集落に到着
なんとか集落まで辿り着いた。
途中にMAPに赤点表示があったから物見遊山に近寄るとクソデケー熊が寝てやがった。
ありゃ絶対に魔物だわ。 生物としておかしすぎるぜ?
どうやらMAPの赤点は敵か魔物なんかもしれんな。
なんにせよ武器無しこの世界の事知らないままに魔物に襲われたら死ぬしかないからな。助かったぜ。
集落は簡単な柵で20軒程の住居を囲んだ程度のもんだった。
「おーい! 誰かいるかー? 」
空には橙色のお月さんが登り、辺りは真っ暗。
野宿をせんで済むと笑ってしまう。
「オマエは…… 誰だ? 」
集落から現れたのは30代半ばぐらいの若造だった。
いきなり大声で侵入したせいか偉い剣幕だ
「いやスマン嬉しくて大声を出してしまった」
「いや…… あぁもしかして遭難でもしたのか? 」
「ああ、そうなんだ」
ついギャグじゃないぞと言いそうになるのを堪(こら)える。とりあえず相手から『そうだろう』と憶測してくれたら乗っかっておこうか。
相手が心を開いてくれるんなら楽だからな。
言い換えれば警戒心が無いんだなコイツ
この男の年齢で警戒心がこの位で生活できる世界なら口八丁手八丁(くちはっちょうてはっちょう)でやり抜けられるかもしれん。
「すまないが水を一杯だけでもくれないだろうか? ホレこの通り私は武器も道具も持ち合わせておらんのだ」
俺はワザとらしく両手を上げてその場でクルリと回り最後に両ズボンのポケットを裏返して外に出してみせる。
「…… そんな用意も無しによくココまで来れたな? 大丈夫だったのか? 」
ほらな、警戒心が無ぇから俺が無抵抗なフリをするだけで心配しやがる。
もうひと押しだな。
「それが…… 騙されて身ぐるみを剥がされ森の中に放り出されたんだよ…… それで歩き歩いてココを見つけて嬉しくて…… 」
薄暗いから少し俯くだけで悲しみを演出できただろう。
しばしの沈黙の後に男は俺に歩み寄り……
「それは大変だったな…… ほら俺の家においで何か食べさせてやろう」
ホラな上手くいった。
□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
「そうか出稼ぎに出ようと思ってなぁ…… 」
「はい」
さらに山奥の集落から友人と街に行こうとして野宿中に友人に所持品を盗まれた…… というストーリーにした。
こういうのは分かりやすい嘘がいいんだ。
日本から異世界に来た。
なんて説明しようなら何時間かかるか分からんし信頼してもらえんよ。
だいたい、人は意味の通じない話を何十分もまともに聞いてくれない。
男は俺に芋を蒸(ふか)したのを出してくれた。
その時に生活魔法というのを始めて見たのだが、驚かないようにするのに必死だったぞ。この世界に魔法がどれだけ浸透しているか分かんねえからな。
さて、と
「すみません用意してもらって」
「いーえ、大変だったねぇ」
男の娘が白湯(さゆ)を持ってきてくれる。
男はマタギかな? 俺が飯を食べ終わるまで待っていてくれたんだろう匂いの酷いの油を弓に塗って手入れしている。
娘は…… 素朴な娘で目が小さく顔が丸い愛嬌があるふっくらとした…… 包容力がある子だ
「飲み物と食事ありがとうございます。 何かお礼が出来たら嬉しいのですが…… 」
「いえいえー 大丈夫ですよ? 」
何か用事をする事に座る位置を近づける娘に俺の容姿はこの世界で人に嫌われないものだとわかる。
ガラス、鏡、量のある水それらがないので自分の顔が確認できない
おそらく…… だが、若返った姿だと思うのだが手櫛で抜ける毛の一本が赤髪なのだ。
髪の毛の色が違う。俺は本来の地毛は黒なのだから顔も変わっているかもしれない。
「今日は廊下ででも寝かせてもらえませんか? 」
「え? お客さんなんだから部屋を用意したわよ? 」
娘が俺の言葉に驚いてアタフタする。
なるほど親子して善人なんだな。
俺は用意された部屋に移動する。
娘はチラリと父親を見てから布団を用意すると言い残し俺を先導してくれる。
途中、俺の手が娘の手に当たるが逃げない。
初めて会った男との肌と肌の接触も…… 大丈夫な容姿をしているのか俺は。完璧に日本にいた時の顔ではないだろうな。
ふむ… どうも楽しい。 こういう駆け引きは長い事なかったからな。
日本のように清潔ではないが山間部の集落で木が豊富なのか木製のベッドに麻布がかけられた硬い寝心地であろうものが部屋にあった。
娘は大きく健康的な尻を揺らしながら麻布の下に藁(わら)を入れほんの少し柔らかな寝心地に変えてくれた。
「できたわよ…… まあ、私みたいな大きなお尻を見て楽しいかい? 」
娘が急に首をこちらに向けたので俺の視線の在(あ)り処(か)がバレてしまう。
娘は粗末な布のワンピースを着ているので体のラインがまる分かりで凝視してしまった
「すまない、つい…… 」
「…… そうかい? 」
娘は小さい目でこちらを見つめ頬を染める。
「ああ、とても綺麗だよ」
飲み屋では、とにかく褒めるのが歳をとってから女の子に嫌われないコツなのでクセになっていてつい娘にもクサイ事を言ってしまった。
褒められた娘は身を捩り恥ずかしそうに部屋を出て行った。
上手くすれば抱けそうだな。
しかし…… 初めて会った名も知らぬ女が好意を抱く顔になっている…… という事だろうか?
俺は日本で松本に騙され散々に歩かされた疲れからかベッドに寝転がり何度か体を曲げてシーツ下の藁を寝やすい形にすると瞼(まぶた)が重くなり眠りに落ちた。
翌日からはこの世界に慣れる為に行動を始めた。
少しここで過ごす事で出身地を偽る事ができる。
ここは木こりとマタギの集落で2カ月に1度、町から素材を買い付けに来るらしい。
…… たしかにスマホのMAPアプリに東に20キロの場所に町があるようだ。
俺は〈溶接〉の能力(アビリティ)と〈電気魔法〉を使えるらしいので工業的な作業が出来るハズ…… まずはそれらを使えないか集落の仕事を見学をして回る。
男は寡黙だが仕事を邪魔しないなら追い出したりしないようだ。
鍵屋は基本的に作業を連続してする仕事だ。
無口には慣れている。
午前中は見学に時間を回す。途中で壊れた斧が集められた場所がありこれを使えないかを歩いていた男に質問する。
男は一度、険しい顔をしたが壊れた斧を見てから無表情で俺に頷いた。
午後、俺はスキルの使用を試してみる。
俺は試しに捨てられた斧の部品を合わせ〈溶接〉と〈雷魔法〉のスキルを使う
アーク溶接をしようと思うんだが鉄と鉄を合わせる溶加材が無い。でもスキルの恩恵か溶接が出来る自信がある。
冷蔵庫に買っておいたハムがある
たしか酒が半分残っているはず
そんな感じで〈溶接〉が俺の脳に訴える。
昔、覚えた技能だが体はスムーズに鉄と鉄を合わせようと動く。
指先から電気が突き刺すように放たれて鉄に当たりアーク溶接の光と火花が飛び出す。
ジッジジジ…… !
溶接材料は魔力で補填されるようだ。
ジッジジジ…… !
指先からウンコを捻り出すような感覚と疲労の痺れが来る。
魔力を消費する感覚は慣れないかもしれんな。
使えるかのチェックだったから500円玉ぐらいの屑鉄二枚を溶接してみた。
これは…… 近くの岩に溶接した鉄を乗せて捨てられ刃が無い斧の背でガツガツと殴る
「地球のアーク溶接より強度があるのか。 魔法とは便利なものだな」
あまりの使い易さに独り言をつぶやく
目に光のチラつきもない。
魔法の電気だから使う側に
俺は長考は無駄だと考え、午後から延々と斧や弓矢の鏃(やじり)の修理を行った。
流れ作業にのると時間は感じない。
体の疲れや出来高のみだ。
ひたすら、仕事を続けていく……
ふと多くの足音に気づくと山の輪郭が夜の闇で朧気になっていた。
木こりの一団が山から下りてきていたのだ。
その一団の一番体格の良い男がジィッと俺を見つめる。リーダーなのだろう。
「今日一日、なにをしていた? 」
俺の存在は聞いていたのだろう。
仕事をしていて当然という口調に俺は頷き、修理をした斧や鏃を見せる。
リーダーは少し驚いた顔をして斧を拾い上げ、転がっていた丸太を何度も叩く。
「修理されているな。どうやった? 」
「そういうスキルがある…… ではダメか? 」
俺の言葉の後に斧を見つめ、いつの間にか集まっていた集落の人間を見る
「これと同じ事が出来る者」
リーダーの言葉に反応は無い。どうやら修理は俺だけの専売特許のようだ。
「明日から、修理を頼む。この集落にいる間、仕事をするなら迎え入れよう」
「はい」
女衆が俺の返事に反応して汚い小屋に案内されると中には破損した道具が積まれていた。
なるほど、仕事はたくさんあるな。
ありがたい事だ。
次回の町へ素材を売りに行くまで俺はここで仕事をする事に決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます