第十一話

 魔物と戦闘していたシキさんのもとに戻り、俺は状況を説明した。相手がもうすでに悪魔の力を手に入れたこと、そして大きな鉄の船があったことを。


「そうか……魔物の相手は間に合っているからな。一旦船に戻ろう」

「船ですか?」

「ああ。なぜだか知らんが一般人にも亜空船が見えているようなのだ。異常がないか調べに行こう。魔物が増えても亜空船を操縦してそこに向かえばいい」


 そう判断したシキさんと一緒にガジットとルーンさんを探し、船に向かう。

 船に向かう途中、雷霆には空から鉄の船を監視してもらっている。今のところ動きはない。今のうちにと船に乗り込もうとする。


「あっ、カギ使い忘れて……ん?」


 階段に足を掛けた瞬間に亜空間に移動していないことを思い出した。すぐに亜空間に行こうとしたが、何かがおかしい。

 そう、亜空間ではないのに亜空船に触れることができるようになっているのだ。

 何はともあれ乗れるなら別にいいと甲板に上がる。すると、甲板の上に見知った顔のエルフが立っていた。


「イバルラ!?」

「この船、お前のだったのか。んであの時言っていた厄災ってのがこれか。空から街が直接攻撃されていたし、このままだと街は破壊されてしまう。なるほど、本当に世界を救おうとしてんだな」


 半分信じていたが確信に変わったといったところか。

 シキさん達は昨日説明した情報屋だと察したようで普通に船に乗り込み船を調査し始めた。


「そうなんだよ。それより、なんでここにいるの?」

「いやなに、馬鹿でかい船が見えたから来てみたら、お前らが走ってくるのが見えたんだよ。どうやら苦戦してるみたいじゃないか」

「……まあ」


 あのままでは絶対に勝てなかった。それは俺の腕の問題とか、そういう次元を超越していた強さだった。攻撃することもできない。そんな隙も与えてもらえない。


「じゃあ交渉だ。奴の弱点を教えてやる。だから金を払え」

「こんな時にもお金なの!?」

「さあどうする? 魔術で奴を観察して確認したからまず間違いない情報だぞ?」

「失礼。それは本当かな? なら、その情報を買わせていただこう」

「おっ、なら話は早い。いいぜ、教えてやるよ」


 会話に割り込んできたシキさんが情報を買うと言い出した。どれだけのお金を取られるかわからないのに。


「シキさん……いいんですか?」

「お前にしか倒せないんだ。なら、私達にできることは手助けしかないだろう。さ、早く教えてくれ」

「奴の武器……あー、ベルフェゴールって呼ぶか。ベルフェゴールの武器である大鎌には力の源であるコアが埋め込まれている。緑色の奴な」

「緑色のコア……」


 確かに、エルドの持っていた大鎌には宝石のような、ルーンさんの杖の先についているような緑色の石が埋め込まれていた。


「そこをぶっ壊せば力を失うはずだぜ。簡単な情報だけど、知ってると知らないとでは大違いだ」

「だそうだ。クルト、できるか?」

「……どうでしょう、攻撃ができれば何とかなりそうですけど」


 攻略法が分かったところで、攻撃ができなければ意味がない。普通に戦っても、攻撃をする余裕がないのだから。


「ちょっとー、ここにカギ刺しっぱなしにしたの誰ですかぁ?」


 ルーンさんがそう言ったことで、意識がそちらに移る。

 どうやら舵にカギが刺さりっぱなしだったらしい。


「あーオレだわ。ほら、離れたら勝手に元の空間に戻るとか言ってたし、自分でカギ使うの面倒だったからよ」

「もう……あれ、なんか光ってませんかぁ?」

「ほんとだ。精霊、これはなに?」


 思い出したように精霊を呼び出す。分からないことがあれば聞けばいいのだ。昨日一応悪魔の弱点聞いたけど分からなかったんだよな。亜空船のことならわかるだろう。


『目的地に到着してからカギを刺すと、亜空間と通常空間の一時融合が始まります。一定時間が経過すると、国全体を覆いつくす範囲の空間が亜空間と同等のものとなります』

「つまり……ここはもうすでに亜空間ってこと!?」


 だからカギを使わなくても船に乗ることができたのか。いや、早く教えてよ。


「やはり亜空間になっていましたか」


 空から鉄の船を監視していた雷霆が降ってきた。着地して、直立不動のまま落ちてくるのやめて。

 雷霆は空間が亜空間になっていることに薄々気づいていたのだろうか。やはりという言葉を使っている。


「雷霆、気付いてたの?」

「はい。昨日に比べて少しだけ力が強くなっていたので。私達武器は空間で使うとさらに力を高めることができます。しかし、亜空間で試した時よりも力が出なかったので本当に亜空間なのか疑問に思っていました。精霊様、まだ亜空間とは呼べないのでは?」


 結構喋ったなと思ったのもつかの間、精霊が再び喋りだす。


『ええ、その通り。亜空間と同等の空間にするためにはカギを刺してから一定時間が経過し、カギが光った時に回す必要があります』

「ルーン! 回せ!」

「はーい!」


 精霊が言葉を言い終った直後、シキさんがルーンさんにカギを回すよう指示した。

 ルーンさんがカギを勢いよく回したその瞬間、空気が変わる。ああこれは……数日間過ごしたあの亜空船と同じだ……。隣を見ると、雷霆が右手から雷を出しながら力を確かめていた。心なしかいつもよりも激しい雷が出ているように思えた。


「これは……これです。これが亜空間での私の力です。マスター、私を装備してください」

「わ、わかった!」


 言われるがままに武器になった雷霆を持つ。すると、今までとは格段に違う力が溢れ出してくる。

 全身に雷が走り、反射的に目をつむる。目を開けると、服装が変わっていた。

 雷霆と同じような白い服に、頭には天使の羽の形をした装飾がついた金属円が。取り外しも可能だ。外した時に力が減ったように感じたので装備した時に効果が出る装備なのだろう。


「すごいな……私にもできるのだろうか」

「もちろん! 行くよー!!」


 元から武器化していたアルマスがシキさんの鎧を構成していく。どこからともなく現れる軽装備の鎧。動きやすい鎧に相まって、シキさんのすらっとした体つきによく似合っている。


「おおお!! これは……物凄い力が湧いてきたぞ! 待ちきれない、船の操縦は任せた! 私は戦ってくる!」

「おい! 僕への報酬がまだだろう!」

「戦いが終わった後に払う! なんなら船の操縦もしてくれ! 報酬に追加しよう! それでは!!」


 シキさん……あんな元気キャラじゃなかったのに。アルマスに身体を乗っ取られたような豪快さだ。

 でも確かに気持ちはわかる。これだけの力があれば、戦える。エルドに勝てる。


「ったく。一応船の操縦方法なら知っている。この船を城の近くに浮かせておけば被害も減るはずだ。おいそこのフード女!」

「な、なんですかぁ?」

「僕がしっかりと操縦しているところを覚えておくように! シキとか言ったな? そいつに相応の対価を要求するためにな!!」


 どこまでも守銭奴……だが、金さえ渡せばしっかり働いてくれるということ。船の操縦ができるんだし仲間になってくれると嬉しいんだけどな……本人が嫌そうだしなぁ。


 亜空船が浮き、街の上を飛行する。城まで移動するのは一瞬だった。この城に一般人が集まってるんだよね……ここを守れば死人は出ないのか。頑張ろう。


「そうだ、ペガシスに乗らなきゃ戦えないんだった」

「いえ、この姿は私そのものです。マスター自身が雷になることもできますから、当然飛ぶことも可能です」

「飛べるの!?」


 飛べるんだ……飛べるならペガシスに乗る必要はないか。あ、でも一応精霊をペガシスにして城を守らせた方がいいよね。戦力は多い方がいいし。

 そう思い、精霊に召喚石を突っ込む。


「攻撃を防いでみんなを守って」

『了解しました』


 ペガシスになった精霊が空中にいる魔物を突進で次々倒す。今は城が攻撃されていないから魔物を倒しに行ったのか。行動力あるなあ。


「あっ、敵船から誰か出てきましたよぉ」

「あれは……エルドだ……!」


 亜空船が高いところにあるため、エルドの乗っている船が見えるのだ。そこから大鎌を持った男が飛んできている。エルドで間違いない。


「行こう、雷霆」

「ええ。今度こそ勝ちましょう」


 雷霆を握りしめ、船から飛び降りる。時間は……昼過ぎくらいか。時間がわからなくなるくらいには、ぶっ通しで動き回っていた。朝、いきなり魔物が現れ戦いが始まり今に至る。長いようで短い戦闘だ。

 でも、こんな戦闘を各国で何度も繰り返すことになるんだよね。まだ旅は始まったばかり、今苦戦してたら世界なんて救えない。

 

 さあ、ボス討伐を始めよう。

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