…… 崖を飛び越え…… 目的地の自然岩で出来た高さ20メートルはある塔を眺められる場所まで辿り着いた……


俺とジジイが立っている場所も標高が高いようで布団で前と後ろから肺を抑えつけられているような鈍い窮屈さがある。


見晴らし最高の雲海を見下ろせる場所なら当然か。高山病にならんのは魔法のおかげなのやもしれん。




こんな危ねぇ場所に連れ出しやがって…… 本当に俺を殺そうとしたんじゃないかこのジジイ……


ちなみに〈luck Key〉モードで日常的に貯めるに貯めた自己幸運マイラッキーはこの移動には使用していない…… 何故(ナゼ)なら……


「見えたぞ」

「…… あれが…… 」

思わず言葉に詰まる。

塔の上空には1匹の竜がゆっくりと飛んでいたのだ。



今回のクエストは竜の血の採取…… 本当にアレに血を流させる事が…… 人にできるのかい?


竜との対峙…… それに恐れて自己幸運マイラッキーは使わずに蓄えを選び来たのだ。





———旋回していた竜はゆっくりと岩の塔の上にある塒(ねぐら)に降り蜷局(とぐろ)を巻いて横になった。


「奴が寝たら、いくぞ」

ジジイゲルハルの真剣なトーンの小声に声が出ず頷くだけしか出来なかった。


竜の血は…… 昔々、ジークフリートという英雄が使ったというのが淵源(えんげん)で魔力を帯びた竜の血を体に塗り、それが固まるとまるで鱗(うろこ)が生えるように血が固まり剣やそこらの魔法なら跳ね返してしまうらしい。


英雄ジークフリートはその竜の血をドプドプと体にかけては風魔法で乾かし固め、敵陣に鬼神の如く突っ込んだのだという。


「よく…… 竜の血のストックがなくならなかったな」

「ウム、英雄ジークフリートは竜使いドラゴンティマーだったという。竜と英雄は深い信頼関係があり、英雄が傷つくぐらいならと竜は自分の血を提供していたそうだ」


…… 竜使いね…… 何かの条件か、またはそういう・・・・魔法を覚えれば竜を使役できるのか…… というか魔物との綿密な意思疎通が出来るならば殺し殺されのこの世界を変えるような話し合いを魔物とすればいいのに。



背嚢(リュック)から話の御礼を兼ねてジジイゲルハルに冒険者ギルド支給の干し肉を渡す。


…… うんマズイ


モグモグと干し肉を咀嚼しながら竜と塔を目の端でとらえながら夕日が雲に沈んでいく素晴らしい景色を見て水筒の水で一息ついた。



…… タバコを吸えたらなぁ…… うめぇだろうなぁ……


□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


「さて行くか小僧」

時間をスマホスキルで確認すると現地時間19時と表示されている。


ピューッ ピューッと台風の時に聞くような風が狭い場所を通る高い音が規則的に聞こえる。

はじめは何だと心慌てたが、どうやら竜の寝息のようで余計に恐ろしい。


自然の脅威と感じる事を、一己(いっこ)の生物が引き起こすとはな……



「臆(おく)したか? ダンデス? 」

「ここで強がる程に若くねぇよ」

「…… 本当に50歳過ぎてんだな」


クックッとジジイ2人で声を殺して笑い合い、眠る竜へと歩き出した。

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