指輪の価値
「では、ここまでは良いですか? 」
「はい! ダンデス先生‼︎ 」
何が起こったか俺も分からないが、俺はルー・ルー・ルーの診療所の隣にある二階建ての宿舎で寝泊まりをしている。
さらによく分からないが、宿舎の一階のロビーでは俺がルー・ルー・ルーへと現代日本の小学生が習う事を教えている。
ルー・ルー・ルーの肌は灰色という部分を除けば見た目が幼女なのでまるで小学生の授業のようになっている。
「では周期表の丸暗記をしてもらおうか」
「…… ダンデス先生、その一覧を暗記すれば何がどうなるの!? 」
「————万物の殆どがこの元素という物で成り立っている。魔法を使える世界なのだから元素の周期律が分かれば魔法での変質が行いやすいだろうに? 」
「…… あのぅ…… 」
「はっ!…… はい! 丸暗記します! ダンデス先生! 」
「よし。土魔法で鉱物の精製ができる人間もいるからな。もしかしたらトリウム、プロトアクチニウムやウランに触れる可能性もあるしっかりと学んでくれ」
「あの!! 」
…… はっ! シャティが入り口から大声で俺を呼んだ所で現実に戻る。
工業、化学の面白さを伝える為に熱が入ってしまったようだ。
「あなたねぇ…… 知識を得るチャンスを奪わないでちょうだい」
「何を言ってるんですかルー・ルー・ルー様、ダンデスさんを貸し出すのは3日に一度の午前中だけの約束ですよ? 」
…… 貸し出すっておいおい……
そう、宿代をケチる為の対価はルー・ルー・ルー氏への現代日本の教育だったのだ。
俺の知識は語学や国語はダメで化学(ばけがく)科学(とかがく)に偏っている…… その2つも仕事と加齢で覚束無(おぼつかな)いのだがな……
「すまないルー・ルー・ルー」
「大丈夫…… じゃないけど、待つわ。行ってらっしゃいダンデス」
師弟…… のような関係になり今では俺はルー・ルー・ルーに敬語を使わなくなっていたが、シャティの嫉妬の目が痛い。
俺は幼女趣味はないのだがな……
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「……! ダンデスさん来ました! 」
「うむ…… 」
恐ろしい程のスピードと質量で猪の魔物が俺に向かってくる!
今までなら幸運を付与して自滅させていたが
「とおーりゃー! 」
俺は高校の部活で教わった正拳突きを豚の分厚い鼻に真正面から叩き込む
バソッ! ゴリッ!
という下手に入った拳の音と肉が裂ける音が響く。
「ひいぃ! 」
シャティはその音に恐ろしくなったのか手で顔を隠し顔を背ける。
俺のような子供の体躯(たいく)では猪の魔物どころか、
………… ズン!
しかし、白目を剥き倒れたのは猪の方だった。
「あらぁー…… 最近のダンデスさんったら、やたらと武道で魔物を倒していて気が触(ふ)れたのかと心配してたんだけど…… 強いんだねぇ…… ダンデスさん…… っ! 」
もちろん、違う…… 予想は出来ていたと思うが、要略(ようりゃく)を先にするならば
小箱を持ち帰った夜——————
「何か…… 入っているな…… 」
カラカラと小箱を軽く左右に振ると音がする。
重さ的に金属かな? と小箱を開けるとそこには指輪が入っていた。
「えれぇ…… チャラチャラしたもんが出てきたな…… 」
日本であればシルバーアクセサリーというべきだろうか分厚い銀の指輪は空気に触れて淡く輝いた。
これは危ない物ではないのか?
〈キーサーチ〉
この指輪の危険性は
どのような用途があるのか
◇answer→ 危険性は低い
◇着用者のAステータス数値を別のBステータス数値に移動する事が出来る。
…… ステータス数値?
俺は疑問に思いながら危険性は低いならと指輪を着用した。
「えっと…… 指輪よ体力の数値を筋力に5変換…… 合ってる? 」
途端に体が怠くなる。土嚢を背中に背負わされているような体の軋みさえ感じる。
「…… これは体力がマイナス5になった状態か? ダメだ……体がもたん…… 指輪よ筋力の数値を体力に5変換 」
体力が戻りふぅーっと安堵の息を吐く。
もう少しで疲労骨折をしていたかもしれない。
あまりにもリスクが高い。
シャティの寝る前に聞いたお話ではエルフ種族は体は弱いが魔力は他の種族より高いという。
なら、おそらくはエルフは有り余る魔力を指輪を使い筋力や体力に変えていたんだろう。
「俺には、無駄に高いステータスは無いけどな…… この指輪を拾って運が良かったのか悪かったのか? あれ? 」
—————————— 運?
幸運の数値を弄れると言うことは、運というあやふやな数値を変換できる…… のか?
————————————————————————— そしてその実験結果が床に倒れる猪の魔物だ。
実に便利な指輪を手に入れる事ができた。
相手の運を奪い、自分の運を筋力と体力に50ずつポイントを振って正拳突き…… 〈luck Key〉のあらゆるスキル魔法の発動には魔力が必要だが寝れば回復していくので丸儲けだ。なんて楽な仕事なんでしょう?
さて…… 次、と考えて…… 被験者であるシャティを笑顔で見つめるとシャティは頬を染めて俯いた
ホント、シャティを仲間に入れてよかったよ。
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