第四話
腕試しも終わり、本来の目的である亜空船への移動をすることになった。精霊に頼んで案内をしてもらうが、精霊はなぜか移動せずともここから行けますと言い出す。上を見ても綺麗な青い空があるのみだ。なに、亜空船は貴方の心の中にあるのですとか言い出すの?
「ここのどこに船があるのさ」
『もうすでに目の前にあります。皆さん、これを』
精霊はそう言うと、身体を光らせた。
手に違和感を感じる。見ると、紫色のカギが握られていた。シキさんたちもカギを受け取ったようだ。
『亜空間へのカギです。皆さん、通常のカギと同じように回してください』
「こうか?」
全員がそれぞれカギを回す。すると目の前の空間が紫色に光りだした。目を細めながら観察する。少しずつ光が弱まっていき、中から大きな船が現れる。
景色に違和感を感じ船から視線を外すと、地面が半透明になっていることに気づいた。ここが亜空間……?
おかしな空間に来てしまったことにより、改めてファンタジーの世界に来たという実感が湧く。
『亜空船の近くでカギを使うと、亜空間へ行くことができます。もう一度カギを使うか、カギを持たずに船から離れると元の空間に戻ります』
「亜空間……なるほど、これは不思議な空間だ」
シキさんがそう呟いた。
夜のようで夜ではない、地面が薄く透けている空間。どこを見ても星が見えるが、真っ暗ではない。まるで宇宙空間のようだ。
しかも、船なのに海の上ではないのだ。羽やプロペラがついているので、おそらく空を飛ぶ船、飛行船だ。今はまだ空を飛んでいないのであまり怖くはないが、飛んだら相当な高さになるだろうし、高所恐怖症にはきついな……俺は違うけども。
『亜空船は通常の飛行船よりも少しばかり速いです。が、それでも長い空の旅になりますので、食料の備蓄をお勧めします』
「移動がメインか、結構暇になっちゃうな」
食料についてはこの後買い出しに行くとして、どのくらいの食料が必要なのか。それも気になる。必要以上の食料を乗せたとして保存ができるかはわからない。冷蔵庫みたいな物があればそこは気にしなくてもよさそうだが。
とりあえず船に乗り込もうと階段に足を掛ける。
「その時間を使って作戦会議ができるだろう。それよりも、リーダーについてだったな。どうだ、やる気はあるか?」
「……俺がリーダーって、似合わなくないですかね?」
「似合う似合わないではないさ。世界の運命は君に掛かっていると言っても過言ではないんだ。どのみち、君にはそれだけの覚悟が必要になるだろう。それくらいでないと、世界を救うことはできないと私は思う」
「……世界を救う、ですか」
「ああ。別にすぐに答えを出せだなんて言わない。気が変わったらでもいい。ガジットもルーンも文句は言わないさ」
そう言いながらガジットさんとルーンさんの見るシキさん。二人とも頷いている。
「むしろ、案外ドジっ子なシキより向いてますもんねぇ」
「ドジっ子言うな!」
ドジっ子なんだ……。
世界を救うのならそれくらい背負わないとやっていけない、か。確かにそうかもしれない。でも、俺がそれを覚悟するまではまだ時間が必要だ。
「とりあえず、考えておきます」
「それでいい。よし、問題は次に行く国だな。教えてくれるという話だが、一体どう知らせてくれるのやら」
『舵に鍵穴があるはずです。クルトさん、確認してください』
「あ、ああ。分かった」
舵は……甲板にあるあのハンドルだろう。某海賊漫画でもよく見るあれだ。
そのハンドルの中心に、精霊の言っていた通り鍵穴がある。試しにカギを入れてみようか。
カギを入れひねった瞬間に、ガガガと音を立てて船が動き出した。プロペラが回っている。俺は慌ててカギを引き抜いた。それと同時にプロペラの動きも止まる。
「なんか勝手に動いたんだけどなにこれ!?」
『自動操縦システムです。自動で目的地に向かいます。舵を掴めば自動操縦が止まり、自分で操縦することができます』
「そのままにしとこう」
自動操縦システム、カギを使って動かす。車かな?
勝手に目的地に向かう、つまり行くべき悪魔がいる国へ向かうということ。行き先がわかるのはありがたいな。
「こいつぁすげぇ船だな。オレ、ちいと船内を探検してくるわ」
「迷子にならないでくださいねぇ?」
「なるか!!」
ガジットさんが船内の探検に乗り出した。俺も一応持ち主として把握しておこうかな。こんなに大きいのだ、かなりの時間がかかるだろう。
「これは準備が必要だな……とりあえず食糧庫の確認をしてから食料を調達しに行こうか。確認ついでに、船内を歩き回ってみてもいいな」
「いいですね。ルーンさんも一緒にどうですか?」
「いいですよぉ」
よしそれじゃあ船内を探検だ。そう思った瞬間、あることに気づく。雷霆がいない。
「あれ、雷霆は?」
「ここに」
「うおっ!?」
雷と共に雷霆が現れる。突然真横に現れたので声を出して驚いてしまった。
「姿を消せるのか……もしかして武器化してた?」
「ええ。私は雷そのものでもありますから。それよりも、亜空間では私の力が変動するようなのです。自分の能力を確かめたいので自由行動の許可をお願いします」
「あ、うん。構わないけど、船壊さないように気を付けてね」
「ええ、心得ています。それでは」
それだけ言うと、雷霆はピシャァンと雷になり、どこかへ行ってしまった。相変わらず凄いなぁと思う反面、機械的な行動をする雷霆が心配になった。
本来彼女は武器。武器に肉体が宿り、感情が宿った姿だとしたら、もっと人間らしくしてほしく思う。武器だろうと見た目が人なのだから。
暗い想像はするものではない。気持ちを切り替えて、俺はシキさん達と共に亜空船の船内を歩き回った。
* * *
探索中に遠く離れた場所で雷が轟いていて三人そろって雷霆のチート級の強さに驚いていた。あれだけ目立っていたのだ、ガジットも別の部屋から見ていたに違いない。
なんだかんだあり、船内を探索した感想は一つだ。
「ひっろいここ!」
そう、広いのだ。船そのものが一つの村のような広さと部屋の数。さながら空中都市だ。甲板は広場のようになっており、建物を建設してもまだまだ余裕がありそうなほどの広さだ。
これが俺の所有物……? ぶっちゃけわくわくが止まらない。ドキがムネムネしてきた。
「思った以上だったな。四人ではあまりにも広すぎる」
「しかも設備も整ってますしねぇ」
設備も整っている、というのは通常の街にあるような施設のことだ。通常の部屋はもちろん、鍛冶ができる鍛冶部屋や戦闘訓練ができるだけの訓練場までそろっている。正直すべて把握できていないが、少なくとも食料さえあればこの船で一生遊んで暮らせるだろう。
ちなみに今、その食料を調達しようと思った矢先にガジットが探索を終えたため、買い出しの前に休憩スペースでお茶を飲みながら簡単な作戦会議を行っている。お茶はルーンの持っていた物だ。美味い。
「んでその六人の悪魔を利用した厄災だけどよ、どうやって止めんだよ」
ガジットがそう言う。それはなんだかんだ気になっていた。
四人の中で主力であるガジットとシキさんには重要な内容だろう。鍛冶屋が主力というのはいかがなものか。強いのは確かだけど。
「それは行ってみなければわからないさ。もしかしたら、その悪魔と戦闘をすることになるかもしれない」
「悪魔と!?」
思わず声を出してしまった。悪魔と戦闘か……まあ、厄災とか言うくらいだから悪魔が直接関わってもおかしくないか。
「でも、そうなっても雷霆がいれば何とかなるだろ? 手加減しまくってあれなんだからよ。そうなりゃオレ達の仕事はその悪用しようとしてる奴らを探して倒すだけだ」
「それも役目の一つだが、悪魔に対抗できるのは人間だけだ。悪魔が敵対した場合、クルトが召喚した武器を使い私達が戦うことになる。言い伝えでもそう聞いている」
「お前の言い伝えポンポン出てくんなほんと」
俺も思ってた。この際その言い伝えを全て話してほしいという気持ちもあるが、全ては理解できないだろうし本当に大切そうな情報だけでも知りたい。いや、やるべきことは大体わかるから助かるんだけどね。
「もしそうなったら、雷霆を使うのはシキさんになりますかね……」
「何を言っている? 君が雷霆を装備するに決まっているだろう」
「俺!?」
真剣にシキさんが雷霆を使って戦っている姿をイメージしていたため、大きく動揺してしまう。そうか、俺か。俺が戦う……それは戦力になるのだろうか。
「ああ、あまり言いたくないが君は弱い。強くなるべきだ。少なくとも、言い伝えでは君も戦うことになっていたよ」
「な、なるほど。頑張ります」
まあ、戦わない主人公のほうが少ないもんな。俺自身戦いたくないわけじゃないし。言い伝えだし。
正直、恐怖よりもわくわくが勝っているのだ。そんな自分が怖い、俺はいつから主人公みたいな性格になったのだろうか。いや、現実世界だとこういう気持ちになる場面がなかっただけで元々こういう性格だったのかもしれない。
「とりあえず方針は決まったし、自由行動だな。各自必要な物を買うも良し。持っていきたい物を運ぶも良しだ。準備が済み次第、出発する」
シキさんがそう言うと、ガジットが真っ先に外に出た。何か用事があるのだろうか。
俺も何か準備しようかなと思ったが、そもそも俺が持っている道具など無いことに気づく。準備する必要がないから、俺は船内で待機かな。そう思いながら、俺はお茶を飲むのだった。
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