捕縛



ドワルド親方の部屋には警護団のケゴと見慣れぬ男が居た。


ここは商品の仕上げも兼ねた部屋なので作業台や床などなども綺麗にされているが接着剤である松ヤニやタール、張り合わせの為の革の匂いがキツく一瞬、匂いに体を押し返されるような錯覚を覚える。



親方夫妻とケゴはその中で当然と話が出来ているのは分かるが、見慣れぬ男は綺麗な縫製の上下を着て…… 袖口(カフス)には金のボタンがついているな…… 俺がカフスに一瞬の間、目を向けても男には自慢の色が見えない。


顔は美男子だが年齢が自分より高いケゴを立たせて控えさせているが、その態度は堂(どう)に行っている。



金を先祖代々で持ってるか、実力がある男なんだろう。


そんな上様は全く匂いを気にするでもなくドワルド親方が出した飲み物を飲みこちらの出方を見ている。


ケゴがいて環境に耐えれるとなると荒事に慣れた人物…… だいたいの当たりをつけて俺はケゴとの細々とした話を終えた親方を見る

「お呼びですか? ドワルド親方」

「おう、ヤマダ」


ドワルド親方がチラリと眉毛を上げ男を見る。

媚びた態度だな。

「貴人様に対しては俺から名乗らないといけませんよね? はじめましてヤマダと申します。 もしかして警護団の方でしょうか? 」

「何故だ? 」

これに無言で答える事は悪手だな。


「この匂いの中で平然と出来る貴人様でケゴ様を同伴されていると考えると」

「なるほどな」

男はニヤリと笑いケゴを見る。


振り向いた時に分かったが首に古い切り傷が残っているな……

「おいヤマダ、あまりダイン様を観察するな」


そうかやはりダイン[様]かい。


「緊張しないでくれ、私はダイン自警団の本部のリーダーをしている」

ダインは俺に話ながらケゴの差し出す丸まれた羊皮紙を受け取る。


「ヤマダには山の集落から下りる時にヨズルの襲撃から守ってくれ、またゴブリンの巣穴の殲滅方法と土魔法の使い方の拡充方法を讃える」

「それは? 」

「この領地を収めるシュバイツ公の書状だ。受け取れ」

ケゴはダインから書状を受け取ると俺に厳かに渡す。


——————— ダインは大分と端折って羊皮紙の書状を読んだようだが要約は正しいな…… そうか、俺が夜勤で提案した方法をゴブリンに使ったか…… ただ…… そうか思い付かなかったか


「土魔法だけか…… 」

俺は少しがっかりするとダインがスルリと立ち上がり俺に歩み寄る。


「…… だけ、、 とは? 」

「ああ、それは」

「良い、くだけた話し方をせよ。私のこれはクセだ 」

俺は理解したと頷き話しを始める。


「例えば、土魔法で巣穴の壁を水を一時的で良いので染み込ませない程度に硬化させるのにはどのぐらいの魔力が普通は必要ですか? 」

「…… 普通か…… それ程の力は要らぬな一時的というなら子供でも出来るだろう。」


しまった一言が多かった。 普通という言葉をつけたせいで俺の魔力量を疑われたか? まあ今はいい。



「ならば巣穴の壁を硬化させてから穴の内部に数カ所ずつに仕切りを土魔法で作り上流から水魔法で大量に水を流してやれば良かった。そうすればゴブリンは溺死し、土埋めにならなかった部分で調査やアイテムの回収が出来たでしょうに」

「…… ヤマダそれは誰かに話したか? 」

「いえいえ、城攻めに使えるような恐ろしい空想を誰かに話すとか私は臆病なのでできませんよ? 」


ダインは初め睨み、考え、そして笑顔を作り俺に頷いた。


「ヤマダ…… 分かっていると思うが」

「はい、この仕事が終了した後すぐに警護団に参上します」


そう、金を手っ取り早く手に入れ誰かの庇護下入るにはと考えていたのでこの場で空想を垂れ流したのだ。


想像すれば分かるだろう。

敵勢力の建物の天井に夜中に降り立ち階下を土魔法で埋めて水を入れる。

調度品のいくつかはダメになるだろうが相手要人の死は免れない。

そんな物騒な事を考えられる人間は殺すか取り込むしかない。かつて無い作戦なら尚更のこと。



警護団は手を差し伸べてくれるだろうから、俺は浅ましく両手で抱きつこうとしているのだ




「ダメだよヤマダ! 」

「え!? 」

ドワルドの奥さんが声を上げる。


「アンタが居なくなったら雷の鉄が作れなくなるだろ!? 」


もちろん、この後にダインへの雷の鉄の説明を求められる事になるのだが……

「ドワルドよ、その雷の鉄は警護団預かりとする」

「そんなーダイン様ぁ…… 」



奥さん…… 雉も鳴かずば撃たれまいに……




□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


鍛冶屋の仕事が終わり、俺はケゴに連行されるようにやたらも豪華な作りをした二階建ての警護団フォワール支部についた。



もちろん〈キーサーチ〉は実施済みだ。

①警備が薄い

②フォワールの町からの逃げ道


それをスマホスキルのMAPに入力して逃げる算段を用意している。


「さてはて、せめて一日は自由時間が欲しかった」

「バカ、あんな提案しといて野放しにできるかよ! 」

そう土魔法を使った効率の良い水責めは次の日の鍛冶屋の夜勤時にひょっこり現れたケゴに頼まれ内容を詰めて洗練し、翌朝に早速で実地で二カ所に使ったそうだ。



相手の家族…… 女子供を道連れにする戦法だが有意義で領主の秘策とされた。


つまり…… 盗賊や魔物ではなく政敵か家族がいる世帯にお試しで使ったのか…… 業が俺の背中に乗り重なるようだ。


奇策は回数を重ね失敗を含めた経験値の上でもしもの時に使えるのだから…… これからもお試しは続くんだろう。



はぁ…… 更なる手を提案しないで良かった。


腹案は金になるからな…… ばら撒くのはまだ先だ。

え? 人道的ではないから話さないって?

軍の作戦はあればあるほど味方は安全なのだからそれはありえない。





警護団の建物の前は閑散としていた。

事前にケゴに聞いていたが警護団は昼の見回りでハケており大隊長であるダインとケゴしかいないという事だった。


俺は油断をしていた

人の心は欲に染まると濁る

濁っ心はどんな色にでも染められるのだ。



警護団に入ると大きいホールになっていて建物を外から見た時との対比が面白い程に質素だ。


何もない。

がらんとした30畳ほどの白いタイルが敷き詰められた奥をみるとダインと松本が座っていた。


「その人が犯人です! 」

松本が俺を指差して叫ぶと同じにケゴが俺を後ろから組み敷く。


ゴリっゴリっと2度、慣れた手つきでケゴは俺の両手の関節を外すとスッと立ち上がり無表情に俺の顔をサッカーボールを蹴るように鉄の入った靴で蹴り抜いた。



そりゃそうか

先に何年も暮らしていた松本が警護団を知らないワケがない。

松本が何かの能力で権力を持っていたら…… いや…… 松本がここらの領主なのかもしれない。



ケゴは俺に役職と奪われると思っているだろうし…… な……


—————————— ケッ!

全くしけてやがる。


体に力が入らずフワフワとした意識とハレーションが起こる視界にケゴの大きな拳骨が落ちた所で俺の意識は途切れた。



こりゃあ鼻が折れたな……

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