第五話

 特に買うものもないし船で待機。するつもりだったのだが、シキさんとルーンさんに誘われて、俺も食料の買い物に付き合うことになった。

 船から降りてカギを使う。透けていた地面が元に戻る。元の空間に戻ってきた。


「あれぇ? 船が見えますよぉ?」

「ほんとだ」


 ルーンさんが亜空船が消えずに見えていることに気づく。これ、知らない人に取られたりしないのだろうか。やはり俺が一人残るべきでは。


『この船は亜空間に訪れた経験のある者だけが見ることができます。亜空間に行かない限り乗ることはできませんが』

「なるほど、それなら安心だ。では行くとしようか」


 しばらく使わなくなるのでカギを袋の中に入れる。そういえば、召喚に使う石はまだいくつかあったな。買い物が終わったら召喚をしてみようか。中心に魔法陣が描かれた召喚ルームみたいな部屋があったし、あそこで試してみよう。


 平原から街に移動し、買い物をする。こういう世界での食糧と言えば、パンだろうか。冷却魔術を使用した冷蔵庫があるとはいえ、やはり保存食を中心として買った方がいいだろう。


「塩漬け肉と、干し肉をくれ。なるべく大量にだ」

「お、騎士さんじゃないか。すぐに準備しよう。しかし、船旅でもする気かい?」

「まあ、そんなところさ。少ししたら取りに来る」


 もうシキさん一人でいいんじゃないかと思えたが、運ぶ人が必要か。俺、シキさんより力あるとは思えないんすけど。

 そんなこんなで、パン、酒と買い物を進めていく。途中で馬車を借りることになったのは予想外だ。すべての旅の食糧を買うのではないかという勢い。まあ何日かかるかわからないからなぁ、なるべくたくさん買いたいのだろう。元騎士だし、お金持ってそうだな。


「酒ばっかだ。水は買わなくていいんですか?」


 馬車には樽に入った酒が大量に乗せられていた。俺酒飲めないし、シキさんとルーンさんとガジットが飲むのだろうか。シキさんとガジットは分かるが、ルーンさんはあんまり飲まなそうだな。というか俺と歳近そうだし。


「酒のほうが保存がきくからな。それに、水は魔術でどうにでもなる。酒は私が飲みたいだけだ」


 やはりあなたでしたか。こういうお姉さんキャラは酒豪って相場が決まってるからね。


「じゃあ、普通の肉とか野菜とかはどうするんです?」


 素朴な疑問を投げる。せっかく冷蔵庫があるんだし料理用の食材を乗せてもいいだろうに。塩漬け肉を使うのもいいけど、やはりしっかりとした料理なら普通の肉を使いたい。


「コルソくん。君は料理は得意かな?」

「いえ、特には」

「そうか。残念ながら私達の中に料理が得意な者はいない。後は、わかるね?」

「理解しました」


 それ、旅をするにあたって致命的じゃないだろうか。料理ができる人、いないかなぁ。

 今じゃなくても、将来的には料理ができる人を仲間にしたい。あ、もしかしたら召喚した武器に料理が得意な奴がいるかもしれないな。出ないかな。


「わぁ、お茶が沢山ありますぅ」

「ルーンさんはお茶が好きなの?」

「はい! お茶って面白いんですよ、焙る時間が変わるだけで味が大きく変わったり――――――」


 突然早口になって語りだすルーンさん。好きなことの話題になると早口になって聞いていないことを語り始めるオタクみたいだ。今回の場合はお茶についてなのでそこまで苦ではないが、これが興味のないことの語りだったら聞き流すだろう。

 散々店にあるお茶を解説しながら語ったルーンさんは、正気に戻ったようでハッとすると、顔を真っ赤にしてすみませんすみませんと呟き始めた。可愛い。


「気にしてませんよ。買いましょうか」

「は、はい。そうですね、飲み物は重要ですし」


 飲み物も重要だが、食事も重要だ。なんせやる気にストレートに繋がる。空腹は敵である。

 なんだかんだあり、食糧を無事買い終えた。馬車を借りたのは正解だったようで、とても三人では運ぶことのできない量だった。

 ルーンさんが家にある本を持っていきたいとのことなので、本も船まで運ぶことになった。荷物を全て船の前に降ろし、そこから一つずつ船内に運び出す。重労働だ、引っ越し屋さんってこんな感じなのだろうか、もっと給料上げてもいいと思うよこういう仕事には。


「はあああ……もう、動きたくない」


 全ての作業を終えて、甲板に仰向けに倒れる。息切れがすごい、こんなに疲れたのはいつぶりだろうか。健康のために毎日やってる筋トレしてもこんなに疲れないよ。


「お疲れ様ですぅ。すみません、わたしのも手伝ってもらっちゃって」

「だいじょぶだいじょぶ、一応男だし」


 しかしこういうので力仕事は男がして当然って感覚、男が言う分にはすごい肯定できるんだけど女が言うとなんか納得がいかないんだよね。なんでだろうね。


「さすがの私も疲れたぞ。ガジットが帰ってくるまで休憩としようか」

「あ、そういえばガチャ……じゃなかった。召喚をしようと思ってたんですけど、見ていきません?」

「なにっ!? 見学させていただこうか」

「わぁ、わたしも見たいですぅ」


 ということで召喚部屋に移動する。

 袋の中身を確認すると、石が七つ入っていた。あれ、こんなに入ってたかな。俺が最初に確認した時には五つとかそこらだったのに。これもしかしてストーリーを進めたら石が手に入ったってやつかな?

 スタートダッシュボーナスが石五個って、あんまソシャゲ詳しくないけどサービス開始でこれは石しょっぱいのではないだろうか。最初の石が少ないのはストーリーで手に入る石が多いから? にしても少ない。最初は誰だってガチャしたいでしょうよ。


「精霊!」

『召喚ですね』


 石を三つ取り出し、精霊を呼び出す。即座に魔法陣が光り始める。


「おお、あれが魔法石か」

「綺麗ですねぇ」


 石を床に描かれた魔法陣の中心に置き、魔法陣から離れる。うっすら虹色に輝く石は魔法石というらしい。ソシャゲの石はガッツリ虹色の石というイメージがあるが、この世界での魔法石は世界観を壊さない透き通った虹色だ。こっちの方が宝石感がある。


『召喚を開始します』

「こい……!」


 雷霆を召喚した時とは違う、戦力を高めるためだけの召喚。

 できれば雷霆のような大当たりが出たら嬉しいのだが、ぶっちゃけそこまでレアリティが高くなくても、石のガチャというだけでこの世界では上位に来る強さの武器が出ると思う。さて、この世界のガチャの排出率はどうなっているのか。


 石が浮き上がり、発光する。やがて石は光のみとなり、青い光に包まれる。光は金色に変わり、増幅した。雷霆の時は金色の後に虹色になってから光が増幅していた。一つ少ないレアリティだろうか。

 光が収まり、召喚物が姿を現す。このシルエットは……剣だ。剣は姿を変え、人の形へと変化していく。

 光の中から姿を現したのは、光沢のある水色が混じった銀髪の小さな子供だった。女の子だろうか。


「初めましてマスター! 鋼鉄の剣、アルマスだよ! 召喚してくれてありがとう!」


 てっきり武器は皆雷霆のようにあまり感情が出ないものだと思っていたが、どうやら違うらしい。

 元気すぎてこっちが疲れるくらいだ。


「う、うん。よろしくね」

「ここが拠点かー、探検してきていい??」


 探検、俺もゆっくりだが船内を見て回ったからわかる。あれは探検だ。

 あまりにも広いので子供が歩き回ったら迷子になってしまうのではないかというほど。俺は忠告もかねて軽い脅しをすることにした。


「いいけど、すっっっっっ……ごく、広いぞ?」

「へーき! ボク疲れないから!」


 そう言い残すとアルマスはタタタッと外に飛び出していった。既視感がある、そう思って思い出してみた。ガジットだ。あの勢いはガジットに似ている。

 しかしアルマスの好奇心は子供だからこそのもの。ガジットは普通に大人なのだからあの好奇心はおかしいのだ。人生楽しそうではあるが。


「本当の子供のようだな……そういえば、光の中で剣の形をしていたな」

「多分剣でしょうね。さっき言ってた疲れないってなんだろ」

『アルマスは水属性の研ぎ澄まされた鋼鉄の剣です。決して切れ味が落ちることがありません』


 俺が疑問をこぼすと、精霊がアルマスを解説してくれた。研ぎ澄まされた鋼鉄……単純に切れ味がすごいのだろう。あのテンションがずっと変わらないってことだ。癒しかな。


「だから疲れないのか。子供のテンションで疲れないってとんでもないな」

「ボクって言ってましたよねぇ。男の子でしょうかぁ?」

「今度会った時に聞いてみるとしよう。それよりクルト、もう召喚はしないのか?」

「うーん……どうせ戦力は多い方がいいし、回しましょうか」


 回すという言葉にシキさんとルーンさんの頭上にクエスチョンマークが現れた。ような気がした。

 うまく説明できる気がしないのでそのまま召喚と同じ意味だと理解してくれることを祈る。


「もう一度、召喚!」

『召喚を開始します』


 三回目ともなれば慣れたもので、もう何が出るかなという軽い気持ちで召喚を開始する。

 いつも通り魔法石が一つずつ浮かび上が…………らない! 魔法石は三つが全て合体し、一つの大きな魔法石になった。

 新展開に驚きを隠せない。大きな魔法石は大きな光を出す。ここは今までと変わらない。

 光は青から金色へ変わる。残念ながらそこからさらに光ることはなく、そのまま光は増幅した。シルエットが……ない?


「あれっ?」


 光が消えると、そこには何もなかった。いやまて、何かが落ちている。


「これは……魔法石?」


 前まではうっすらと虹色がついていたが、今は透き通った黄色の宝石になっていた。手に取り、観察する。石の中に馬のような形をした何かが閉じ込められてる。見た目的には宝石版の琥珀というべきか。あれは虫だろうに。動物が入ってるとか斬新だな。


『それは召喚石です。中に入っている生物を一時的に召喚することができます』

「そんなのもあるのか……とりあえず今は使いどころないししまっちゃおうね」


 石が大きくなったといっても手のひらサイズだ。魔法石の入った袋に一緒に入れてしまおう。

 数が増えたら専用の袋を用意するかもしれない。


「武器ではないのか……」

「そうですねぇ……って、シキはアルマスを装備できるじゃないですか!」

「そ、そうだな。すまない」


 恐らくだが、シキさんの武器はガチャから出たもの。運よく強い武器が出たのだろう。


「召喚も終わりましたし、ゆっくり休みませんか」

「そうしようか」

「ガジット何してるんですかねぇ」

「どうせ自力で鍛冶の道具を運んでいるのだろう。馬車で拾えばよかったか。まあいいか、面倒だ」

「ですねぇ」


 馬車はもうすでに返してしまっている。今から借りるのも面倒だし、疲れている状態でまた荷物を運ぶのも嫌だと判断したのだろう。俺も嫌だ、馬車を借りるという選択肢を思いつかなかったガジットが悪い。

 それから数十分、俺達はガジットと雷霆を待ってゆっくりと会話を楽しむのだった。

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