第十三話
コアを破壊されたエルドを見ると、黒い鎧から黒い光の粒がふわふわと出ていた。鎧は時間が経つにつれて色が薄くなっていく。
「く、くそっ……! 覚えておけ! 次に会うときは僕が勝つ!!!」
残る悪魔の力を振り絞って飛んでいるのだろう。飛行能力が失われる前にエルドは急いで戦艦へ向かった。
あの戦艦……リバラシオンとか言ってたっけ。あれも亜空間にあるのだろうか。だが、亜空間にあるとすれば一度亜空間に訪れた俺達が気づかなかったのはおかしい。
疑問は残るが、今はとにかくみんなの元へ戻ろう。
「船長おつかれー!!」
「お疲れ様。残った魔物は私たちが何とかしておこう。悪魔が倒されてから、外からやってくる悪魔はいなくなったんだ」
「お願いします。俺はもう疲れちゃいました」
「任せておけ。ゆっくり休むように」
残っている魔物はシキさんとアルマスに任せよう。
悪魔の影響で入ってきた魔物は、本来街の中に入ってこれない存在。なので、コアを破壊した瞬間に逃げるように街から離れた。
だが、街に居座り建築物を破壊し続ける魔物もいる。それは召喚された魔物だ。おそらくエルドの仲間が召喚した魔物だろう。
「結構壊れちゃったな」
「仕方のないことです。わざと街を狙っていましたから、全て防ぐのは初めから不可能でしたよ」
白い布装備が消え、元の服装に戻る。それと同時に雷霆も人間の姿になった。
二人で破壊されたローレルの街を眺める。戦艦から放たれた光線の被害は絶大だ。分かりやすく地面が抉れている。初めて雷霆が魔物を倒した時の地面よりも抉れている。当たったらどうなっていたのだろうか。
「ま、オレも街の復旧を手伝ってやるよ。そうすりゃちっとは早く終わるだろ?」
「食料調達もしなくちゃいけないですしぃ、出発までまだ時間はありますからねぇ」
ルーンさんが下にいたのは知っていたのだが、ガジットも降りていたのか。
「どうでもいいが、早く報酬をだな」
横からイバルラが会話に入ってくる。この子はずっとお金お金だなぁ。まあ、生活のためだから仕方ないのかもしれないけど。
待って、ということは今船には誰も乗ってないってことじゃん。
「あれ、操縦しなくて大丈夫なの?」
「ん? ああ、高性能な船だなあれ。僕も欲しいくらいだ」
「そうなんだ……」
「まだ時間はあるんですから、今はお城に入って休みましょう!」
ルーンさんの一言によりお城に入ることに。
ローレル城は外壁が若干壊れてしまった程度で、被害はあまり出ていない。大きな被害と言ったら風車が外れてしまったことくらいか。怪我人が居なくてよかった。
残った住民のみんなに感謝されながら、仮眠室に向かった。大臣が案内してくれた。すごく腰が低かった。初対面の時は若干上から目線だったのに。
「それではごゆっくりお休みくだされ!」
「あ、ありがとうございます」
住民がお城に集まっているため、お城の中に入っても住民の声が聞こえてくる。これからの街の復旧作業などに精が出るよう、食料を集めてパーティーをしようとしているらしい。壊れてしまったけど、街は救われたのだ。俺達に感謝を伝える目的もあるのだろう。
「この国の人たちは強いね」
あんなに街が破壊されていたのに、みんなが希望に満ち溢れた表情をしていた。もし俺の住んでいた街がボロボロになったら、俺はあんな風に笑えるだろうか。
「いつの時代も、前に進み続ける心が大切ですから。私も多少魔力を使いすぎました。寝ましょうか」
仮眠室にある大きなベッドに雷霆が横になり、ポンポンとベッドを軽く叩いた。硬さを確かめているのだろうか。
「おっきいベッドだよね。柔らかそうだ」
そう言いながら雷霆の隣のベッドに入る。おお、これは柔らかい。亜空船のベッドも悪くないけどやっぱりお城にあるベッドは一味違うなぁ。
「これでは通じないのですね…………寝ます」
「あ、うん。お休み、雷霆」
寝ますの前に何かを言っていた気がするが、聞き取れなかった。気になる、気になって夜しか寝られない。普通だ。……あ、眠くなってきた。夜じゃなくても眠くなるじゃん、めっちゃ嘘つくね俺。思ったより疲れてるのかな。
お城の仮眠室にある豪華なベッドを独り占めした俺は、戦いの疲れからかスムーズに眠りについた。
* * *
騒がしさに目を覚ます。
どうやら別の部屋で例のパーティーをしているようだ。俺も行こうかなと思い、顔を上げると、真横に雷霆の顔があることに気づいた。
「おおわっ!?」
「あ、おはようございます。マスター。……時間的にはこんばんはでしたか」
寝ているわけでもなく、ただ俺の顔を見ていただけのようだ。やだ、寝顔見られちゃった恥ずかしい。
「おはよ。何してたの?」
「よく寝ているなと。まだお疲れですか?」
「いや、もう元気。みんな待ってそうだし行こうか」
移動しながら、至近距離の雷霆の顔を思い出す。整ってたなぁ、それに、目が金色に光っていた。中に魔法陣のような模様が見えたけど、あれはなんだろうか。
「こっちだぜ!」
「やあ、まだ寝ててもよかったのだぞ」
「いえ、もうそれなりに疲れはとれました」
食堂に大量の料理が置かれている。お芋どこ。
「あの戦艦はどうなったんですか」
「影も形も見つからない。ずっと監視していた者がいたのだが、なんと突然消えたらしい。風の流れが数日前と同じになったから、おそらく飛び立ったのだろうな」
「そうですか。ってことは、もう次の国に行ったんですかね?」
「そうだろうな。まあ、こっちは出航に準備が必要なんだ。早くても明日、瓦礫の撤去や食料の調達をしてから出航だろうな。それまでしっかり休め」
「分かりました」
食堂を見渡すと、おじさんが集まって酒を飲んでいたり、子供が集まって遊んでいたりとすでにグループが分かれていた。あ、子供の集団にアルマスがいる。違和感仕事しろ。
「いやーお前さんたちの勝利を僕は確信してたよ。うん」
「イバルラ、やけに機嫌がいいね」
気が付かなかった。隣にイバルラが座っていた。小さいからわかんないんだよね。態度は大きいけど。
「シキがなかなか話が分かる奴でな、納得できるだけの報酬をくれたんだよ。いい仲間を持ったねぇ、羨ましいよ。と言っても、この金もしばらくしたら無くなっちまうんだよなぁ」
「一緒に来ればその心配もないよ?」
「やめだやめ、その話は断っただろ。シキにも誘われたが答えはノーだ。僕は人間から施しを受けるつもりはない」
シキさんからも誘われていたらしい。この先情報は大事になるから、調べるのが上手い仲間が欲しいのだろう。しかし、施しか。
「え、でもお金受け取ってるよね?」
「それは報酬だからだ。僕が仕事をして手に入れたお金。分かる?」
「はあ」
どうやら意地でも人間に助けられたくないらしい。その意地で餓死寸前だったでしょ君。
食事をしていると、大臣が来て王様が俺を呼んでいると言ってきた。え、俺何かしたっけ? と思ったが、そういえば俺、この国を救ったんだ。あんまり実感が湧かない。
食堂の奥の方で座っていた王様らしき人の前に跪く。
「君がクルトか」
「は、始めました!」
「何をですか」
雷霆にも一緒に来てもらっている。ツッコミとか今要らないから。真剣だから今。
「ははは、まあ楽にしてくれて構わない。なにせ国を救ってくれた英雄なのだから」
「そ、そうですか?」
「それで本題だが……君たちは旅をしているのだったか」
「はい。ちょっと前に始めたばかりですが」
「聞いた話ではさらにほかの国も救うだとか。ならば、救われた我々は手助けをせねばなるまい。何を望む? 可能な限り手を貸すぞ」
「え、じゃあ……食糧ですかね。次の国はどこかもわかりませんし、必要になる食糧の量も分かりませんから今のうちに沢山欲しいです」
「そうですね。私達は無事に現地に到着できさえすればそれでいいので」
シキさんが言っていたのだ、金はあっても食糧が手に入らないことだってある。入手できるうちに入手した方がよいと。
「ふむ……そんなことでいいのか? ならば、大量の保存食と小麦粉を準備しようか。それと……ジャガイモが豊作でね。山ほど余ってしまっている。いるかな?」
「え、ジャガイモが山ほど!? ください!」
即答だった。どのくらい早いかというと、音ゲーマーの腕の速さくらい早かった。分かりにくいね。
わかりやすく言うと、雷霆くらいの速さだ。分かりやすいね。
「話は聞いたぞ。私も話をさせてもらおう」
俺と雷霆が王様のと話をしていることに気づいたシキさんが会話に入ってくる。王様相手にこの態度、流石だ。その後、詳しく食糧についての話し合いを行い、話はついた。
予定もあらかた決まった。明日、復旧作業の手伝いをし、出航するそうだ。予定も決まったし、今日はパーティーを楽しむだけだ。
数日で色々なことがあったなと思いつつ、俺はジャガイモを口に含むのだった。
クリスタライズファンタジー―ソシャゲの世界に転移したのでチートガチャで世界を救います― 瀬口恭介 @seguchi_kyosuke
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。クリスタライズファンタジー―ソシャゲの世界に転移したのでチートガチャで世界を救います―の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます