第三話

 救世主くんと言われ、自分が主人公という立場なのだと再確認する。

 俺はこれからこの仲間たちと共に世界を救うのだ。そう考えるとワクワクする反面覚悟を決めないといけないという気持ちも高まる。


「オレはガジットだ。鍛冶屋……店がないから鍛冶職人だナ。よろしく、救世主!」


 ガジットという男がハンマーを掲げながらそう言った。危ない危ない。


「よろしくお願いします、ガジットさん」

「敬語はいらん」

「よろしく、ガジットさん」

「さんもいらねぇ」

「よろしく、ガジット」

「それでいい、それでいけ」


 予想通り変な人だな。知らない人にいきなりタメ口とか慣れないにもほどがある。


「わたしは魔術師のルーンですぅ。よろしくお願いしますねっ! 救世主さん!」

「よろしく。あと救世主じゃなくてクルトでお願いします」


 おそらく、騎士が俺を言い伝えで知っていて、救世主と呼んでいたのだろう。悪いが救世主は何も知らないんだ。むしろこの三人の方が知っているまである。


「あの、怪我してますよぉ? 治させてください! 治します! 今治します!」

「お、おお……ありがとう」


 ほわほわしてかわいい子だと思っていたが、何やら様子がおかしい。怪我をしているというのは、雷霆が治癒をした肩だろう。

 若干残っていたピリピリ感が消え、傷痕からは何も感じなくなった。雷霆以上の治癒術、流石主人公の仲間というべきか。


「ルーンは回復させるのが好きなんだ。気にしないでくれ。ああそうだ、名乗り忘れていたな。私はシキ。つい最近までレフポ城の騎士だったのだが、この冒険のために城を出るとこにした身だ」

「ああ、それで」


 説明では騎士だったが、ここでは元騎士になっている。元騎士にしなかったのは面倒だからだろう。なんて迷惑な。主人公でよかった。


「今更ですけど……お隣の彼女は誰なのですかぁ?」


 ルーンさんにそう言われ雷霆の存在を思い出す。そういやぴったりついてきてたんだった。一言も声を出さないのやめてくれませんかね。


「ん? えっと、雷霆っていう子です」

「よろしくお願いします」

「彼女が例の武器なのか! すごいな……人間にしか見えないぞ」


 興味津々なシキさん。ガジットとルーンさんも気になるようで、ジロジロと観察している。

 というか…………武器?


「あの、武器ってどういうことですか」

「ん、なんだ。知らないのか? 君は人の姿になれる武器を召喚することができるのだろう」

「召喚は分かりますけど、武器? 雷霆って武器なの?」

「はい。私は雷の槍。今ここで武器化することも可能です」

「そうだったのか……」


 教えてくれてもよかったじゃん……確かにこういうソシャゲのガチャってキャラクターとか武器とか出るらしいからね。キャラと武器が同じとか良心的だな、分ければもっと稼げそうなのに。


「失礼。君はどこまで知っているんだ。あまり驚かないから、私達のことは知っているものだと思っていたんだが」

「えっと、じゃあ話しますね。実は――――――」


 まず俺から説明をする。俺は日本や転移といった部分を濁し、世界崩壊を予感したことやシキさんたちを知っていることを話した。さらに、レフポ城から事実上の追放をされたこと、雷霆を召喚した時の事なども話した。


 代わりに、シキさんも俺についての言い伝えなどを話してくれることになった。

 まず、俺が言い伝えの救世主だとわかった理由を聞かせてくれた。俺の隣に浮いている白い精霊は俺だけの特別な精霊らしく、それが救世主と決めつけた理由らしい。精霊は六種類存在し、火、水、風、土、闇、聖で分けられる。色は本人の属性によるのだという。白ってことは無属性ってとこかな? 弱そう。


「次に、世界崩壊の内容について話そう。言い伝えでは六つの国の悪魔を利用する者が現れ、厄災により世界が崩壊、という内容だ。利用される悪魔の順番は救世主の持つ船が知らせてくれる、という言い伝えなのだが……」


 利用する者、つまり誰かが悪魔を利用して世界を崩壊させようとしているということ。そいつ、もしくはその団体を止めれば解決するのだろう。

 というか悪魔って、嫌な予感しかしない。


「船なんて持ってないですよ……精霊、知ってるか?」

『はい。亜空船のことですね。ご案内しましょうか?』

「知ってるなら早く教えてくれよおおおおお!!!」


 思わず叫ぶ。この精霊、肝心な時にしか役に立たないタイプなのではないだろうか。

 いや、肝心な時に役に立つならそれでいいか。肝心な時だけ役に立たないよりも百倍マシだ。


『聞かれなかったので』

「以後気を付けます」


 そうか、そうだよな。何かあったら質問した方がいいよな。学校の先生もそう言ってたもんな。まあ俺、一回も先生に質問したことないけど。

 他の人も質問してないと自分も質問しにくくなるよな。だって恥ずかしいんだもん。むしろ躊躇いなく質問できる奴はすごいと思う。それだけコミュ力あったら社会に出てから優位に立てそうで羨ましい。


「じゃあ話し合いはその亜空船? でした方がいいか。船で移動もできるという話だし、そのまま国へ直行した方がいいだろう。ガジット、ルーン、それでいいな?」

「全部お前に任せる。オレは考えるのが苦手だ」

「わたしも任せますぅ」


 二人は全てシキに任せるようだ。それだけシキさんを信用しているのだろう。そんな中に、突然現れた俺が入り込んでよいものなのかと不安になる。


「シキさんがリーダーなんですね」

「ま、まあ、メンバーを集めたのは私だが……むしろ、君の方がリーダーと呼ばれるべきだろう」

「え、どうしてですか」

「雷霆さんの所有者は貴方じゃないですかぁ。荷が重いなら、シキと二人でリーダーになるのはどうでしょうかぁ?」

「まあまあ、それも亜空船に行ってからだ」


 シキさんは落ち着いてまずは亜空船に行こうと提案する。

 俺はと言うと、リーダーという立場について考えていた。

 主人公ならば、確かにその立ち位置がふさわしいだろう、だが、俺は一般人。リーダーシップがあるわけではない。


「亜空船に行く前によぉ、ちと腕試ししねぇか? いや、別に偽もんだと疑ってるわけじゃねぇんだけどさ。クルトと、雷霆だったか? 二人の実力が知りたい」


 ガジットさんがそう提案する。腕試し、仲間の強さを知っておきたいと言ったところか。


「さっき言った通り雷霆はすごく強いけど、俺はまともに戦闘もできないんだ。だから、戦うなら雷霆とになる」

「それならお前は指示出しだな。この街の近くには平原があったはずだ、行こうぜ」


 こうして、腕試しとして戦闘をすることになった。

 指示出しか、魔物に襲われていた時はとにかく敵の殲滅だったけど、人間相手の戦闘だと訳が違う。一気に雷で攻撃するわけにもいかない。

 どう戦わせるか考えながら、俺達は平原へ向かった。


* * *


 場所はレフポ平原。そよ風が心地いい草原だ。

 そんな場所に俺と雷霆、向かいにはガジットとシキさん。


「オレとシキのペア、そっちはクルトと雷霆のペアだ」

「ちょ、えええ!?  二人同時!?」

「聞いた限り手加減しても余裕だろ? 問題はないはずだ。だろ、雷霆さんよ」

「ええ。ですが、私は今回の戦闘、雷を使いません」

「……え?」


 雷を使わない? 雷を使わないということはつまり、雷を使わないということ!?

 やばい混乱してる。いくら強いとはいえ、俺が見た雷霆の強さは雷によるものだ。雷霆の手には雷を宿していない短槍が。信頼していないわけではないが、相当な実力者であろう二人を相手に短槍一本で勝てるのだろうか。


「雷を使わずに倒します。移動速度も下がりますから、マスターは指示をお願いします」

「やるしかないか。よし、わかった。任せとけ」


 腕試しであって、本当の殺し合いではない。だから、少しくらいチャレンジしてもいいだろう。少しくらいは主人公らしくしてもいいじゃないか。


「頑張ってくださいねぇー」


 少し離れた場所からルーンさんが声を掛けてくる。あの人は基本治癒の魔術を使うため戦闘はあまりしないそうだ。


 雷霆の後ろに俺が、雷霆の数メートル先にはガジットとシキさんが立っているという状況。いつでも戦闘を開始できる。


「勝ち負けは寸止めで決めよう。急所に武器を当てればそれでいい。戦闘開始は……この石が地面に落ちた瞬間にしようか。それでいいな?」


 ガジット、俺、雷霆はシキさんの提案に乗る。石が落ちたら、か。まるで決闘のようだ。

 シキさんが石を放ると、俺を含めた四人が腰を落とす。そして武器を構えた。

 風の音がよく聞こえる。それほどまでに平原は静まり返っていた。

 石が落下を始める。草に石が触れた瞬間に声を出し始める。


「いけっ! 雷霆!」

「はい!」


 今度は目に見える速さ。まず先制してきたシキさんの剣を受け止めるかと思いきや、思いっきり弾き飛ばした。なんというパワーだ。


「オラァ!!」

「ふっ」


 ガジットは戦う鍛冶屋、ハンマーを使っている。その重々しい一撃を雷霆は受け止め、横に流した。勢いそのまま地面を叩くハンマー。


「左だ!」


 弾き飛ばされたシキさんが反撃するべく回り込んで攻撃を仕掛けてくる。すかさず指示を出し、避けさせる。

 雷が無くても十分速い。普通だったらあんなに早く対応はできないだろう。


 シキさんが攻撃したことによりガジットが体勢を立て直す。シキさんも振り抜いた姿勢から、再び斬撃を繰り出そうとしていた。


「同時だ! 下がれ!!」

「はい!」


 指示を出すと、雷霆は同時に襲い掛かってくる二人から距離を取り、再び攻めの姿勢に戻る。


「先にシキさんを倒して、次にガジットだ」

「わかりました」


 短槍一つでは剣とハンマーを同時に受け止めることができない。ならば攻撃が速いシキさんを優先して攻撃しよう。


「はああああ!!!」


 キンッと金属が音を立てる。シキさんの剣を受け止めたのだ。


「飛べっ!!」

「なにっ!?」


 雷霆は高く飛びあがり、不意を突いた。武器が当たっているときに突然のジャンプ、シキさんは反射的に上を向く。太陽の光を直で見てしまったのか、動きが鈍る。

 ガジットが攻撃するよりも早く、雷霆はシキさんの首元に短槍を当てた。


「くっ……」


 さらにガジットが振り下ろそうとしていたハンマーを避け、楽々短槍を首元に当てる。二対一とはいえ、シキさんもガジットも重い武器を振っているとは思えない動きだった。

 最後はさくっと終わってしまったが、そこはやはり実力差。雷を使っていなくても人間離れした動きだった雷霆が強かった。


「やはり強いな……頼もしい限りだ」

「ああ。あと、クルトも思ったよりも指示に迷いがなかった」


 ガジットから評価された。指示に迷いがないか、俺からしたら最後の飛べ以外は、確実にこう動いた方がいいと思えた時に指示してたんだけど。


「あんなのでよかったのか?」

「余計な指示は出さずに必要な指示を出していた。十分及第点だろう」

「指示があれば迷いが無くなるため戦いやすくなりました。戦闘中はどうしても迷いができますから」

「そっか、役に立ってたのか」


 実際に戦っていた雷霆が戦いやすくなったと褒めてくれたため、少しは自身ができた。

 指示出し、もっと的確にできるようにしたいな。これ、思ったよりも集中力が必要だ。間違えたらどうしようだとか、そういうことを考えてしまうため緊張感がすごいのだ。


 短い戦闘だったが雷霆の実力を実感したガジットは、満足したようでさっさと亜空船行こうぜーと言い出した。元はと言えばガジットが戦闘したいからとここまで来たのでは、というツッコミは許されなさそうなので口には出さなかった。

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