熊は怖い
ゴリゴリという咀嚼音が低く森に響く
「た…… たすけ…… 」
街道にこんな魔物が出るなんて考えもしなかった。
そう…… 熊の魔物である
4メートル以上ある身長に獣脂が滲み出たのか硬くゴワゴワして臭い毛並み、人を引っ掻くと当たった部分をペロリと剥がしてしまう爪…… そして……
「あぁーー! やめて…… やめてくれー お母さん!助けぇ…… えへふへええへえ! 」
まるでアリクイのように長い舌には麻痺成分が入っていて、食いついた相手の脊椎にストローのように差し込み捻り肉や骨の間から内臓をベロベロと犯す。
麻痺され痛く無いのに体の中の器官が吸われ…… 舐められ…… 気が触れる。
気が触れて緊張が解けた人の筋肉が柔らかくなった腹をガブリと噛み引き千切り腸を引きずり出してベチョベチョと音を鳴らしながら咀嚼をする。
腐りやすい腸をまずは食べておくのは動物ならでは…… ナイトメアベアーはまだ熊の名残りがあるのかな?
ナイトメアベアーの脂の匂いと
人の狂った笑い声と
腸を振り回して引き出し糞尿を撒き散らす匂い
—— 私は——————— 強固に防衛魔法を二重がけした馬車の中で震えながら息を殺し、その中に逃げれずにいる恐怖で…… ギルドマスターをしているお爺様の躾に反して無意識に涙を流す。
「危機の迫る時は泣くんじゃねぇ、死ぬのを早めるだけだ」
お嬢様…… 無理だよ…… 助けてよ
ドンドン!
「……、っ‼︎ 」
「開けて! お嬢様! 馬車の扉を開けて下さいうぐぇ…… ごっぷっ…… 」
ドン!
私が赤ちゃんの時から面倒を見てくれていたメイドのドーメの何かを吐き出す声…… 魔法をかけた馬車が揺れる程の衝撃…… チラリと隠れて窓の外をカーテン越しに覗くとドーメと目が合う
その目は痛そうで悲しくて……
「ドー…… 」メ……
思わず名前を呼びそうになった時にナイトメアベアーがドーメの下腹部に爪を当て体重をかける
ブリブリブリ…… とドーメが大便を漏らし…… 馬車の近くでそのままナイトメアベアーがドーメを……
ぐっぷ……
何とか吐くのを堪えようとしたけど
「オエーー…… ひぃー…… オボッ、、ゲェーー! 」
吐き出してしまった。
「ghooo…… 」
ナイトメアベアーは私の嘔吐(えず)き声と吐瀉物(としゃぶつ)の匂いに釣られて私が隠れる馬車を見る。
「…… ひぃぃぃぃ! 」
ドーメの笑い声、ナイトメアベアーの匂い、私の吐瀉物の匂い…… 狂いそう。
ナイトメアベアーはしかも5匹以上の数で行動をする。
私の馬車の周りには護衛に雇った冒険者達の死に絶える前の狂気の
…… ? …… 戦いの音が聞こえない?
咀嚼音と笑い声だけ…… ?
つまり私以外…… ? 全…… 滅…… ?
ギッ…… ギッギッギッギッギッギ……
絶望感に落ち込む中、私の馬車が揺れる! 魔物の息が間近に聞こえる!
……、さっき吐いた時の声でバレた!?
ギッギッギッギッギッパリン!!
とうとう馬車の防御魔法の付与が外れ、ギリギリと屋根が捻じ曲げ剥がされ曇り空と…… 2匹のナイトメアベアーがヌッと顔を覗かせる
「ひぐぅ…… ! 」
怖い!
怖い!
誰か!!
「うっわ! ダンデスさんなかなかのグロテスクさですよ」
「シャティ、精神力ヤバイな」
「そりゃあ畜産もしている農家で生まれましたし、オーガとの戦いで人形の死体も沢山見ましたからねぇ…… そりゃ! 」
…… 女の子の声と男の子の声が呑気に聞こえ、馬車を覗いていたナイトメアベアーの視線がそちらにいく。
「そりゃあ…… 重労働をすまない…… フンっ! 」
「しかし、私達ナイトメアベアーをだいたい一撃で倒してませんか? かなり自分で怖いですよ? 」
「まあそうたな…… あ、この人も無理だ頭蓋骨が割れて死んじまっている」
「ダンデスさん、こっちはまだ
「…… いやそれはもう無理だわ…… っと! ハァッ! 」
ゴン! バン!
「gwaoooo!!!!! 」
何か重い打撃音があった後、ナイトメアベアーの叫び声が響く
「あちゃー 」
「どうしました? ダンデスさん? 」
「変な殴り殺し方をしたから返り血を靴に浴びちまったよ…… 」
「…… うっわ…… 」
え?
嘘でしょ? と割れた馬車の窓から恐々と観ると
美少女と女の子…… いや、違うわ美少女じゃなくて男の子ね…… 綺麗な人……
その2人の周りにはナイトメアベアーの死体が転がる。
「生きてる人はいないみたいですねー 」
「ああ、残念だがな…… シャティとりあえずこの大きな熊公の魔石やら素材を剥ぎ取って帰ろうか? 」
「はい! ダンデスさん! 私、お肉を食べたいです! 」
「…… この場でそれを言えるならシャティ、どこでも生きていけるな」
気を緩めたように2人が話しながらナイトメアベアーの素材を剥いでいく…… ダンデス様…… あの強く美しく方はダンデス様というのね……
「あ、そう言えば馬車の中を確認してませんよ? 」
「…… やめとけやめとけ、貸し出し馬車じゃなくて個人所有の馬車みたいだしな、金持ちか貴族の馬車を触ると火事場泥棒と勘違いされて粛清されちまう可能性があるからな…… っと魔石の剥ぎ取り終わり! 」
「私もです…… これだけあればご飯とデザート選り取り見取りですね! 」
ダンデス様は女の子の頭を苦笑して撫でる。
あぁ! 立ち去ってしまう…… 声を出して助けて貰おうと思った所で止める
私は自分の嘔吐物が胸元につき、少しばかり粗相をしてしまっていた。
顔が火を噴く程の恥を今更感じてダンデス様がこの場から離れるまで息を殺した。
その後、間を置かずにナイトメアベアーが現れた時にすかさず助けを求めて逃げた家臣が冒険者達を連れて駆けつけた。
その時には私は汚れたドレスを投げ出された荷物から見繕った運動着に着替え終わり、ドーメや死んでしまった冒険者の黙祷をしていたのだった。
「お嬢様! 大丈夫ですか!? 」
「…… はい、」
「しかしこれは…… どうやってナイトメアベアーの群を倒したので? 」
到着した家臣の言葉に私は改めてまわりを見回した。
ナイトメアベアーを8頭…… 2人の子供が倒したと誰が信じられるの?
家臣は私が何も言わない事で疲れていると思い、新たに引いてきた馬車に私を乗せると王都に走り出した。
「ギルドマスターのお爺様に話てみて…… それからね…… はぁ…… ダンデス様…… 」
王都の冒険者ギルドマスター、ゲルハルの孫娘はそう呟いて車窓に目をやりため息をついた
□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
「なるほどな…… 」
〈キーサーチ〉で魔物の検索をして熊公を殺したが本当にこの指輪は使える。
どうやらエルフの指輪を装備した者が付与したステータスの変異も操れるのが分かり、まずはシャティに幸運を付与してから、エルフの指輪で幸運→ 筋力に変換して振り込んだ。
シャティが生木を革手袋をしただけの手刀でカチ割った時には思わずガッツポーズをしてしまった。
ただ、
1時間のみの馬鹿力
1時間のみの強固な体力
————————— これは本当に使える。
俺の
それはシャティという最強の戦士の誕生でもある。
「シャティ、期待してるからな」
「うー…… うぐぅ…… アップルパイ食べてる時にそんな素敵な笑顔しないで下さいよぅ…… 息が止まります…… 」
女だけ働かせるのはガラじゃないので、また自分の運を貯めるとするが…… 本当にシャティがいてくれて助かる。
リスのようにガツガツと甘味を食べるシャティを見ながら…… 心からそう思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます