冬の間
「ねえ、よかった? 」
「ああ、よかった。とてもな」
俺は修理の物品が積まれた小屋でズボンを上げる。
初めて俺を受け入れた家の娘、エリーはスカートを下げ豊満な胸を服の中にしまいこみニッコリ笑う。
エリーが昼を届けに来た時に口説き楽しんだのだ。
「子供が出来ても大丈夫だよ? 」
「ん? 」
「この集落は人手不足だからね、もしデキても大切に育てるからね」
俺は、そうかと言ってエリーにキスをすると作業に戻る。
この世界では魔法の遺伝があるようで
「あなたの魔法を持つ子が出来たら嬉しいから」
と全てを注ぎ込むのをさがまれた。
50を過ぎて酷い暮らしをしていた人間なので若い体になった今、変に肩肘を張らず成り行きに身を任せるのもいいかと考えた。
子供が出来ればここに住む…… それもいい。
俺は作業を続けた。
エリーとの関係はこれだけだった。
この年は冷えが早いらしく商人が来るのが遅くなると考えたからだ。
出産は万全であっても死産もある。
商人は魔法薬であるポーションを販売してくれるそうで出産に欠かせないという。
出産で裂けた陰部を、母親の体力を戻すポーションは出産に強く紐つけられているので母の薬とも呼ばれている。
商人が来ないという事はつまり産後の安寧をはかれない。
エリーが死ぬのも嫌なので子供が出来ていないのを願いながら冬を迎えた。
雪深い山岳の集落では何もする事がなく暇で、冬秋までに疲労した金属の修理を延々と繰り返していた。
何年分もの破損品、破棄品を修理する
初めは魔法に慣れないのか嘔吐や下痢を繰り返していたが冬の最後の方は軽く1日の終わりまで魔法を使い続けた。
そうなると効率があがり生活用品や包丁まで修復してこの集落の人間として認められた。
ーーー エリーの生理が2度来てホッと胸を撫で下ろし、それから二カ月経つと雪が溶けて仕事始めの準備をする。
ゴトゴロゴロ……
「? なんだ? 」
研ぎ石での整備も俺の仕事になっていたのだが、1人で小川にその石を拾いに行くとゴロゴロと聞き慣れない音が近づいてくる。
車輪の音か?
それは正解していたようで山嶺(さんれい)の間から数人の人影と幌馬車が登ってくるのが見えた。
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「おお! 大丈夫だったか? 」
「ああ、そちらこそ」
俺が砥石を袋に詰めて帰ると集落の広場では集落のリーダーと恰幅(かっぷく)の良い壮年の男が握手をしていた。
幌馬車からはさらに1人、あとは腰に剣をさした男が2人の4人組は疲労した体を伸ばして唸り声をあげる。
「すまんな! あまりに雪が凄くて山を登れなかった。新しい斧や鏃を持って来たぞ! 仕事始めで道具が足りなくて困っていただろう? 」
商人は金勘定を頭の中で始めたんだろうニンマリとした顔でリーダーの肩をパンパンと叩く
「いや、今回は必要ない」
「…… ほぉ? ならあまり仕事が出来なかったかい? 」
「いや、今回のアガリは今までで一番だ」
商人は困惑した顔をしてジッとリーダーを見つめる。
「今年はエリーの所に客人がいてな、それが理由だ」
「…… ほぉ、それはそれは」
商人は首を回し集落の人間を1人ずつ確認し俺へと目を向けた。
「彼は見た事がありませんね…… 彼が? 」
「ああ、」
商人は俺を笑顔で見て無言でリーダーの家に向かった。
「なぁキミ、赤毛の」
剣を腰に装備した男が軽い声で話しかけてくる。
黒髪で180センチ位の身長をした男だ。
越冬後の山は雪がなくても寒い。皮の鎧に厚手の服を着込んでいるが首や手首の筋肉が男の強さを示しているようだ。
俺がサッサと男の強さを測っているのに気付いたのかニャリと笑い剣を外して近くの材木に立て掛ける。
安全と敵意がないのを見せたいのかもしれんが剣を置いた方の手の筋肉がピクッと動いてる
バカかコイツはいつでも剣を取り斬れると語ってるようなもんじゃねぇか。
「あの—— 」
「ん? 赤髪の、会話はできるみたいだな」
「ポーズやパフォーマンスは要らないから剣を腰に戻してくれ。逆に気になっていかん」
「!…… ……、、ふぅーーん、ほぉぉーーん 」
呆気に取られた顔の後にザワザワと髪の毛を逆立てるような覇気をだしながらニンマリと男は笑う。
「面白いなキミ、その歳で俯瞰した物の見方をしているようだね? 」
「…… 何歳に見えます? 」
「なんだ? まだ10歳ぐらいだろ? …… もしかして亜人か? 綺麗な顔をしてるしエルフのハーフか? 」
「いいえ、人間です」
そう、俺の顔は綺麗なのだ。
斧を直し、研ぎ澄ます時に鏡面になった斧の腹で自分の顔を初めて見た時には失笑してしまった。
眉毛は整い、目は多く睫毛(まつげ)はマッチ棒が乗っかるぐらいに多くて鼻筋はスッと一筆入れたような美しさ。口は…… どうでもいいか普通だ。
山田として生きた顔とは全く違う顔が俺の首に乗っかっていた…… 気持ち悪ぃな
しかし…… エルフがいるのか
本当にファンタジー小説の世界だな。
「なぁ、赤髪よオマエは鍛冶屋か何かか? 」
「…… 」
「なあ? 聞いてるか? 」
「何かか? と聞いた時点で違うと確信があるんだろうに。 もっとハッキリと質問してはどうだい? 意図が分からん質問をグズグズ答えても無駄だぞ? 」
若造がこちらの力を窺い穿るのは腹が立つ
コイツの目の奥には格下を馬鹿にしている光さえある。
…… くだらん。
男はハッと鼻を掻いて笑い、次には笑うのを全くやめた。
この顔で殺害予告をされたら全ての人間が本気にするだろう顔で俺を見下ろす。
「なあ、オマエさん。俺は実はこの領内を守衛する警護団の隊長だオマエさんは少しばかり見た目と違い異常だ。殺したくないから何が出来るか教えてくれないか? 」
俺は満足した顔で頷いた。
そうかコイツは領主と繋がりがあるのか
それに警護団がいないと治安が悪い世界…… というわけだな。
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