逃げ延びた先
夏の暑い日———————……
王都にある少年が住み着いた。
身形(みなり)は汚れ解(ほつ)れ目つきは悪く隈(くま)があるので人相(にんそう)がとても悪かった。
「地方領から働きに出たが途中て山賊に襲われて、このとおり…… 」
赤髪の少年は王都の門兵に自分の格好を示し通行の許可を得る為に仮の入門証を手に入れた。
「王都にて暮らすなら仕事を見つけ働きなさい、そこの主人が認めてサインをくれたなら住民として認める手続きをしよう。何か出来る仕事はあるか? 」
門兵は少年の窶(やつ)れた体躯を不憫(ふびん)に思い優しく聞いた。
嘘で入門して悪さをするには痩せすぎでまた目の光が濁りきっていないように見えたからだ。
「鍛冶屋を…… 紹介して頂けませんか? 」
少年は思い巡らした素振りを見せた後でポツリと呟いた。
少年は王都にある下から2番目の賑わいを見せる鍛冶屋で働く事になった。
この鍛冶屋は10ある王都の鍛冶屋の下請けで飯を食い繋いでいるような始末で移民だろうと働けるなら受け入れる用意があった。
その屋号(やごう)はガラット鍛冶屋という。
ガラット鍛冶屋の女主人であるメリは夫であり屋号に掲げるガラットが亡くなってからは足が使えなくなった工夫(こうふ)を雇ったりして数をこなす鍛冶を専業に店を回していた。
メリは門兵からの殴り書きされた紹介状と少年を見て初めは興味無く無言で手を振り足を引き摺(ず)る作業員に充てた。
何せ安かろう悪かろうの下請け仕事でも王都の人口は多く仕事量は多い。メリはこんな子供はすぐに根を上げて逃げ出すと考えたのだ。
——————— しかし二ヶ月も経っても少年は仕事を辞めなかった。
メリの鍛冶屋はボロの三回建てで王都の外壁にもたれかかるような、王都中心部から来た人間には廃墟に見えるような建築だが、広さはあり家が無く家族もなく怪我の後遺症で痛む体を酒で誤魔化(ごまか)し金の無い奴らには十分な暮らしが出来ていた。
少年は酒は嗜(たしな)む程度だが仕事はしっかりやり、子供のように無駄に騒がす、環境に耐える強(したた)かさを持っていて…… つまり金を衣食に使っていたので痩せ細った体は逞(たくま)しくなりメリの目に止まるようになった。
見た目が良くなった少年は美しい顔をしていて散髪をしていない伸びた赤髪を後ろで縛りつけるのだから色気を感じる。
メリは少年で定期的に性処理をして遊び出した。
もう50前のメリだが鍛冶屋という熱を使う環境にいるので体は引き締まり、火の魔石で鉄を熱する時に魔力を使うので肉体細胞の老化は停滞していて30手前に見えた。
作業を終え汗だくのタンクトップに作業パンツで少年と始めて楽しんだ時にメリは少年の名前を聞いた。
「あ、ヤマダデス」
「そうかい、ダンデスね…… これからよろしくねダンデス」
少年は少し考える素振りを見せてメリにキスで答えた。
山田は、松本を恐れていた為に偽名も良いかと思った。
領主という立場は想像以上に強く日本で言うなら都道府県知事より権力があるだろう。市井(しせい)の人では立ち向かえない。
東京都知事に名指しで指名手配され警視庁に全力で探されているような気分だ。
逃亡犯としては王都のように人口が多い場所に紛れて日雇いで暫く生活しようとしたが、自分を好いてくれる女がいるなら更に良いし偽名で広がるならもっといい。
山田がダンデスとして生活をしてさらに1年半が経った。
ダンデスの作業は丁寧で効率化されていてメリは閨事(ねやごと)の後にそれをガラット鍛冶屋の工程として広めて欲しいと頼んだ。
初めは頭の固い従業員の反感は心の中であったが、職人でもあるのでダンデスの作った剣やナイフを見ているので渋々と従った。
「これはいい…… 」
誰かの呟きが2日めに聞こえてからは従業員は心からダンデスの作業方法を取り入れた。
といってもダンデスがしたのは日本の工場にあるような製造動線、作業動線を取り入れただけである。
今までは素材や成果物、作業台や人の動きがごちゃごちゃになり効率と安全性が劣悪だった。
酷い場合は溶かした鉄で膝から下が無くなる従業員もいた。
ダンデスは建物の広さを生かして土魔法でパーティションを作り作業の部屋を分け動線計画を立てたのだ。
大した事は無いと思うがガラット鍛冶屋の怪我人数はそれから激減し、下請けとしての商品の質も上がった。
収益増に浮かれたメリのサインが出たのはその頃だった。
一年半以上かかりダンデスはこの王都グラディウスの住民としての権利を得た。
ダンデスはメリのサインを持ち王都の外門近くにある入管局に行き読み書き出来るようになった文字で書類を記入して王都住民名簿にダンデスという名前で登録されると、ガラット鍛冶屋で稼いだお金で重くなった鞄を背負い冒険者ギルドに向かった。
住民として認められたという事は職業選択の自由を認められたという事でもある。
……………… ガラット鍛冶屋では動線による効率化が進み女主人が自ら絶えず火の魔石に魔力を送らなくても良くなり、怠惰に飯を食べ太り美少年と遊ぶだけになったメリが年齢相応の体に老化して、もう帰る事がないダンデスを待ち続けていた——————————————————————————……
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