第九話
ローレル城に向かうと、門の前で兵士に止められてしまった。槍をこっちに向けて警戒している。危ない危ない怖い怖い。
「あの、ここに鎧を着た金髪の女の人が来ませんでしたか? その人の仲間なんですけど」
そう言うと、兵士は槍を戻した。心当たりがあるのだろう。シキさんが中にいるのは確定だ。
「あの女か。それなら中で話を聞いている最中だが……仲間である証拠はあるのか?」
「証拠ですか……普通にシキさんに確認してくれれば本人って信じてもらえると思います。あ、遅れましたけど俺がクルトでこの子が雷霆、この人がルーンさんです」
「そうか。おい、確認を取ってこい」
「はっ!」
もう一人の兵士は城の中に入り、シキさんに俺達が来たことを伝えに行った。
数分後、兵士が戻ってくる。
「はい、確かに仲間だと言っていました」
「よし、入れ」
警備はそれでいいのだろうかと思いつつ、中に入る。
場所もわからないので兵士さんに案内してもらう。その槍持ちながら歩くの大変じゃない? 短槍とかどう? おすすめだよ。
案内された部屋に入ると、シキさんがちょっと地位の高そうなおじさんと話をしていた。貴族だろうか。
「おお、二人共もう買い物はいいのか?」
「はい。やることないので加勢しに来ました。ガジットは知りません」
ガジットについて聞かれる前に言っておく。
「そうか。今言い伝えの説明を終えたところなんだ。大臣、この男が例の救世主だ」
「ふむ、君がそうか。しかし、信憑性がありませんな。騎士殿の言っていた言い伝えでは武器が人間の姿になっているとかでしたが」
「私がそう」
雷霆がそう呟きながら短槍になる。本来の雷霆の姿だ。
「なんと! これはどうしたものか……」
「ボクも武器だよっ!」
続いてアルマスが人の姿になる。武器だよと言いながら人の姿になってもなぁ。
「船長! すっごい暇だった!」
「そっか。じゃあ酒場に行く前に遊ぶ?」
「うん! 約束ね!!」
なんてさらっと約束してしまったが、時間は大丈夫だろうか。ガジットが時間通りに来たとして、待たせてしまうかもしれない。
「こんな子供まで……! ええ、信じましょうぞ。して、その悪魔を利用する者は何者なのですかな?」
「それはあくまで言い伝えだ。どんなやつなのかも、目的もわからない」
どんなやつか。俺は一応服装などならわかる。目的は分からないけどね。
「あの、怪しい男なら見かけましたよ。その人物なのかはわかりませんけど」
「なに!? それは本当か?」
シキさんに肩を掴まれる。揺らさないでええええええ。
「っ、酒場に行ったら話そうと思ってたんです。そいつ、黒いマントと黒い服を着てて……追いかけたら突然消えたんですよ。怪しいでしょ」
「確かに怪しいな……大臣、心当たりは?」
「いやぁ、なにせ外からくる人間は少なくないのでね。そこまでは把握できていませんな。現にあなた方の存在すら知らなかったわけで」
そうなると責められないよね。国の入口に兵士がいて持ち物検査するくらいの警備だったし。
でももう少し厳重にした方がいいと思うな。
「そうか……とにかく混乱を避けるために皆に伝えるのはやめた方がいいだろう。大臣、協力してほしい」
「はい、なんですかな」
「いつになるかはわからない。今日かもしれないし、明日かもしれない。だが確実に悪魔を利用した厄災は起こるのだ。いつでも国の兵士を戦いに出せるようにしてほしい。それに、国民の安全も考えなくてはならない、逃げ道を確保しておくといいだろう」
「ええ、それは当然手配しておきましょう。この国には悪魔像がありますから、厄災が起こるとすればそこでしょうし、兵士にはその付近を警備させます」
俺達を案内してくれた兵士さんはぎょっとしている。国どころか世界の危機なのだ。事前に知っていた俺が冷静すぎるのだ。普通驚く。
「ありがとう。こちらも主戦力としていつでも戦えるようにしておく。この国の王には……すぐに逃げられるようにした方がいいか。そこはそちらに任せるよ」
「承知しました。お話は以上ですかな? であれば私は早速兵士や騎士に伝達をしなければなりません故、ここを離れますが」
大臣がソファーに掛けられていた上着を羽織る。仕事モードという感じだ。驚いてばかりではいられないと言ったところだろう。なんて有能な、レフポ城の王様も見習ってほしい。
「ああ頼んだ。よし、私達も酒場に行こうか。国が少しでも協力してくれるならこれ以上望むことはない、私達は私達にできることをしよう」
「わたし必要あったんですかねぇ?」
「ははは、いてくれるだけでも意味はあるさ。少しでも人数が多い方が交渉は有利に進みやすい。少しずるいが威圧感は大事なんだ」
そうは言っても雷霆が槍になった時点で大臣ビビりまくってた気がするけど。それは黙っておこう。
この後は予定通りに酒場に移動だ。せっかく城に入ったのにたったこれだけで用事は終わりなのか。
こういう時RPGだとお城はとても重要な施設だろう。なのにこの冒険では、このストーリーではさして重要な施設ではないようだ。ソシャゲらしいといえばその通りなのだが、なんだか物足りなく感じてしまう。
* * *
「おい!!!! おせーよ!!!!」
酒場につくと、ガジットが席に座って待っていた。驚いた、まさか先に来ているとは。
なんて驚いてみたが、実際遅くなってしまったことには理由がある。単純に五人で悪魔像を見に行ったことと、アルマスと遊んだことで少しだけ遠回りになっちゃったんだよね。申し訳ない。
「ごめんごめん。それはそうと、なにか情報は集まった?」
「あ? ねぇよそんなの」
「えぇ……」
あれ、数時間ぶりなのになんだか今日はずっとこんなやり取りをやっていた気がする。
あ、イバルラだ。口調がイバルラに似てるんだ。いや、イバルラがガジットに似てるのか? いずれにせよ僕が一人称でも口が悪かったら似るんだなって思ったよ。
「では、情報交換会といこうか。ルーン、何かわかったことは?」
「そうですねぇ……よそから来た男が大量の結晶を買っていった、という情報くらいしか分かりませんでしたねぇ。ずっと宝石店にいましたから」
宝石店で結晶……魔術結晶とはまた違うのだろうか。これは個人的に後で調べておこう。
「へっ、オレと似たようなもんじゃねぇか。何の役にも立たなそうだ」
「うるさいですぅ!」
「いっで!」
ルーンさんを馬鹿にしたガジットが杖で殴打された。うわぁ痛そう、あの、木の杖の先についてる緑色の丸い透き通った石がガツンって当たってた。ぜったいいたい。
「では私だな。その前に聞き込みをして手に入れた情報だが……まず、最近この地域では珍しい地震があった。そして、最近風の流れが変わった。この二つだ。後はまあ、情報ではないがローレル城の協力を得ることができたくらいか」
「かなり大きいですよ。俺達だけじゃ国民を守るのに人数が足りませんから」
「それもそうだな。この先仲間が増えればその必要もなくなるが、今は人数不足だ。敵が複数いれば対処しきれなくなってしまう」
現地の兵士の戦力を借りる……国によっては力を貸してくれない時があるかもしれない。その時は自分たちの力でどうにかするしかない。国民を守りながら戦闘……難しそうだ。
「クルトは何を調べてたんだよ」
「俺は自称情報屋のショタエルフから話を聞いたよ」
「なんだそれ」
だってそうなんだもの。
生活できてないし、自称情報屋。
見た目、ショタ。
種族、エルフ。
故に! 自称情報屋のショタエルフ。プラス上から目線。嫌いじゃない。
「最初に商店街のおじさんに最近黒づくめの男をよく見かけるって聞いたんだ。それでその情報屋が知ってるって言うから聞いてみたら、突然消えるとかなんとか。その後にさっきみんなで見に行った悪魔像とかも教えてくれた」
「オレそれ知らないんだけど。え、仲間はずれ? マジかよやべぇなオレ可哀想だわ」
「あの悪魔像、怪しいですよねぇ」
「だな。今日は悪魔像の周辺を警備して時間を潰そうか」
今日やることが決まったのは嬉しい。あれやらなきゃこれやらなきゃは疲れるだけだ。先にやることが決まっていれば余計な心配は要らない。性格的にできることはやりたいなと考えてしまうから助かる。
「無視かよ。いじめ良くないと思うんだオレ。許せないよね。ってことでやけ食いするわ、すいませーんこんがりバーグ一つ!!」
「え、なにそれ俺も食べたい」
「やっぱ二つで!!」
「こんがりハンバーグ二つ入りまぁす! イエーイ!」
店員の言葉に店内にいた他の店員がイエーイと叫ぶ。なにその独特な注文読み上げ。
ガジットが注文をしたことにより真剣な情報交換の雰囲気から昼食モードに早変わりだ。いけない、考えれば考えるほどお腹空いてきた。ジャガイモないかなジャガイモ。
「あ、わたしも頼みますぅ。キノコのキッシュくださいー」
続いてルーンさんが注文する。キノコのキッシュ……キッシュは聞いたことがある。なんかケーキみたいに切り分ける食べ物だったはず。食べたらなぜか服がはだける漫画で見た。俺もお粗末とか言ってみたい。
「この国は風車で作る小麦粉が有名だったな……やはりパスタか」
「この後戦うかもしれないんですから、お酒は飲みすぎないでくださいね」
「なっ、わ、わかっている。ミートソーススパゲッティとワインをいただこう。今日は、一本で、我慢だ……っ!」
「絶体絶命みたいな顔せんでください……」
その後、俺がふかし芋、雷霆が卵焼きを追加注文。アルマスはこの世界でのお子様ランチ的なものを頼み、久しぶりのまともな食事会が始まった。
お芋、お芋美味しい……やっぱり冷蔵庫があるんだし食材は勝っておいた方がいい。誰も料理できないなら俺が料理を覚えようか。そう考えるくらいには旅において食事とは大事なことなのだ。
五日間、干し肉や塩漬け肉だらけの空の旅を体験した俺は料理を極めることを決意した。
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