第八話
酒場に戻り、再びパスタを食べ始めるイバルラ。あれを見た後によくそんな食欲がわくなぁ。
「あれはなんだ!!」
「なんだって、何が?」
「そこの女だ! 一見大人しいが一番凶悪じゃないか!」
ああ、そういえば普通の人は人が雷になったら驚くのか。完全に感覚が麻痺していた。毎日雷を見てきたからだろう。こんな状況なのに頑張って訓練したなぁと自分を褒めてしまう。
「んーまあ、なんというかこの子は特殊なんだ。それも含めて説明するよ。精霊、いる?」
まずは俺が特殊な人間ということを知らせるべく、精霊を呼び出す。ふわりと精霊が姿を現す。相変わらずボトルに入れたら回復できそうな見た目だ。
「白だと?」
『よろしくお願いします』
「喋った!?」
喋るのも俺の精霊だけらしい。この世界での精霊は主の魔力そのものが具現化したものらしく、意思を持つことはないそうだ。つまり俺の魔力は喋る。意味わかんない。
精霊も大事だが、これだけでは信じてはもらえない。なので、俺はガチャ……じゃなくて石を使った召喚についての説明や、雷霆が武器であることを説明した。目の前で雷になった雷霆を見たためイバルラは多少疑っただけで俺の言ったことを信じてくれた。
「雷霆とやらが武器ということは分かった。だが、あの黒ずくめの男を怪しいと思う理由はなんだ?」
「言い伝えだよ。仲間の騎士……じゃなくて剣士か。その剣士が何者かが悪魔を利用して厄災を起こさせ、世界を崩壊させようとしているって教えてくれたんだ」
「へぇ、随分重要な立場じゃん。それなら、少しくらいなら力になるぜ」
パスタを食べ終わったイバルラは、口元を拭きながらそう言った。
「本当? なら色々……」
「ただし、対価は支払ってもらうぞ」
「ええ……」
流れ的に世界を救う手助けをしてくれる奴だと思ったのに。
「当然だ。対価は金だな。僕の情報は役に立つぜ? いい条件だろう?」
「確かにお金は大事だけど、世界崩壊の危機なんだよ? なら、少しくらい協力してくれてもいいじゃん。何て言ってみたり」
「甘いな。それだけ重要な役割なら、高い金を支払ってでも情報を買うと思ったんだ。僕にも生活がある」
「ですよねー」
生活か……ん? そういえば、イバルラってお金じゃなくて昼飯を要求してきたよね。あの時お金を要求すれば楽に終わったのに。
本人がそれほど有用な情報じゃないと思っていたのか、それとも、交渉する時間も惜しかったのか。
思えば、パスタも話をする前にがっついていた。お腹が空いていた? 空腹だったから交渉の時間を減らすために直接食事を要求した?
「もしかしてさ……お金ないの?」
「えっ……いや、べ、別にそんなんじゃねーし? か、金は腐るほどあるし? ほ、ほら。僕長寿のエルフだぜ? そんなことねーし!!!」
ビンゴ。図星である。
「ならさ、仲間になってよ。仲間は増えた方が心強いし、お金の心配も要らないし。どう?」
「嫌だね。人間のヒモになるつもりはないし、世界を救おうとも思わない。僕は情報を売って生きていくんだ。安定した収入を得るために必ずお得意様を見つけてみせる! どんな手を使ってでも!」
「なにその無駄な情熱」
背後に炎が見える。物凄い情熱だ。そしてお得意様を見つけてみせるってことは現時点でお得意様はいないってことだ。いたら金欠になんてなってない。
「つーわけで客にならないなら話は終わりだ。色々と気になることはあるが、僕はお前に悪魔像の場所を教えたら帰らせてもらうよ」
「わかった。じゃあ早速行こうか」
雷霆にアイコンタクトして立ち上がる。どのくらい遠いかはわからないが、お昼まではまだ時間あるし、その像の周りを調べてみんなで話し合おう。流石に情報ゼロっていうのは申し訳ないし。
会計をしようとしたとき、イバルラに首元を掴まれた。
「待て。悪魔について教えてやるから持ち帰りのパンを買え」
「へい……」
テイクアウトで、では通じそうにないので普通にパンを買う。テイクオフではない。テイクオフができるのはどちらかというとエルフであるイバルラだ。
* * *
場所は意外と近場で、商店街を抜けた先の中央広場。大通りをまっすぐ進むとローレル城に行くことができる。今頃シキさんはあの城で頑張っているのだろうか。
そんな広場の中心には、大釜を持った女性の像が設置されていた。よく見ると悪魔の羽も生えている。
「あれが、悪魔?」
「そうさ。悪魔ベルフェゴール。元々は嵐の神であったとも言われている」
「作り話だーって馬鹿にする割にはよく知ってるよね」
「……まあ、一応この国の生まれだからな。長く生きてたら何度も耳にするんだ。それに情報屋は知識が商売道具なんだぜ? それくらい知ってる」
ベルフェゴールか……聞いたことあるな。有名な悪魔だったよね、色々なゲームでベルフェゴールってキャラクターを見かけた記憶がある。
「嵐の神が悪魔になったってことか……神様相手か、戦えるのかなほんとに」
「私は神の武器、つまり神器です。相手にとって不足はないかと」
「そうだったね。その時はよろしく」
この国の悪魔がベルフェゴールってことは分かったけど、肝心の黒ずくめについては何もわからないな。
「まさか悪魔と戦うのかよ。やめといた方がいいぜ? 聞いた通り風の悪魔だ、人間のお前が勝てるわけがない」
「やってみなくちゃわかんないでしょ。それに、やるしかないんだ。戦わなかったらただ世界が壊れるのを見届けるしかない。戦って世界を救えるかもしれないならそれが例え無茶でも無謀でも戦うよ、俺は」
すでにそれなりの覚悟はしてきている。主人公? それがどうした、やりようによっては死ぬんだ。そんなの雷霆を召喚する直前に体験したし実感した。戦う理由? 死にたくないからだ。死にたくないから、死ぬ気で戦うんだ。
そう気持ちを固められたのは、俺が冒険が好きだからだろう。きっと俺は現実世界でも大人になったら旅をするんだ。それがある種の才能だから。
「変な奴だな。他に聞きたいことは?」
「悪魔について、他に詳しいことは知ってる?」
「知ってるけど、特に必要ない知識のほうが多い。まあ物語の中でのベルフェゴールの悪逆なら教えてやってもいいぜ」
悪逆なら、ベルフェゴールの攻撃方法に組み込まれているかもしれない。運営が攻撃を設定しているのなら、元ネタである本物のベルフェゴールの話を採用していると考えるべきだ。
まあ全く関係のない美少女キャラが悪魔の名前ってこともあるから、一概にそうとは言えないけど。
「戦いのときに役に立つかもだし……一応教えて」
「おっと、流石にこれは有用な情報っぽいから高く売るぜ」
財布の中を反射的に確認する。うわぁ少ない。情報って高いらしいしここで買うのは勿体ないな。
「じゃあいいや。頑張って調べる」
「そか。その気になったら買ってくれよ。それじゃ、パンありがとな」
パンの入った袋を掲げながら空を飛ぶイバルラ。羽があまり動いていない……あの羽は羽の意味があるのか。
あれか、羽に飛行の魔法とかが掛かってる的な奴か。どっかのアニメで見たことがある。妖精はみんな羽があって飛べる世界。あの世界もゲームだしこの世界でもそんな羽があってもおかしくない。
人の作ったファンタジー世界はとても生きやすいものだ。実際の中世とか行きたくない。
「いいなぁ、空飛べたら楽だよねー」
「マスターは数日空の上で生活していましたよね」
「亜空船と自分自身では飛行のベクトルが違うんだ」
「そんなものですか」
ちなみに雷霆は飛べる。雷だからね、当然だよね。
「あ、クルトさんと雷霆ちゃんですぅ」
空を飛ぶエルフを眺めていると、大通りから歩いてきた人物に声を掛けられた。ルーンさんだ。
「どうも」
「あれ、ルーンさん買い物は終わったんですか?」
「はい、やっぱり風の国なので風属性の魔術結晶が多かったですぅ」
「よかったですね」
魔術結晶とはなんだろうか。まあなんとなく予想はできるが、気になる。ルーンさんの話を聞いてしまうととても賢くなってしまう。割と聞き入ってしまうから。ここは我慢だ。
「もう酒場行きますか? ちょっとだけ早いですけど」
「んー……お城にシキがいるかもですし、お城に行ってみませんかぁ? 加勢にもなりますしぃ」
「お城ですか。いいですね、行ってみましょうか」
お城といえば、俺はレフポ城しか知らないんだよな……そもそもあの城自体よく知らないし、王様のせいでいい印象はない。
この国は木が沢山生えていて綺麗だ。城の周りにも植物が多く生えている。マイナスイオンが豊富そうな城だなと思いつつ、俺はルーンさんと一緒にローレル城に向かうのだった。
「そういえばガジットは……?」
「どうせ鍛冶屋か金属店ですねぇ。役に立つ気がしないので加勢は必要ないですぅ」
地味に酷いなと思うクルトさんなのでした。
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